〈ビームスT〉を語るうえで欠かせないアーティストが参加。
2021年、〈ビームスT〉は20周年を迎えるアニバーサリーイヤーへと突入した。その始まりを振り返ってみると、2001年、“ART FOR EVERYDAY”をテーマに、Tシャツをキャンバスに見立ててアートを表現していくことを念頭においてスタートした背景がある。当時、アートを着るという感覚は世間一般に浸透していたことではなくて、斬新で一風変わった存在として捉えられていた。これはもちろんいい意味での話。
そんな時代から20年が経ち、アートを着るということはファッションシーンにおいてもスタンダードなことになり、アートの世界でも個展でTシャツなどのグッズがリリースされるのも珍しいことではなくなった。いまのアート×ファッションの文化を築いたのは、〈ビームスT〉がスタート当初のコンセプトを大切にしながら、活動し続けてきたことが要因のひとつになっていると言っても過言ではないだろう。
そんな20周年の記念すべき始まりに実施するスペシャルイベント第1弾が、9組のアーティストを招致した合同アートショーだ。参加するアーティストは、花井祐介さん、長場 雄さん、ナイジェルグラフ(NAIJEL GRAPH)さん、河村康輔さん、山瀬まゆみさん、UND(FACE、SHINKNOWNSUKE)、HIROTTONさん、TAICHI WATANABEさん、Yabiku Henrique Yudiさんの9組。
このラインナップは、ゆかりのあるアーティストを一堂に会して「ビームスT 原宿」で合同アートショーを開催しよう、という企画からスタートした。会場には、〈ビームスT〉を語るうえで欠かせないアーティストによる描き下ろし作品の展示と、スペシャルアイテムが展開されている。
今後の10年を見据えてピックアップした2組。
今回のアートショーに参加する面々は、いまや誰もが知っているようなアーティストばかり。アート好きにも、ファッション好きにも知られている面々が揃っている。
しかし、長いキャリアを持つアーティストばかりなのかと言うとその限りではない。特にTAICHI WATANABEさん、Yabiku Henrique Yudiさんの2組に関しては、新進気鋭のアーティストとして、幅広く認知されてきているアップカミングなアーティストだ。これには、以前から若手アーティストをピックアップしてきた〈ビームスT〉らしい考えがある。
それは、未来の巨匠となるべくアーティストを発掘していくというのも〈ビームスT〉の担っている使命のひとつだということ。いままで〈ビームスT〉が初めて世の中に紹介し、世界的に認知されてきたアーティストは多い。アートショーに参加している花井さん、長場さんといった有名なアーティストも、世間に認知される以前からコラボレーションを行い、10年以上に渡ってポップアップやエキシビションを行ってきた積み重ねがある。
では、どのような視点でネクスト・アーティストをピックアップしているのかと言うと、バイヤーのセンスによるところはもちろん、現場のスタッフからの声もある。それがスタッフ同士の距離感が近い〈ビームスT〉らしい姿だ。
その過程として方向性がマッチしているか、求められている人に届くのか、ということはしっかりと議論される。いずれにしても、〈ビームス T〉はアートに特化したレーベルで、Tシャツをキャンバスと見立てて、そこにアートを施す。そして、そのTシャツを見てもらうことで、アートをより身近なものと感じてもらおうというのを念頭に置いていることは変わらない。
展示を通してアーティストの本質を伝えていく。
『ビームスT 原宿』のイベントでは、作品がプリントされたTシャツとともに原画が展示されることが多い。そこで初めてアートに触れたという若い世代に向けても、その魅力をファッションを通じて伝えられるような、そんな存在でありたいという願いを常に持っているからだ。
2001年頃はアート作品を趣味で買う人も少なく、アートギャラリーも敷居が高くて立ち寄り難い時代だった。そもそもファッションが好きな人にとって、アートはちょっと遠い存在のように感じられていた節もある。だからこそ、アートをアパレルショップで見せるということを選択したのだろう。
アーティストの本質はあくまで作品にあり、Tシャツをつくるために作品づくりをしているわけではない彼らと組むのなら、その本質的な側面もちゃんと見せるべきだというのが〈ビームスT〉の意図。その考えは20年前もいまも変わっていない。
ターニングポイントとなった〈セイハロー(SAYHELLO)〉との取り組み。
では、これまでの歴史を振り返ると〈ビームスT〉はどのような変遷を辿ったのだろうか。
2001年のスタート以降、しばらくの期間はアートを施したTシャツのみを展開し、1型ごとに作品解説のキャプションを掲示して、美術作品と同等の見せ方をしながら展示販売してきた。サイズもMのみのワンサイズ。プリントが美しく見えるように、すべてのTシャツが同じ形に畳める独自のTシャツ畳み機もあったそうだ。購入者にはオリジナルボックス、ショッパーへ入れて、アート作品をお客さんに手渡すようにTシャツを販売してきた。
10年ほど前まで遡ってみても、〈ビームスT〉はいまと比べて、ストリート発信のアートやカルチャーを取り上げることは少なかった。しかし、それが大きく変わるタイミングがあった。2013年に開催された〈セイハロー(SAYHELLO)〉のポップアップ(「SAYHELLO GIFT SHOP@BEAMS T HARAJUKU」)だ。
アンダーグラウンドな香りがして、ともすれば少し近寄りがたさを感じさせるストリートカルチャー。しかし、既存のTシャツボディにプリントを施して販売するというストリート由来の手法を用いながらも、〈セイハロー〉はそれをグッとメインストリームへと引き上げている存在だと、〈ビームスT〉は気づいた。それは、ちょうどシンプルなロゴものが大きな市民権を得てきたタイミングも追い風となった。そんな光景を目の当たりにしたことで、〈ビームスT〉の流れも変わっていく。これは現在の在り方へ向いてきたターニングポイントのひとつの起点だと言える。
この頃の流れを象徴しているイベントとして思い出されるのが、2016年に行った〈アンタイ・ソーシャル・ソーシャル・クラブ(ANTI SOCIAL SOCIAL CLUB)〉のポップアップだ。ご存知の人も多い同ブランドは、当時、世界的に絶大な人気があった。ショップには長蛇の列ができ、夕方には全アイテムが完売。店内に何も物が残っていないような状況で、営業を続けることになったという。このイベントは〈ビームスT〉の歴史のなかでももっとも長い行列ができたと、いまでも語り草になっている。
いままでと変わらないアートショーをやりたい。
そんな2010年代初頭に起こったストリートの動向は、〈ビームスT〉にも大きな影響を与えることになった。そこからストリート発信の前衛的なことも頻繁に取り上げ、〈ビームス T〉だからこそできるユニークなこととして、芸能やスポーツなども提案する形になっていった。
その結果、アートの他に、ストリート・スポーツ・芸能といった三本柱を持って展開していく現在の見せ方へとゆるやかに変化していく。ただ、どこかに偏り過ぎても〈ビームスT〉らしさがなくなってしまう。そのバランスには細心の注意を払っている。
こうした歴史を踏まえて、スタート当初よりテーマとして掲げてきたことをとにかくストレートに実践するのが、今回の合同アートショーというわけ。場所を変えたり、ウエア以外を展開したりもせず、いままでやってきたことが間違っていなかったと再認識するような、〈ビームスT〉の本質を伝えられるイベントを選択した。
このようにして開催している〈ビームスT〉20周年記念合同アートショー。アニバーサリーを飾る第1弾と銘打っているところを見ると、詳細は発表はされていないものの第2弾も想像できる。何かがあるはずだから、次の展開も楽しみに待ってみよう。