愛のことが理解できない、ところからの出発。

ー 思いつくままに自分の欲に忠実に行動する激情型の愛。山田さんは、この役にどうやってアプローチしたんでしょうか?
山田:愛役に決まる前に、原作の小説を読んだんですが、愛のことがわからなかったんですよね。「愛との戦いの日々でした」というコメントを出したくらい、共感とはかけ離れていました。私は、本来はその役の一番の理解者でありたいと思っているんですが、愛のことが嫌いというか、理解できなかった。
ー 役作りとしては苦労しますね。
山田:ただ、いつものやり方とは違うとはいえ、わからないなりに理解しなきゃいけないので、私も経験したことがあるものとして、愛の暴力性や衝動性を頼りに、それをどう愛として出していこうかという方向で考えました。


ー なるほど。一方、病気を抱えて、静かで受け身というキャラクターの美雪を演じた芋生さんはいかがでしょうか?
芋生:私は逆で、小説を読んだ時に、最初に共感したのが愛ちゃんなんです。でも、本のあとがきを読むと、光浦靖子さんが愛には共感できないと書かれていて、あれ?と(笑)。ネットで調べてみたら、愛ちゃんには共感できないという声ばかりで、おかしいなと(笑)。私としては、愛ちゃんのように、自分の愛し方がわからなくて、それゆえに人を傷つけたりとか、自分が動き出したことにも気づかないくらい、自分が見えていなくて迷っているというキャラクターに共感したんですよね。
ー なるほど。
芋生:愛ちゃん派だったわけですが、いただいた役は美雪だったので、あ、やばいと(笑)。そんなところに、コロナで緊急事態宣言が出て、家で自分と向き合う時間が増えたんですよね。料理や片付けをしたり、花を飾ったりする中で、自分で自分を満たす方法を見出して、ようやく美雪がこういう人なんだんだろうなとわかった気がしました。


ー 偶然にもお二人とも、最初はそれぞれの役に感情移入しづらかったと。役に共感できない時の理解の深め方についてもう少し詳しく教えてください。
山田:演じる役は、全て理解してやるのが当然だと思っていたんですが、愛に関しては通用しなくて、どうしようかなと。高校生という多感な時期ということや、彼女の欲望というものもわかります。でも欲望の向かう先が理解できなかった。おそらく愛自身もわかってないですよね? と監督に聞いたら、山田さんはどう思いますか? と。そんな風にして監督との会話の中で、理解できないと簡単な結論を出すのではなく、もっともっと考えることが必要だと思い至るようになりました。