実際に目で見て体感することで得られるインスピレーションがあるはず。
世界初のコンセプトショップである「Dr. Martens SHOWROOM TYO」。これを手掛けたのが、プロジェクトディレクターを務める、「PLAYFORD DESIGN」のユアン・プレイフォードさんです。これまでにさまざまな世界的ブランドのディレクションを担当してきた他、インテリアデザイナーとしてもたくさんのショップをプロデュースしてきました。そんな彼に今回のショップに対する想いを聞きました。

PROFILE
これまでさまざまなブランドのディレクターとして活躍する一方、インテリアデザイナーとしての顔も持ち、ファッションブランドのみならず「渋谷ヒカリエ」や「新宿ルミネ」「丸ビル」といった商業施設に入る飲食店のプロデュースを担当。現在は渋谷のエンターテインメント・レストラン「CÉ LA VI TOKYO」のエグゼクティブ・プロデューサーも務める。
ー ユアンさんは〈ドクターマーチン〉に対して、どんなイメージを持っていますか?
ユアン:中学生の頃から8ホールブーツを履いていて、ぼくはイギリスにルーツがあるんですけど、ロンドンのカムデン・タウンにある本店によく遊びに行っていました。そこの周りに昔から面白いマーケットがあって、そのなかでも一際目立つお店だったんです。それでずっと「マーチンってかっこいいな」と思っていました。
ここ数年はすごく革新的なブランドだという印象があって、このショップにあるコラボブーツのアーカイブを見たら分かりますけど、本当にいろいろなブランドとコラボレートしているんですよね。スニーカーではそうしたことって当たり前に行われているけど、ブーツでここまでファッションのトップブランドたちとコラボレーションできているところって他にないと思うんですよ。だから過去の素晴らしいアーカイブを世界中から集めて展示して見せることが重要だと思いました。
ー このコラボのアーカイブで特に気になる靴はありますか?
ユアン:個人的には〈アンダーカバー〉のコーデュロイの8ホールが好きですね。あとは〈フラグメントデザイン〉のシューズもいい感じですよね。TETくん(ダブルタップス)のやつも格好いいし。


ー 今回、ショップのディレクションを手がけるに当たって、どんなことを大事にしましたか?
ユアン:これまで〈ドクターマーチン〉が築き上げてきた反骨的なイメージはもちろん、音楽、アートといったカルチャーとの交わり、そしてファッションやデザインにおける革新性、それらの要素を上手く繋げることを特に大切にしました。そして〈ドクターマーチン〉が見据える新たなビジョンをどう表現するか、それが一番のテーマでしたね。
いろんなブランドとのコラボレーションもそうだし、さまざまなカルチャーのなかで生きるひとたち、そのコミュニティや、そこで生まれるヴァイブスやスタイルと〈ドクターマーチン〉は融合していて、それをひとつの箱に収めたのが「Dr. Martens SHOWROOM TYO」です。
90年代の原宿も同様に、ダブルネームやトリプルネームといった形でいろんなブランドが交わって新たな表現や価値を生み出し、それが世界中に広まっていきましたよね。つまりは、東京がコラボレーションという手法を世界のファッションのスタンダードにしていった時代なんです。「Dr. Martens SHOWROOM TYO」ではその手法でプロダクトだけではなく、ここにある什器や、店内の映像、そしてカルチャードキュメンタリームービーの「JUKEVOX JOINTS」のすべてを制作しました。それらを一緒になってつくってくれたのも、〈M&M CUSTOM PERFORMANCE〉のムラ君はじめ、原宿のカルチャーをつくり上げてきた先輩たちと90年代のヴァイブスと現代の融合を新鮮な形で表現している若手のクリエイターなんですよ。
ぼく自身も90年代に影響を受けた世代で、そのカルチャーを生で体験してきたし、その価値観やクリエイティブが自分のベースになっています。いま起こっている90’sのリバイバルはメディア主導でつくられたものではなく、若い子たちが自分で面白いカルチャーを見つけて、それがどんどん熱を帯びて自発的に盛り上がっていきましたよね。このショップではそうした若いアイディアも取り入れていて、ただ懐古的になるのではなく、新旧の価値観を織り交ぜながらいままでになかったものをつくっています。


ー このショップをきっかけにつくられた「JUKEVOX JOINTS」も、そうした新旧の価値観を紐解くドキュメタリームービーですよね。
ユアン:そうですね。90年代のカルチャーをつくり上げた重鎮たちから、いまを代表するクリエイターたちの声も混ぜながら、原宿から生まれたカルチャーがどのように刻まれて、いまどんな方向へ向かおうとしているのかを包括するものになっています。
原宿で生まれたカルチャーへのリスペクト、それがもたらしたいまのファッションへの影響はもちろんですけど、〈ドクターマーチン〉はそれ以前から存在しているじゃないですか。「JUKEVOX JOINTS」にも出演しているレジェンドたちも選んだ、アイコニックな靴なんですよね。だから原点として〈ドクターマーチン〉があって、その後90年代のカルチャーが生まれ、さらにそれがいまどのような進化を遂げているのか、それをひとつのドキュメンタリーとして発信しています。
やっぱりひとりで何かをするよりも、強い意思や面白いアイディアを持ったひとたちが共鳴した時に大きなムーブメントが起こると思うんですよ。「JUKEVOX JOINTS」を見てもらえれば、その真理をより深く理解できると思います。90年代の裏原文化はクールな若いスケーターやミュージシャンが数人集まったことで自然に生まれたものだし、彼らはお互いをリスペクトしながら新しい価値観を一緒に創り出し、カルチャーが唯一無二であると同時に強固なものへとしていきました。そうした彼らのエピソードや想いを感じ取ってもらえたらいいですね。
イギリスの〈ドクターマーチン〉のプロダクトチームも、東京のこうしたストリートカルチャーをユニークに思っているんです。裏原のひとたちの繋がりであったりとか、彼らが如何にして世界的なクリエイターになったのか、マニアックな話も知っていたりして日本をとても注目しています。それはリアルにストリートカルチャーが好きで、リスペクトしているからなんですよ。そんなプロダクトチームだからこそ、世界のトップブランドたちとさまざまなコラボモデルを生み出すことができるし、それは本当にぼくたちとしても嬉しいことですね。

ー オープンからまだ間もないですが、ユアンさんがこのお店に期待すること、お客さまに感じてほしいことはありますか?
ユアン:〈ドクターマーチン〉が好きなひとはもちろん、ストリートカルチャーに興味があったり、クリエイションをリスペクトしているひとたちにここの匂いを嗅ぎ取ってほしいですね。このコラボレーションタワーのアーカイブもそうですし、河村康輔くんのアート、ここでしか見られないフルラインナップの “MADE IN ENGLAND” のシューズ。これからは毎月さまざまな世代のアーティストやクリエイターを巻き込んだ企画が行われていきます。デジタルを通してだけではなく、実際ショップに足を運んでそれらを実際に目で見ることで得られるインスピレーションがあるはずなんです。
ー 「Dr. Martens SHOWROOM TYO」を通して、そうしたスピリットを感じてほしいということですね。
ユアン:そうですね。ただショップをつくっただけではなくて、90年代の裏原宿からはじまり、いまもそうしたカルチャーは脈々と続いていますよね。そうやって東京で創られた歴史を受け継ぎ、また何か新しいものが生まれる場所になってくれたら嬉しいですね。