恋について語り合う親友同士の二人。大学の研究室で面談する教授と学生。数十年ぶりに再会した二人の女性。彼らの親密な会話はやがて驚くべき展開へと発展していく。「偶然」をテーマにつながりあうひとびとの3つのドラマを描いた短編集。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した、濱口竜介監督の最新作。
PROFILE

1978年、神奈川県生。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了製作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)や東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011~2013/共同監督:酒井耕)、4時間を超える長編『親密さ』(2012)など、その製作は多岐にわたる。さらに『ハッピーアワー』(2015年)や『寝ても覚めても』(2018年)、『ドライブ・マイ・カー』(2021年)は海外の映画祭で主要賞を獲得するなど、大きな話題となった。
感情的な関係性から出発しないと映画をつくれない。
ー 今日は『偶然と想像』のお話をきっかけに、映画のなかで恋愛/性愛を描くことについてもお話をうかがえたらと思っています。というのも、『偶然と想像』もそうですが、濱口さんの映画は常に恋愛や性愛をめぐる問題を描いてきたと思うからです。恋愛や性をめぐる物語に惹かれるのはなぜでしょうか?
恋愛と性愛を分けることができるかわかりませんが、単純に、自分が観客としてそういうものを楽しんで見てきた体験がまずあると思います。中学生の頃からトレンディドラマなどをよく見てきた影響なのか、恋愛のようなものが扱われているほうが、映画やドラマをずっと楽しく見られる傾向が自分にあるのはたしかです。逆に言うとそういうものがないと退屈してしまう(笑)。恋愛や性愛というよりはキャラクター間の感情的な関係性がないと、自分が本当に楽しむものにはなりづらい、というところがあります。
自分が脚本を書くときも、そういうところを起点にしてしか書けないんです。こんなショットを撮りたいとかではなく、ひととひとが話しているところから出発しないと書けない。そしてひととひとが話しているときにはそこに何らかの感情的な関係性がある。感情的な関係性がいちばん深まりやすいのが恋愛であったり性的な関係であったりするわけで、自然と自分がつくる映画には常にこうした要素が絡んでくるのだと思います。

ー 昔から、テレビの恋愛ドラマはけっこうご覧になっていたんですか?
それなりに見ていたと思います。中学生の頃とか特に、『東京ラブストーリー』とか野島伸司や三谷幸喜脚本のドラマとか。
ー アメリカ映画のジャンルとしてのラブコメ映画はどうですか?
たまには見るけど、系譜としては追っていないです。自分が子供の頃に流行った80〜90年代のアメリカの恋愛映画、たとえば『プリティ・ウーマン』(ゲイリー・マーシャル、1990)は自分にとって全然リアルに感じられず、見ていても気恥ずかしいものだった記憶がありますね。
ー 感情的な関係性から映画を発想するということですが、濱口さんが大学院で教わった黒沢清さんの映画を観たり、蓮實重彦さんの映画批評などを読んでいてまず叩きこまれるのは、感情は画面には映らない、ということではないでしょうか。それにもかかわらず濱口さんの映画の中心には常に感情があるのはすこし不思議な気がします。
そこはたしかに引き裂かれるところですよね。20代の頃は、まわりで強靭なショットを撮っているひとたちを見ていて、自分は恋愛とかそういうものばかり扱っていていいのかしら、なんて思ったりもした。もちろん勉強していけば、こういうショットを撮る、ということから構想できるようにはなる。けれどもやはりそれは嘘だな、自分じゃないなと思うわけです。
心強かったのは、世の中には、恋だ愛だを扱っていても映画としてまったく正しいと思える、もしくはたとえ正しくなくても自分は絶対にこっち側に立とうと思える映画がたしかに存在しているということです。それがエリック・ロメールでありジャン・ユスターシュであり、またジョン・カサヴェテスである。ダグラス・サークやジャン・グレミヨン、溝口健二、成瀬巳喜男の映画だって、どれも感情的なものを取り扱いながら映画的にきちんと消化しきっている。結局のところぼくはそういう映画でないとどうも純粋には楽しめないんです。
ー 濱口さんにとっては、カサヴェテスも恋愛を含む感情的な関係性を取り扱う作家というわけなんですね。
恋愛や性よりもむしろ「感情」というものがカサヴェテスの本丸という感じがしますよね。恋愛とか性というものは、あくまで感情的なもののバリエーションのひとつ、もしくは現れ方のひとつとしてあるんだと思います。たとえば小津安二郎の映画で恋愛はあまり扱われないけれど、笠智衆と原節子のやりとりに感情的に反応しないのは不可能じゃないですか(笑)。