アイデアが勉強になるというか、すごく学びが多い。
ー ではいまお話にあったように、そのパンツからアイテムの紹介をいただければと。
西野:元ネタは〈パタゴニア〉のインナー用のパンツなんですが、大学生のときに直営店で買ったものなんですよ。最初は外で穿いていたんですけど、だんだんと寝巻きになり…(苦笑)。その理由としては、やっぱりインナー用なので股上がすごく浅いのと、太もも周りもピタッとしているからなんです。だけど、生地だったりとかポケットのディテールはやっぱりかっこよくて。
南:だからこれをいま穿きたい、かっこいいシルエットにしましょうということで。
西野:股上を深くして、太もも周りも太くなって、それでゆったりとテーパードしているっていう。いまみなさんが街で穿いているようなスエパンみたいな感じに落とし込みました。裾にはドローコードもつけてキュッと絞れるようにしてますね。
南:それで生地はオリジナルのまんまっていうね。結構探したんですよ。それでこれにしようっていうことで。「ポーラテック(Polartec)」の「パワーグリッド」っていう生地なんですけど。
西野:いいアイテムができましたよね。すると南さんが「上も欲しくない?」って言いだして(笑)。
南:だいたいセットアップにしたがるんで(笑)。
西野:それでいい感じにゆるいシルエットのブルゾンもつくりました。
南:これも裾を絞れるようにしてますね。チャームポイントは「TapWater®」のタグ。ブルゾンとパンツの両方にさりげなくつけてます。
ー 謎のアウトドアブランド感がありますね。
南:水道水って意味なんだけど、外国人が見たら謎感がもっと高まりそうですね。「なんだよこのブランド」って(笑)。
ー では続いてのアイテムは、ジャージですかね?
西野:これはむかし体育の先生が穿いていたようなジャージのパンツが元ネタです。〈アディダス〉のアイテムなんですけど、素材はジャージでシルエットはスラックスのような感じ。これもピタピタで、フレアシルエットになっています。
南:80年代の香りを感じるよね。
西野:これもいまっぽいシルエットに変えました。あと、生地がすごいんですよ。むかし〈アディダス〉のジャージ素材をつくっていた工場に頼んでつくってもらって。
南:70~80年代に〈アディダス〉のジャージ生地をつくっていた工場を見つけて。当時とまったく同じにはできないから、むかしはたぶんもっと野暮ったい仕上がりになるんです。現代のシンカー織機はすごくいいから、それでつくってもらいましたね。
ー そういう工場を見つけるってすごいですね。
南:機屋さんに行ったときに覚えてて。だけど自分のブランドで使う機会がなかったんですよ。何度かジャージをつくってみようと思ったんだけど、いまいち納得いかなくて。そしたら今回ピタッとはまるアイテムがあったので。
西野:そこが南さんの背景のすごいところで。「こういうのがある」っていうのが会話のなかで出てくるんですよ。
ー シルエットはどんな感じにアレンジしたんですか?
南:キレイなスラックスのような。西野くんお得意な感じですよ。極太っていうよりは、わりと上品な感じだよね。
西野:そうですね。ストレート気味のテーパードシルエットですね。だけど、この生地のノリを〈ニート〉でやるのもちょっと違うなぁと。
南:そうなんだよ。〈グラフペーパー〉でもちょっと違うし。
ー お互いつくりたかったけど、自身のブランドの枠内に収まらないアイテムを〈タップウォーター〉でつくっているような。
西野:そうそう、そんな感じですね。それでこれも南さんが「上もつくろう」となって(笑)。
南:そうだね(笑)。だけどジャージのトップスをつくっても芸がないから、ジャケットにしたらどうだろうということで、西野のタンスの肥やしになったアイテムを持ってきてもらったんです。
西野:それがこの〈ブラックフリース・バイ・ブルックスブラザーズ〉のダブルのジャケットですね。小さくて着れないんですけど、これをベースにまたサイズ感をいまっぽく大きくして。
南:ジャージでダブルのジャケットはやばいよね。
西野:胸に刺繍で「TapWater®」と入れて。
南:いい塩梅に抜けた感じがあっていいよね。将来古着になりそうな。
ー そして最後にこれはスエットですか?
西野:〈チャンピオン〉のスエットです。
ー 着れそうなサイズ感ですよね。
西野:これは着れそうなんですよ。だけど、南さんが「すっごい素材がある」って言ってて。
南:それでコットン65%、リネン35%の生地でつくったんですよ。この生地をつくっている工場が何度も試編みして、何度も失敗しているのを見ていて。それで今回頼んだら、工場も意地になってやってくれた珠玉の生地ですね。
西野:コットンリネンで裏毛ってすごいですよね。
南:この筋が走った生地感とか、リネンっぽいよね。
ー 襟元にチンタブがついているのが珍しいですね。
南:そうなんです。それが珍しくていいよねってなって。だけど、前開きの部分がスナップボタンで開閉する仕様になっていたのをファスナーに変更して、ちょっとスポーティにアレンジしました。
西野:これにも「TapWater®」のネームをつけてます。それで上をつくったから、「今度は下をつくろう」ということになり…(笑)。
ー もうお決まりのパターンですね(笑)。
南:セットアップでいきましょう、と(笑)。だけど、この生地だとオールシーズンいけるんですよ。涼しいし、秋冬はインナーとしても使えるし。
西野:これは本当に生地がいいですね。軽いし、着心地がいいです。
南:こういうパンツに革靴を合わせるのもおもしろいよね。
ー 先ほどのジャケットを合わせるのもよさそうです。
西野:あぁ、たしかに! 南さんは〈グラフペーパー〉や〈フレッシュサービス〉でたくさんのスエパンをつくられているので、これもいい塩梅のシルエットにしてもらいましたね。
ー 今回のラインナップはどれもスポーティですが、それはたまたまそうなったんですか?
西野:結果論ですけど、気分がそっち方面に向いているってことなんでしょうね。
南:でも、アウトドアっていう感じでもなかったよね。
西野:そうですね。〈ニート〉ではつくれないものをやりたいっていうのがあって。そうすると、自ずとこういうアイテムになるというか。
ー さきほど西野さんのお話にもありましたが、〈タップウォーター〉の魅力は“編集された服”という部分にあると思うんです。
南:結構ワイワイやってるもんね。「やばいね、これ」みたいな。
ー デザイナーがつくろうと思ってもつくれる服じゃないような気がするんですけど。
西野:南さんって、笑いながらいきなり突拍子もないこと言うんですよ。最初は「なにそれ?」って感じなんですけど、話していると盛り上がってきて、最後のほうには「いいかも!」ってなってて。そのアイデアがぼくは勉強になるというか、すごく学びが多いんです。「レショップ」の金子さんもそうなんですけど、この世代の先輩方はアイデアがとにかくすごくて、どれも不真面目で(笑)。
南:話が固まってきたら、真面目にやるっていう(笑)。
ー でも、そうやって楽しんでやっている感じが服に現れてますよね。
西野:みんなで一緒に飲みに行っても、ただじゃ帰れないというか。「今度ああいうのやりたい」っていうのが必ずでてくるんです。それでそれをちゃんと実行するっていう。過去に「Grateful」っていうプロジェクトを南さんがスタートして、それも飲み屋で決まりましたから。
南:コロナになって続けるのが難しくなっちゃったけどね。Grateful Deadのツアーって、ヘッズの人たちがみんな追いかけていって、そこで勝手に録音した音源売ったり、グッズ売ったりして商売はじめるじゃないですか。あんな感じでイベントできたら楽しいよねっていうことで。
西野:それで「Grateful」っていう名前をつけて。
南:いつものメンバーとは違う人たちと一緒になにかをやったらおもしろいんじゃないの? っていうことではじまったんですけど。
ー 飲み屋での話がしっかり形になるのがすごいですよね。そのスピード感とか、行動力が。
南:まぁみんな自分の会社があるんで。誰かに許可取ってっていう面倒な手続きもいらないですし。「やっちゃおう、やっちゃおう」っていろんな人を巻き込んで、みんなで楽しくできればそれでいいかなって。
西野:寝かせてたら気分も変わってくるでしょうしね。それも早かったですよね。春に集まって夏には売ってましたから。
南:思いついたら即行動派だから。周りのチームがそのぶん大変なんだけど(笑)。