PROFILE
1993年1月15日生まれ。京都府出身。連続テレビ小説『あさが来た』(2015年)に出演し注目を集める。2019年公開の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』、主演映画『見えない目撃者』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な近作にドラマ『レンアイ漫画家』(2021年)、『華麗なる一族』(2021年)、『しずかちゃんとパパ』(2022年)、映画『泣く子はいねぇが』(2020年)、『ホリック xxxHOLiC』(2022年)、『ハケンアニメ!』(2022年)、出演映画『島守の塔』(2022年)など。現在、ディズニープラス スターで独占配信中のドラマ『ガンニバル』に出演。
PROFILE
福井県生まれ。フォトグラファー石黒幸誠氏に師事。2007年にフォトグラファーとして活動開始。2023年、株式会社Nitoland設立。
ー吉岡里帆さんの芸能生活10周年、そして30歳を記念したWアニバーサリー写真集『日日』の発売を記念して、お話を伺わせていただきます。この写真集をフイナムでもお世話になっているフォトグラファーの大辻隆広さんが撮っているということなので、今回はお二人の対談形式でお届けできたらと思います。
大辻: よろしくお願いします。
吉岡: 新鮮ですね、なんかこういうの。
ーせっかく大辻さんがいるので、制作の裏側というか、そういうお話も伺えたらと思います。なんでも大辻さんから話を持ち込んだそうですが。
大辻: はい。ずっと吉岡さんには会いたい、撮ってみたいと思ってたんです。それでなにか能動的に自分から動きたいなということで、吉岡さんが28歳の誕生日を迎えたときに、29歳の誕生日から30歳に向けて、1年間かけて写真を撮っていったら面白くないですか?というのを提案させてもらったんです。

ーそもそもこういうパターンで企画が始まることってよくあるんですか?
吉岡:食事の席とかでふわっと「なにかできたら面白くないですか?」と話題にあがることはあっても、真剣にこう撮りたいとか、こうやったら面白いと思うんですって、具体的にしかも直接言っていただけることってなかなかないと思います。
ーなるほど。そこは大辻さんの熱量というか、図々しさが功を奏したわけですね(笑)。
吉岡:でもそれがなかったら、この企画は始まってないと思うんです。マネージャーさんから聞いていたらまた違った感じというか、もうちょっと仕事感が強くなると思うんですけど、パーソナルな私と向き合って撮ろうとしてくださってるのかな、というのをなんとなく感じて。人と人とのコミュニケーションとして言ってくださった感じがして、すごく響いたんです。
ーこれで、こういうオファーがたくさん来ちゃったらどうしますか?(笑)
吉岡:(笑)。大辻さんのお話がすごく具体的だったし、ちゃんと私に対して思い入れを持って言ってくださってるような、丁寧な文面だったので。あとやっぱり誕生日の日から撮るっていうのがいいなって。
ーすごく素敵ですよね。
吉岡:はい。珍しいですし、やったことがなかったです。写真集は、節目節目で出させてもらっていますし、グラビアも何年もやってるというのもあって、わりとたくさんのことをやってきたなという感覚があったんですけど、これは「あ、やってない!」って。そんなわけで、お話いただいたときからいいなっていう感覚でした。

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ーそもそも、大辻さんはなぜ吉岡さんを撮りたいって思ったんですか?
大辻:いろいろなメディアで、いち視聴者としてずっと見ていて、普通にすごく魅力的だなとはずっと思ってました。ただ、演技などでいろいろな表情を見ていると、この人もっと奥があるんじゃないかって感じたんです。そう思ったときに、絶対に撮りたいと思うようになりました。この人だったら、自分が見えない吉岡里帆を出してくれるんじゃないかって。なので、自分のなかで色々な企画を立てるようになったんです。
ーというと?
大辻:あくまで妄想なんですけど、例えば自分の愛車と吉岡里帆を組み合わせたらどうだろうとか、ことあるごとに吉岡里帆となにかを組み合わせたら面白いんじゃないかって考えてました。
吉岡:そうだったんですね。
大辻:そんなときに、30歳に向けて誕生日から撮り始めるという企画を思いついて、これだったらいけるかもって。やっぱり何かひとつキーワードがないと、とは思ってたので。
ー吉岡さんは、大辻さんのことはいつから認識してたんですか?
吉岡:えー、何だろう。インスタの写真がいいなぁとは思ってたんですけど、きっかけの写真とかあったかな。
大辻:突然フォローされたのは覚えてます(笑)。
吉岡:この日に、っていうちゃんとした記憶はないんですけど、大辻さんが(インスタに)あげてた写真で「うわ、こんな写真を撮られる方なんだ、素敵!」って思ったのは覚えてます。知り合いじゃなくても、この人の写真をつねに見たいと思う人がいれば、すぐにフォローしちゃうので。

大辻:フォローしていただいて、 しばらくしてからフォローしました(笑)。
ーなぜワンクッション置いたんですか?(笑)
大辻:さっきも言ったように撮りたいという気持ちはすごくあったんです。けど「ファンなんです!」っていうのもなんか違うなと思っていて。なんていうかカメラマンと被写体とで対等に出会いたかったんです。ちょっとかっこつけてますけど。
吉岡:笑
大辻:それぐらい大事に考えてたってことなんです(笑)。ちょっとした撮影とかそういう形ではなくて、できれば吉岡里帆のオフィシャルの仕事として関わりたいって思ってました。結果的に最初に撮影することになったのは、とあるブランドのムック本だったんですけど。とにかくあんまりさらっと行きたくなかったので、インスタもあえてフォローしてなかったんです。けど、たまに見に行ったりとかはしてましたけど(笑)。
ーこれを可愛いと捉えるかどうかは微妙なところですね(笑)。けどわかる気がします。好きだから仕事をしたいというのは大前提ですけど、プロフェッショナル同士で接するのであれば、ただファンだからというだけだと、ちょっと話が変わってきますよね。
大辻:本当そうなんです。なので、なにかきっかけがないかなと探ってたんですけど、あるとき吉岡さんが下北沢の本多劇場で舞台をやるというのをストーリーズであげてたので、「その舞台見たいんですけど、どうやったら行けますか?」って我慢しきれずメッセージしたんです。会ったこともないのに(笑)。
吉岡:そうでしたね。
大辻:そしたら「マネージャーさんに連絡いただければ」みたいな感じで快く対応していただいて。そんな感じで僕のなかでは実は徐々に攻めてたんです。
吉岡:そうだったんですね(笑)。
ーそれで2022年の誕生日から撮影をスタートされたと思うんですけど、最初はどんな撮影だったんですか?
大辻:密着がしたいというよりも、ラフな感じで今の吉岡里帆を撮影をしたいという狙いがありました。なので、最初はこういう撮影がしたいですということよりも、誕生日の1月15日にはどこだろうと、どんな現場だろうと行きますということを伝えていて。写真集が出るかどうかもわからないうちから、他のオファーは全部断ってました(笑)。
ー吉岡さんの私服を撮影するというコーナーもありますね。これってあんまりないことですよね。
吉岡:そうですね。以前、写真集で私服を使いたいという話になったことはあるんですけど、そのときは私服を現場に持っていって、そのなかから着るものを決めていったんです。なので、今回とは全然違いますね。
ー私服を衣装にしていくやり方だったんですね。
吉岡:はい。でも今回は本当に現場に着ていく服とか、あったかいから着るコートとか、動きやすいから穿いてるパンツとか、そういう感じです。
ー私服だと、スイッチというかモードは変わるんですか?
吉岡:撮影という気持ちではなかったかもしれません。すごく普通の服なので。撮影だと結構フェミニンだったり、きれいめな服を着ることが多いんですけど、普段は動きやすかったり、ラフな感じのものが多いので、なんだか新鮮でした。
大辻:私服で撮りたいって思ったのも、とにかく普段の吉岡さんを撮りたいということからなんですけど、そうやって決めておけば、服を選ぶときに一瞬でもこの写真集のことを考えてもらえるかなっていうのがあったんです。普通の仕事だと、現場に行って衣装を決めてそこでスイッチが入るのかもしれないけど、私服だったら前の日に明日何を着ていこうかなって思うだろうから、そしたらよりこの写真集に対する感情が湧くのかなと。
吉岡:あぁ、なるほど。それ知らなかったです。

ー今回の写真集は、五島列島での撮影、そして私服コーナー、特装版では京都で撮ったり、各現場を密着したりと、様々なコンテンツがありますよね。これはどんなふうに決まっていったんですか?
大辻:基本は吉岡里帆その人を撮りたかったので、私服で撮るというのがまずあって。けど、丸一日時間が空いている日があるわけでもないので、それを撮るにはどこかの現場に行く必要がある。で、最初に鶴瓶さんを撮ったら、これはこれで面白いから密着もやりましょうということになって。それから編集さんとかみんなでいろいろ話してるなかで、やっぱり南の島なのか北海道なのかわからないけど、気持ちのいいところでは撮りたいよね、という話にもなって。
ーなるほど。それはザ・写真集みたいな役割を担うわけですね。
大辻:はい。あとはやっぱり集大成的な写真集だから、ルーツである京都にも行きたいよね、とかみんなの妄想とかアイデアが寄り集まって決まっていった感じです。
ーそれにしても密着ということは定期的に大辻さんが現場にいるわけですよね。
吉岡:そうです。だから、密着パートに関しては、だんだん心を許していく感じになってます(笑)。初めは大辻さんがどんな写真を撮りたいと思ってるんだろうって、私も探り探りで。私の思ってる素と、大辻さんが撮りたい素が同じかもわからないですし。
ーそれは確かにそうですよね。
吉岡:あと、大辻さんってどちらかというとファッションのイメージがあって。でも今回のテーマはファッションというよりも、もう少し人間に近づいてくみたいなイメージが私にはあったので、どれくらい自分自身の内面を見せたらいいのかはすごく考えてましたね。写真ってそのとき思ってる感情が写るじゃないですか。普段の仕事では個人的な思いというよりも、媒体ごとの伝えたいことを意識するので。
ーお芝居でも広告でも、目的が違いますもんね。
吉岡:はい。広告だと商品を美しく引き立てるように、かつ的確に見せることが大切ですよね。そういうふうに写真には種類があると思うんですけど、大辻さんはそのなかのどれを撮りたいんだろうっていうのは、めっちゃ探ってました。
ーたしかに素を見せるってよく言いますけど、それって結構難しいですよね?
吉岡:そうなんです。どの素? どこまでの素?っていう。素っぽい素じゃないこともありますし。
大辻:素を演じるっていうのもありますよね。そもそもメディアに出る仕事である以上、素を見せるって言いながらも、撮られている時点である種演じているというのが大前提ではあると思うんです。けど、最初の私服のカットは、すごくいいのが撮れたんです。

大辻:もうすぐ日が沈む、っていうかなりギリギリの時間のなかで撮った写真なんですけど、私服のカットは全部フィルムで撮影をしていて、上がりを見たらめちゃくちゃいいなって。この感じで撮ればいいんだなっていうのが、そこでわかったんです。
ー最初にそういうのが撮れたのは大きいですね。
大辻:けど、あるときは合間の5分~10分くらいで撮らなきゃいけないときもあって。そういうときはファッションっぽくというか、仕事っぽく撮っちゃったりもしました。吉岡さんの素というよりは、僕はこういう風にしてほしいっていうストーリーを押し付けてしまったというか。写真としてはいいんだけど、それは素ではないんですよね。
吉岡:その意識が大辻さんにあったということを知れて嬉しいです。というのも、そういうのを感じてた回もあって。この写真集のために毎月必ず一回は会ってたんですけど、なんか今日は違うなってすぐわかるんですよ。「そんな感じでいいの?」って急に聞かれたり(笑)。
ー煽ったりしてくるわけですね。
吉岡:そうなんです(笑)。
大辻:そうですね。僕も毎回いろんなやり方をしてました。「もう撮れてますけど、これで大丈夫ですか?」って言ってみたり(笑)。

ー揺さぶるというか。仕掛けてますね、大辻さん。
吉岡:ただ、本当になんでもなさすぎるものだと、写真としてはクオリティが低いのかなとか、写真になったときに素敵に見えるものじゃないとダメなんだっていうのも感じて悩んだりもして。そういうことをやっと五島列島での撮影でゆっくり大辻さんと話せたんです。
ー五島列島は、最後の撮影ですよね。

大辻:そうですね。けど、ゆっくり話せる時間が本当になくて。やっぱりめちゃくちゃ忙しいんですよ、吉岡さんが。だから途中から他人の素を見るには、自分の素も出さなきゃいけないって思って、自分が普段ルックの撮影をしている、ファッションブランドの〈リラクス〉の展示会に一緒に行ったりもしました。僕が普段こういう人と繋がっているっていうのを見てもらいたくて。
吉岡:あれはそういうことだったんですね。あの日はめっちゃ楽しかったですね。洋服をオーダーさせてもらったりとかもして。
大辻:そう。デザイナーさんと話してもらったりして、僕のフィールドに呼び込んだんです。
吉岡:たしかに普段は私の仕事場にばっかり来てもらってましたからね。
大辻:そんな感じでいろいろ提案しながらやってました。
ー長く撮影を続けるには、やっぱりお二人のコミュニケーションが重要になってきますよね。
吉岡:そうなんです。五島の前にも話をしたかったんですけど、本当に時間がなくて。
大辻:その間に1回京都にも行きましたよね。
吉岡:京都も結構弾丸でしたよね。撮るものを撮って、お疲れ様でした!みたいな感じで(笑)。
大辻:そうでしたね。いろいろありましたけど、僕的にはやれることはやったかなという感じはあります。自分が撮りたかった吉岡里帆の素の部分と、あとはみんなが見たいだろう吉岡里帆も撮るとなったら、じゃぁ例えば水着を撮るにしてもこういうふうにしようとか、とにかくずっとこの写真集のことを考えながら2022年は過ごしていました。
ー吉岡里帆さんと共にあった一年だったんですね。
大辻:本当にそんな感じでした。他の現場でも、こういうふうに吉岡さんを撮ったら面白いかもな、とか考えちゃったりしましたから。
ー吉岡さんは、今回の『日日』に関していろいろなメディアで取材を受けられていると思うんですが、そこでは大辻さんのことはどんなふうに話してるんですか?
吉岡:この写真集ってギフトだなって思うんです。大辻さんが声をかけてくださったから始まったわけで、大辻さんからギフトをもらったような感覚なんです。というのもこういうことがないと、自分を思い出すということに時間を割かないんです。未来のこと、先のお仕事のことばかりに頭がいってたのに、一冊にしてくださったおかげで、一年間追いかけてくださったおかげで、忙しくしてた日々を労ってもらったような気持ちにもなりました。自分では30歳っていう年齢のことをあんまり気にかけてなかったんですけど、これはいいことなんだなって思いながら迎えられるのはこの写真集のおかげです。

ー節目みたいなことを自分では意識してなかったんですね。
吉岡:全然なかったです。周りから「もう30歳なんだね」とか「10周年らしいじゃん」とか言われて、「そうそう」なんて軽い感じで返してたぐらいで。でも、この写真集があるおかげで、自分を歩んできたことを実感できました。写真集のなかには読み物のページもあるんですけど、聞かれて初めて考えることばかりで。だから本当にありがたいなって。自分を軸に発信しなきゃいけない仕事なのに、自分自身をおざなりにしてしまうこともあるので。
ーそれよりも役とか作品が大事というか。
吉岡:はい。見てくださる方が求める自分であることが大事だと思っているので。でも、素を撮りたいっていうのは、自分自身でいいっていう私の全肯定じゃないですか。
大辻:そうですね。
吉岡:それってやっぱり愛だなって思うんですよね。だからそういう話とかをしてます。
ーそんなにいい話を各所で。よかったですね、大辻さん(笑)。
吉岡:ここまで濃厚には話せてないですけど(笑)。でも本当にありがたいことだなって。

ー最後に『日日』というタイトルについて聞かせてください。
吉岡:タイトルはどうやったら他と被らないものになるかずっと考えてました。なんかおしゃれな感じのものはみんなやってるし。そんななか“日日”って思いついたんですけど、なんか和風でちょっと合わないかなとか思っていろいろな人に聞いてみたら、みんながいいって言ってくれたので。
ー吉岡さんご自身から出た言葉なんですね。タイトルは自分で決めようと思ってたんですか?
大辻:というか、僕とか編集さんのなかでは、タイトルは重すぎて決められないって思ってました(笑)。それで待ってたら『日日』っていうのが上がってきて。
吉岡:忙しくしすぎて毎日のことを本当に忘れていってしまうことが多いんです。それを忘れないように留めてくれたことへの感謝もあるし、振り返ってる日々っていうのもありました。あとはある種アニバーサリーだから再出発でもあるなとも思っていて。これから迎える日と、これまでの日っていうのが並んでる感じもいいなと思ったりとか、シンプルだからこそ意味がたくさん込められるなって思っています。
ー『日日』の元となった、日日是好日という言葉は元々好きな言葉だったんですか?
吉岡:はい。普段から好きな言葉としてはあったんですけど、写真集のタイトルとしては日日是好日は長いかなと思って。
ー確かに漢字5文字ですと、そうかもしれません。
吉岡:でもこの柔らかい感じが好きなんだよなって。そう、柔らかい言葉というのは意識してました。
大辻:吉岡さんが言うように、この『日日』って本当に色々な捉え方があると思うんです。この作品に関わった人、そしてこの写真集を手にとってくださるファンの方、みんなそれぞれ捉え方が違うなかで、僕的にも日々吉岡さんを追いかけてきたわけで、それを表してくれたと思って、勝手に泣きそうになってました。
吉岡:(笑)。でも、もちろんそういう部分もありましたよ。
大辻:めちゃくちゃいいタイトルですよね。家でも本当に盛り上がりましたもん。
吉岡:大辻さんがそう言ってくれるのが、私はすごく嬉しいです。