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FEATURE
NEW TRAVELER’S  STYLE Vol.01 ファッションを生業にする3人の新トラベル論。
MONTHLY JOURNAL MAR. 2023

NEW TRAVELER’S STYLE Vol.01
ファッションを生業にする3人の新トラベル論。

旅といえば人生における楽しみのひとつ。感じたことのない気候やはじめて見る景色、カルチャーの異なるひとたちとの交流など、知らない世界を肌で感じるというのは刺激的なことです。パンデミックのはじまりとともにぼくらの自由は奪われたわけですが、3年もの時を経て、やっと出口が見えてきました。ここでは一足早く海外に行ってきたファッション業界人3名に声を掛け、旅のマル秘エピソードやマイルール、必需品などをインタビュー。彼らの言葉から新たな旅のかたちを探ります。

  • Photo_Kazuma Yamano(01, 03), Shimpei Hanawa(02)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Muramatsu, Shun Koda, Shuhei Wakiyama

TRAVELER 01 : MASAHIKO SAKATA アーティストやコレクターから得る、視点と道筋。

PROFILE

坂田真彦

1970年和歌山生まれ。「バンタンデザイン研究所」を卒業後、コレクションブランドを渡り歩きながら経験を積む。2004年に「アーカイブ&スタイル」を設立。現在は、複数のブランドのディレクションを手掛ける一方、オリジナルの生地の開発からプロダクトデザイン、空間ディレクションまで幅広く活躍している。
Instagram:@sakata_aands

ー坂田さんの旅におけるファッションスタイルは、どういったものなのでしょうか?

坂田:旅だから着心地のいいものを着るとか、雨用の服を用意するとか、そういうのはあまり考えないです。できる限り普段通りでいたい。急に食事に誘われたときとか、フォーマルなシーンにも対応できるようにジャケットは必ず持つようにしています。大人として、旅するときでも、そうしたことはちゃんとしておきたいというか。

LAへは〈ブルックスブラザーズ〉のブレザーと、〈ソフネット〉のストライプシャツをチョイス。「着る機会がなかったとしても荷物には絶対に入ってますね。青いシャツというのは人に対して信頼感を与えるそうです。余談ですけど、イギリスではポートレイトを撮るフォトグラファーの着用率も高いみたいですよ」

坂田さんが手がける〈マンハッタンポーテージ ブラックレーベル〉のトート。「サイドにファスナーをつけて、バッグを肩に掛けたままでも荷物を取り出しやすいようにデザインしました。パスポートとか、必要なものを取り出しやすいかなと。旅に便利でおすすめです」

坂田:あと服で言えば、20年ほど前にピッティ(編集部注:メンズのプレタポルテの見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」)へ行ったときにロストバゲージしてしまって、3日間同じ格好をしなければいけないことがありました。それは自分的にすごくつらかったので、乗り継ぎ便のときは絶対に服を機内に持ち込むようにしています(笑)。

それと家でたまに焚くお香も持って行ってますね。馴染みの香りを嗅ぐことで気持ちが落ち着くというか。

ーなるほど。先日はLAに行かれたそうですね。

坂田:大きな目的がふたつあって、ひとつはコロナ禍が落ち着きはじめて、各都市のファッションシーンがどうなっているか知りたかったというのがあります。もうひとつは、ぼくはアート作品を購入したり、アーティストのスタジオを訪問するのが好きなんです。今回LAで大きなアートフェアがあってそれを見に行くのと、現地のアートコレクターの自宅で作品がどのように飾られているのかを見るのが目的でした。

SAKATA’S EYE 01
今回の旅で訪れたというコレクターのご自宅。回廊式になっていて、まるで美術館のような空間になっている。「ジョージア・オキーフのライフスタイルに憧れて、こうしたつくりを取り入れているそうです。こういう空間の活かし方など、ある種の生々しさをぼくはいま見たいのかもしれません」(本人提供写真)

SAKATA’S EYE 02
坂田さんが大好きだというデイヴィッド・ホックニー。作品でよく用いられる模様がウエストハリウッドのホテルのプールに描かれている。「60~70年代にホックニー自身がプールの底に描いたものですね。すごくないですか? 作品に描かれているモチーフを現実に見ることができて、シンプルに感動しました」(本人提供写真)

ーコロナ禍以降の海外は今回がはじめてですか?

坂田:昨年9月にソウルへ行きました。アジアの外へ出るのははじめてです。

ーファッションのリサーチに関しては、どんなものを見てきたんですか?

坂田:「マックスフィールド」など、セレブたちが集まるセレクトショップを見てきました。結果からいうと、ファッションに元気がないという印象。セレクトされているブランドが新しいわけでもなかったですね。オールドの〈シャネル〉や〈エルメス〉などのヴィンテージのものを混ぜたりとか、リメイクブランドも置いていたり、よくも悪くも昔と同じで、流れの変化を感じることはできませんでした。

ー逆に変化を感じたことはありますか?

坂田:為替の影響を差し置いても、単純に物価が高くなっていることに驚きました。そういう意味で、格差は広がっているんだろうなと。

坂田:あとは、「エレウォン」というオーガニック系のスーパーがあるんですよ。ビバリーヒルズの中心に去年の秋から出店していて、そこがすごく賑わっていました。お客さんもすごくクールでしたね。いわゆるナチュラル志向のひとたちだけじゃなくて、モードな格好をしたおしゃれなひとたちも買い物を楽しんでいました。

ーアメリカのオーガニック系スーパーだと、「ホールフーズ・マーケット」が有名ですよね。

坂田:「ホールフーズ・マーケット」が大衆向けだとすると、「エレウォン」は一格上のセレブや、ファッションと環境に対して意識の高いひとたちが集まっている印象で値段も高い(笑)。健康やそれに基づいた環境志向の高まりをすごく感じるんですよ。

こちらが話に上がった「エレウォン」のバッグ。「マチもしっかりとあって、意外と使いやすいです。畳みやすいようにパイピングをしてあるあたりも気に入ってます。ただ、5,000円くらいしたので、みんなにお土産として買って帰るにしては少し高価すぎますね…(苦笑)」

坂田:たとえば5、6年くらい前までは「ホールフーズ・マーケット」でも、レジの横にポリエステルのエコバッグが売られていましたよね。それがお土産として観光客に重宝されていた。だけど、いまはそれがオーガニックコットンのバッグに代わっていたんです。

ーそうした環境に対する意識の加速は「エレウォン」以外でも感じられたんですか?

坂田:訪れたアートフェアでも、たとえばドリンクの提供はペットボトルじゃなくて瓶になっていましたね。LAのすべての場所でそうなっているわけではないですけど、やっぱりペットボトルよりも瓶や紙パックを使っているところが多かったです。それでぼくが子供の頃を思い出しました。昔は牛乳やコーラが瓶だった時代。そういう意味で昔に戻っているような感じはしましたね。

坂田:あとは「MoCA(ロサンゼルス現代美術館)」にも行ったんですが、無料で入場できるんですよ。そこのオリジナルグッズでポーチを購入したんですけど、とあるメッセージが書いてあるんです。

ーどういったメッセージなんですか?

坂田:「この商品は以前はLAに掲示されていたバナーを再利用したものです」というような趣旨のメッセージです。つまり、本来なら捨てられてしまうものをグッズとしてアップサイクルして、その収益によって観覧を無料にしているということです。そうした循環も含めてデザインになっていて。

SAKATA’S EYE 03
「MoCA」のポーチはカラーリングも秀逸。もともとのバナー自体もきっとグッドデザインなのだろう。「アメリカは人種のるつぼだし、ヨーロッパ以上にいろんなひとが訪れます。だからこそ公共デザインがパッと見て分かりやすいし、強さを感じますね」

ーしっかり考えられていますね。

坂田:強いメッセージを感じますよね。そうした環境意識を上手にデザインに落とし込んで機能させているところがクレバーだなと。

ーそうして旅で得られたアイデアが自身の仕事に活かされることはあるんでしょうか?

坂田:リサイクル素材を使おうとか、そういう直接的なことはないですね。結局、いくら環境に配慮した素材で服をつくったところで、ひとに愛してもらえるものじゃないと無駄になってしまう。そういう意味では、手に入れて気持ちが満たされる服ってあるじゃないですか。そうした満足度の高い服をつくりたいなって思いますね。

ーこれから行ってみたい国や場所はありますか?

坂田:すごくピンポイントなんですけど、今回の旅でそうだったように、コレクターの家やアーティストのスタジオを訪ねたいです。つまり、そのひとらしさが見える場所に行きたいなと。

ーそれはどうしてですか?

坂田:コレクターにしても、アーティストにしても、どうしてそこに行き着いて、それを探求しているのかを知りたいんです。そこにはそのひとなりのきっかけや、テーマみたいなものがあるから。それを見ることで、どういった価値に対して自分は刺激を受けるのか、どのような視点で物事と接するのが正しいのか、そういうことを突き詰めたいんです。アートをコレクションするにしても、やっぱりセンスが問われるんですよ。たとえばAとBというセレクトショップで同じアイテムを取り扱っていたとしても、お店のテーマやスタイルが変われば服の見え方も変わるじゃないですか。

ーそうして対象との距離を測ることで、自分の現在地を探るということですか?

坂田:そうですね。それを見て、自分がなにをやりたいのかを考えるというか。大人になるといろんなことに対してマンネリを感じますけど、そうなりたくない。物事との向き合い方を学びたいなと思いますね。

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