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FEATURE
NEW TRAVELER’S  STYLE Vol.01 ファッションを生業にする3人の新トラベル論。
MONTHLY JOURNAL MAR. 2023

NEW TRAVELER’S STYLE Vol.01
ファッションを生業にする3人の新トラベル論。

旅といえば人生における楽しみのひとつ。感じたことのない気候やはじめて見る景色、カルチャーの異なるひとたちとの交流など、知らない世界を肌で感じるというのは刺激的なことです。パンデミックのはじまりとともにぼくらの自由は奪われたわけですが、3年もの時を経て、やっと出口が見えてきました。ここでは一足早く海外に行ってきたファッション業界人3名に声を掛け、旅のマル秘エピソードやマイルール、必需品などをインタビュー。彼らの言葉から新たな旅のかたちを探ります。

  • Photo_Kazuma Yamano(01, 03), Shimpei Hanawa(02)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Muramatsu, Shun Koda, Shuhei Wakiyama

TRAVELER 02 : TANY “ヒト” と “可能性” を求めて。TANY流、放浪旅の極意。

PROFILE

TANY

関西地区の「ビームス」で販売員、プレスを務めた後、2013年に上京。カジュアル部門のバイヤーを担当し、世界各国を飛び回りながら良質なウェアの買い付ける。17年に退職後、大阪・中津のセレクトショップ「イマジン(IMA:ZINE)」の立ち上げに参画。現在はディレクションとバイイングを担当する。
Instagram:@taniatsuhito

ーTANYさんは昨年11月にLAへ行かれたそうですね。久しぶりの海外ですか?

TANY:実はコロナ禍でも西海岸へ行っていたんです。今回は〈ゼパニーズクラブ〉として、「ComplexCon」に出展してきました。

ー行かれるのは西海岸が多いんですか?

TANY:西海岸と東海岸が多いんですけど、比較的、西は多めです。前職の名残もあるんですけど、その頃から繋がっているストリートシーンがあって。そこでコミュニケーションを取りながらおもしろいひとを探すというか、彼らとの縁を大事にしていますね。

ー「ComplexCon」に出展されたのも現地の仲間の方々の誘いで?

TANY:一緒にブランドをやっているVERDYくんが「ComplexCon」のキュレーターを務めていたので、その繋がりもあります。海外で〈ゼパニーズクラブ〉がどう評価されるか、それを試すためでもありますね。

ブランドをはじめて今年で6年になりますけど、はじめはブランドを理解してもらうためにVERDYくんのグラフィックを通して自分たちの哲学を発信していたんです。そこからぼくが大事にしている “可能性” というワードをアイテムに吹き込むようになりました。自分が影響を受けてきた〈センチネラ〉と別注をしたりとか、インディアンジュエリーの世界ではレジェンド的存在であるホピ族のジェイソン・タカラと一緒にものづくりをしたりとか、いろんな可能性を模索しながらブランドを動かしてきたんです。

ーその可能性を吹き込むことで、ブランドとして第2のステップに入ったようなイメージですね。

TANY:そうですね。〈ゼパニーズクラブ〉では、ファッションの先入観を打破していきたいんですよ。5、6年前からファッションがパッケージ化されているように思えて、それをぼくはリセットしたかったんです。「イマジン」でもお客さんに似合う服を提供するというよりは、可能性を買ってもらいたいと思っていて。いい意味で疑問を持ったり、驚いてほしい。大阪弁でいう “おもろいもの” を提供したいんです。VERDYくんも大阪出身だし、『カジカジ』の読者だったから、そうした価値観を共有してますね。

ーそうした状況の中で出展した「ComplexCon」はどうでしたか?

TANY:いろんなひとに見てもらえました。たとえば〈センチネラ〉との別注にしても、ジェイソン・タカラとのインディアンジュエリーにしても、「どうしてこれをつくったのか」ということをよく聞かれました。それは日本とはまったく違う反応だったんですよ。自分たちのアイデンティティや哲学の部分に興味を持ってくれたひとが多くて、それはSNSではなかなか伝わりづらいことなんですよね。まさに自分たちが表現したい部分を掘り出してくれて、すごくいい反応を得ることができましたね。

ー収穫があったわけですね。

TANY:かなり前向きな気持ちになれました。いままでやってきたことは間違ってなかったと確信できたというか。コロナ禍以降の動きを模索していたり、新しい世代もグングン伸びてきている状況で、これからも自信を持ってやっていけるなという手応えを掴むことができましたね。

ー今回の旅では買い付けもされたんですか?

TANY:「ComplexCon」が終わってからしました。うちでお取り扱いをさせてもらっているクラフトのアーティストさんと、次のシーズンの仕込みをさせてもらいました。

ーTANYさん流のバイイングの流儀みたいなものはあるんですか?

TANY:自分は捻くれ者なので、みんなが集まるところには行かないんですよ。現地で会ったひととの縁を大事にしてて、そこで得られたキーワードや、紹介してもらったひと、そうしたものを信じて、その場でアポイントを入れて訪れたりするんです。だからすごい生モノというか、ライブ感を大事にしていますね。

擦り切れるほどボロボロになったトートバッグは前職でバイヤーになりたての頃に手に入れた〈エル・エル・ビーン〉のもの。「こいつがあれば何か持ち帰れるっていう願いを込めて、バイイングのときは毎回これを持ち歩いてます。お守りみたいなものです」

ー古着のバイヤーが、あるかどうか分からないものを探すような感覚というか。

TANY:それに近いですね。ぼくの場合、それが古着ではなくて “ヒト” なんです。ひょっとしたらここにおもしろいひとがいるかもしれない。その嗅覚を頼りに知らないバーに入ったりして、そこにいるひとと話して、仲良くなって、会話の中でおすすめされたギャラリーなどに訪れたりするんです。

ーそのスタイルは前職の頃に生まれたんですか?

TANY:大きな会社だったので、ある程度は押さえるべきポイントがありました。だけど、途中からはゼロベースでどんどん自分にしか探せないものを探すようになっていきました。そっちのほうが自分に合っているような気がして。ある種、賭けに近い感覚ではあったんですけど。

TANY’S EYE 01
ストリートの生ける伝説、ショーン・ステューシーは前職時代から交流があるそうだ。「自分がファッションを好きになるきっかけにもなった人物で、自分を子供のように見守ってくれているのが本当に嬉しいです。また一緒に仕事がしたいし、そういう意味で常に夢を持たせてくれるひとだと思います」(本人提供写真)

こちらも前職時代で手がけたショーン・ステューシー率いる〈エスダブル〉とのコラボアイテム。「40周年のときに作成したアイテムです。ショーン本人に会えるかどうか分からない状況で、会えるという可能性を信じて彼のもとを訪ねて、念願叶ってつくってもらえることになった思い出の品です」

ーだけど、そうすることで他のひととは違う何かが得られるということですよね。

TANY:本当にその通りです。先ほども話した通り、“可能性” というものを信じて動き回っていますね。だからこそ、得られた縁というものを大事にしたくて。それがまた次の出張に繋がったりもするので。

ーその縁がさらに新しい縁を生むということですか?

TANY:そうですね。そういうスタイルがあるということ、自分らしいバイイングの方法を考えたりすることでオリジナリティやストーリーが生まれる。さらにそれがお店をおもしろくするということをメッセージとして伝えたいです。

TANY’S EYE 02
世界を虜にするファッションブログ『MISTER MORT』の発信者であるモデカイ氏とはニューヨークで邂逅を果たした。「彼にスナップを撮ってもらったのはいい思い出ですね。自分のファッションで彼の目を惹くことができたのが嬉しい。インスタで発信している “#谷の眼” も彼の視点が参考になっています」(本人提供写真)

ー旅に出るときにフォーカスするのは “ヒト” だけなんですか?

TANY:ぼくはタウンカモって呼んでいるんですけど、ひとと街が馴染んでいるところにスタイルがあると思うんですよ。いい服であろうと、ダサいスタイリングであろうと、セレブでも浮浪者でも、その街に生きている以上、街に馴染んでいればタウンカモだと思っていて。だから、ひとと景色をセットで見ていますね。それで輝く瞬間みたいなものがあって、服の配色や着方が際立って見えるんです。それがすごく心に刺さるというか。

ーそれがインスピレーションになるわけですね。

TANY:そうですね。そういう空気感って、やっぱりオフラインで話さないとリアリティが伝わらない。これからどんどんSNSが加速していくと思うんですけど、お店で接客しながらリアルを伝えたいですね。それが「イマジン」の役割だと思っているし、いまのファッションに必要なことだと思ってます。

TANYさんが語る “タウンカモ” のインスピレーションが降りてデザインした「イマジン」、「レショップ」、〈ブルーナボイン〉のトリプルコラボのベスト。「スキッド・ロウという治安の悪いエリアで見た浮浪者のスタイリングからヒントを得てデザインしたものです」

ーTANYさんの旅のファッションについても知りたいです。

TANY:すごく機能的で、いわゆるアウトドアスタイルでいることが多いです。“日本の外に出る” ということがアウトドアだとぼくは解釈していて。ぼくの買い付けのスタイルは、パリでファッションショーを見てというのではないので。基本的には自分がリラックスできて、そこに自分らしさを表現できるものをプラスするような考え方でいます。

ー荷物は少なめなんですか?

TANY:めちゃくちゃ少ないです。〈スマートウール〉のアイテムを頻繁に着てますね。とくに西海岸は昼間暑くて、夜に冷えることが多いので、ウールが活躍するんですよ。温度調整機能があるし、何日着ててもニオイが気にならないので。山登りっていうと大げさですけど、本当にそんな感じなんです。その中でヨーロッパもののアウトドアアイテムを着て、ファッショナブルに楽しんでいますけどね。

ー今後行ってみたいところはありますか?

TANY:ずっとアメリカばかりだったので、ヨーロッパに行きたいなと思ってます。それは「イマジン」のチームとも話してて。前に行ったのは前職時代だったんですけど、その頃の自分とは変わっているわけで、いまのぼくがヨーロッパに行ってどんなことを感じて、どんな可能性を広げられるのか探りたい。それが楽しみですね。

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