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FEATURE
NEW TRAVELER’S  STYLE Vol.01 ファッションを生業にする3人の新トラベル論。
MONTHLY JOURNAL MAR. 2023

NEW TRAVELER’S STYLE Vol.01
ファッションを生業にする3人の新トラベル論。

旅といえば人生における楽しみのひとつ。感じたことのない気候やはじめて見る景色、カルチャーの異なるひとたちとの交流など、知らない世界を肌で感じるというのは刺激的なことです。パンデミックのはじまりとともにぼくらの自由は奪われたわけですが、3年もの時を経て、やっと出口が見えてきました。ここでは一足早く海外に行ってきたファッション業界人3名に声を掛け、旅のマル秘エピソードやマイルール、必需品などをインタビュー。彼らの言葉から新たな旅のかたちを探ります。

  • Photo_Kazuma Yamano(01, 03), Shimpei Hanawa(02)
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Ryo Muramatsu, Shun Koda, Shuhei Wakiyama

TRAVELER 03 : YUICHI DANJO 自分の目で見なければ、知ることができない現地のリアル。

PROFILE

檀上佑一

アパレル会社に勤務した後、2011年に東京・代々木上原に自身がオーナーを務めるショップ「JOHN」をオープン。独自の審美眼でセレクトした商品はファッションにこだわりの強いひとたちを魅了し続けている。21年には不定期でリリースするブランド〈イズ ノット アヴェイラブル〉をスタート。
Instagram:@aiamjohn

ー檀上さんは最近イギリスに行かれたということで、目的は買い付けですか?

檀上:そうですね。コロナ禍に入ってはじめての海外でした。行く前にいろんな話を聞いていて、すごく迷っていたんですけど、自分で行かないと分からないから、とりあえず行って確かめようと。

ー円安の影響がすごいという話ですよね。

檀上:レートはよくないけど、その中でできることはあるんじゃないかなと思ったんですよ。ぼくは普段からあまり予算立てをせずに行っていて。どちらかというと、自分を納得させに行く作業なんです。自分はいまどんな気分で、なにが欲しいのかということを。

ー納得させに行くというのは、コロナ禍以前からそうだったんですか?

檀上:コロナ禍になる前はもっと簡単に行けていたし、いまはウクライナ紛争が激化してサーチャージも高くなったし、行くまでに時間もかかるようになりました。以前はそういうのがなかったから、買い付けの時期という理由で行っていたんですけど。だけど、今回行ってみて、何のために行っているのか確認できました。

ーそれは目的のものが見つかったということですか?

檀上:結局終わりがないということなんですよね。目的のもの自体、自分自身でも具体的に把握していない。分からないから、また探す作業をしなければならなくて。「こういうものがあったらいいな」と思っていたんですけど、実際行って見つけても、やっぱりいらないと思ったり。

ー原点に戻ったというか、気持ちがリセットされたような感覚ということですね。

檀上:そうですね。結構、下調べをして行くんですけど、行ってみたらお店がなくなっていることも結構あって。その逆で、新しいことをはじめているひともたくさんいましたし、本当に行ってみないと分からないことがたくさんありました。それを知るために行っているんだなと。

ー行かれたのは、ロンドンですか?

檀上:ロンドンを拠点にブライトンやリバプールへ行ったり、ロンドンから郊外のカーブーツセールへ向かう途中で見つけたエリアで降りてみたりして、買い付けでは誰も行かないようなところばかり行きましたね。

旅のとき、肩から掛けているというトラベルポーチは「10年くらい前に買って、お金とペン、パスポートなどを入れています。旅の必需品です」とのこと。一方フェイクレザーのポーチは「溜まった領収書をここにまとめて入れています。マーケットで1ポンドで手に入れました」という掘り出し物。

ー買い付けは毎回ロンドンに行かれていると思うんですけど、都度行く場所を変えるんですか?

檀上:行ったことがないところに行くのがマイルールなんです。現地でローカルのひとに話を聞いたりしながらいろいろと情報を集めて、とりあえず行くんです。「そんなところ何もないよ」って言われたりするんですけど、それでも目で見ないと分からないから。実際に何もなかったりするんですけど(苦笑)。

ーイギリスには何回くらい行っているんですか?

檀上:20回以上は行っていますね。だけど自分ひとりで行くようになったのはここ10年くらいです。前職時代は先輩にアテンドしてもらったり、誰かと一緒に回ることが多かったんです。だけど、ひとりで行ったほうが上手くいくなと気づいて。

ー知らない場所に行くというのは、ある程度目星をつけているんですか?

檀上:グーグルマップで街並みを見て、おもしろそうだなと思う場所を探すんです。

ーそうやって、自分の足で稼いでいいものを見つけてくるわけですね。

檀上:うちに置いているのは、〈コモリ〉とか、いいブランドがたくさんありますけど、足で稼いで見つけるものも、そうしたブランドと同じベクトルなんですよ。このブランドの服に、これが合いそうとかじゃなくて、ただ好きなものを一緒に置くっていうコンセプトなんです。だから本当に自分が好きなものだけを買っています。

ー今回の旅で買い付けてきたものは、ほとんど売れてしまったそうですね。

檀上:ありがたいことに他のお店で買えないものが多いのか、発売日になくなっちゃうことが多いんです。同じものをたくさん買い付けてきたらいいのかもしれないけど、ぼく自身が飽き性なんで、それをしたくないんです。どんどん商品が入れ替わるほうがこのお店っぽいなって。

こちらはサッカーの三苫薫選手が活躍する、「プレミアリーグ」のチーム「ブライトン」のスーベニア。檀上さんが現地で買い付けた商品のひとつ(¥27,500)。「スタジアム近くのスーベニアショップで買いました。かなり辺鄙な場所にあったので、ブライトンに住む友人にクルマで連れて行ってもらいました」

ー何かを目的に買い付けてくるというよりは、本当に旅をしながら、文字通り自分の足を動かして買い付けている感覚なのでしょうか。

檀上:買い付けに行っているという感覚はないですね。仕事なのか、遊びなのか、その境界線があまりないというか。全部仕事といえばそうだし、そうじゃないかもしれない。ひとつひとつの動作に意味があるというか。

ー旅に出るときは、どんなスタイルで行くんですか?

檀上:20代、30代、40代で変わってきましたね。かつてはパリやニューヨークに行って、展示会やショーでオーダーをしてという感じでした。だから服をいっぱい持って行って、着替えたりしていたんですけど、徐々にその行為に意味がないと思うようになってきて。ここ最近はショーや展示会を目的に海外に行かないので、全然持っていかないんですよ。

回数を重ねるうちにどんどん荷物が減って、一個削ったぶん現地から一個持って帰ってこれるじゃないですか。コーディネートも全然変えずにいますね。

今回の旅で大活躍したという〈コモリ〉のロングダウン。「膝下丈ですごく暖かい上に軽くて、パッカブルなのでコンパクトに収納もできる。枕の代わりにもなるし、旅に最適なアウターです。3年くらい前に買ったのですが、コロナ禍でなかなか着る機会がなく、今回はじめてたくさん着ました」

ーパリやニューヨークへ足を運んでいたのに、どうしていまはイギリスにフォーカスされているんですか?

檀上:これはぼく個人の勝手な印象ですけど、イギリスってすごく独特な国だなと思うんですよ。自分たちが大事にしている文化があって、それを守りながら新しいものを取り入れようとする姿勢もある。すごい早さで変わる部分もあるし頑なに変えない部分もあって、ファッションでも食事でも、音楽でも、そういう部分が好きなんです。

それと今回の旅では、現地の知り合いみんながいろんな情報をシェアしているのも魅力的だなとも感じて。ファッションの情報をリサーチしていると、「あのひとに聞いてみなよ」って詳しいひとを繋いでくれたりとか、「お前がこういうもの好きなら、きっとこれも気にいると思うよ」って、いろんな情報をシェアしてくれるんです。それはファッションに限らず食べ物とかもそうなんですけど。そうすることで横の繋がりが強くなっていくんだと感じました。

DANJO’S EYE
写真に写っているのは友人のジェイミー。「彼はレザーブランドで職人をしていて、あるとき目的地までの道のりを聞くために話しかけたら仲良くなって、毎回いろんな情報を教えてくれます。写真を撮ったのはロンドンに新しくできたエリザベスラインの駅です」(本人提供写真)

ーコミュニティみたいなものを大事にしているんですね。

檀上:そうですね。日本って同じ業界で固まっている印象があって。だけど、向こうのひとはそれがないんですよ。業種の異なるひとたちといろんな話をしている。服屋さんは服の話をせずに、政治や音楽、どこどこのレストランが美味しかったっていう話をしていて。そういうのがすごく魅力的だと思いました。

ーすごく健全ですね。

檀上:そういうところが好きですね。だから今年の夏も行く予定です。サマータイムで日が長いから、楽しみですね。

店内にさり気なく置かれた雑誌『モノクル』のロンドンガイド。壁にはその昔、檀上さんが手にしたイギリスの鉄道のレシートがいくつも貼られている。

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