脚本を書きながら、美しい記憶をたくさん思い出した。


─監督にとって、父親はどのような存在だったのでしょうか?
ウェルズ: カラムと似ているところもありました。あたたかくて、愛情にあふれていて、クリエイティブで、私にとってすごく大切な存在です。
─お父さまとの美しい記憶、永遠のように思える一瞬があれば教えていただきたいです。
ウェルズ: おもしろい質問ですね。そうですね……カラムが腕を骨折するシーンは、多くの記者から「ソフィア・コッポラ監督の映画『SOMEWHERE』のオマージュではないか」と考察されたのですが、そんな芸術的な意図ではありませんでした。
─父親の愛らしいダメっぷりを表現する意味で、酔って階段から落ちて骨折する姿は象徴的なシーンでしたよね。
ウェルズ: 実際、私の父も手首を骨折したことがあったんです。階段から落ちたのか、降りている途中で折ったのか、そこは考えれば考えるほどわからなくなっていきました。それが記憶というものですよね。あまりに信頼できないし、常に揺らいでいるものだと、今回の作品をつくっていて感じました。はっきりとした記憶もあるでしょうけれど、奥にある記憶というものはぼんやりしているものなんだと思います。脚本を書きながら、美しい記憶をたくさん思い出しましたが、今となってはどこかに旅立っていったのかもしれません。