スエードじゃないと〈ノンネイティブ〉らしさが出にくい。
ー「ユーロハイカー」にはなにか思い入れがあるんですか?
藤井:むかしすごく好きだったんですよ。それでちょうど去年に国内で復刻を果たして、いいタイミングでした。

ーこのモデルがはじめてリリースされたのは1988年ですが、藤井さんが履いていたのはいつ頃なんですか?
藤井:2000年前後だったと思いますね。オリジナルの「ブラウン×オリーブ」は履いていなくて、イエローヌバックとか別注モデルが流行ってたんですよ。当時働いていた〈サイラス〉の先輩がサンドベージュのヌバックを履いてて、それがどうしても欲しくて。たぶんイギリスで流通しているカラーだったんだけど、先輩は出張のときに手に入れていたんです。たしかソールの色はちがったけど、とにかくこのアッパーの色がすごくかっこよかったのを覚えてますね。
ー〈ティンバーランド〉といえば「6インチブーツ」や「3アイレット クラシック」が象徴的ですが、「ユーロハイカー」も人気だったんですか?
藤井:人気でしたね。ぼくが〈サイラス〉にいた頃は、「ユーロハイカー」を履いているスタッフが多くて。こうゆうスニーカーみたいなつくりのトレッキングシューズがヨーロッパで人気だったみたいで、それを〈ティンバーランド〉が取り入れてつくったモデルだから。


ー当時はどんなコーディネートに合わせていたんですか?
藤井:デニムが多かった気がします。〈リーバイス®〉の「505®」とか、太いデニムを腰履きして、そこにトレッキングを履いていましたね。だけどこの色は手に入れられなかったから、今回こういう形でつくろうと思って。
ー今回は毛足の長いスエードで別注していますが、素材の選択肢は多かったんですか?
藤井:水に強いヌバックが圧倒的に多かったんですよ。今回の生地はオイルフィニッシュしているけど、スエードは基本的に水に弱いから、こういう素材はメーカーサイドからしたらやりづらかったと思いますね。だけどこの毛足の長いスエードじゃないと〈ノンネイティブ〉らしさみたいなものは出にくいし、こだわった部分ではあります。前回やったときにすごく好評だったから、〈ティンバーランド〉としてもすぐにOKはくれたんですけどね。


ー汚れが目立ちやすい素材だと思うんですけど、むしろ汚れていたほうがかっこよさそうです。
藤井:それも狙いとしてありますね。そんなに気にしないでガシガシ履いてもらったほうがかっこよくなると思います。
ー素材以外にこだわったポイントはありますか?
藤井:ソールのグラデーションの色ですね。ここは何回もやり直して納得のいく配色にしました。3層とも全部ベージュなんだけど、トーンがちがうっていう。

藤井:これはむかしの製法のままつくっているから、3つのパーツをすべて色に合わせてつくる必要があるんですよ。いまだったら、ソールをまとめてユニットをつくったほうが簡単だと思うんだけど、それをしてないんです。
ー今回のためにわざわざつくっていると。
藤井:ソールに限らず他のパーツもインラインにはない色を使っているから、どれも今回のためにつくってもらったものなんですよ。
ーそれを考えると、だいぶ手が込んでますね。それなのに、値段がすごく手頃な気もします。
藤井:それは本当に〈ティンバーランド〉のすごさだと思います。最近は革靴が高くてスニーカーが安いという考えも通用しなくなってきてますよね。物価が上昇してきた中で、それでもむかしと大して変わらない価格でものづくりをしているブランドもある。だからこそぼくたちは、なぜ高くて、なぜ安いのかを考える必要があると思います。
あとはステッチの色もこだわったポイントですね。
ーよく見ると、白と黒のステッチが使われていますね。

藤井:黒があることによってちょっと引き締まるんですよね。あとはミリタリー系のアイテムにも、こういうベージュのブーツがあるけど、それとはちがう雰囲気に持っていきたかったというのが理由です。