機能を知った上で必要ないと判断するか、分からないまま判断するか。
ー去年「ユーロハイカー」が復刻して、他ブランドでもこうしたトレッキングやハイキング系のブーツのリリースが相次いでいるように感じます。そうした流れに対して、藤井さんはどんなことを感じますか?
藤井:ぼくはむかしからこういうブーツが好きだから、〈ティンバーランド〉に限らず、他のブランドでトレッキングブーツを別注させてもらったこともあるんですよ。やっぱりクラシックなものが流行ると、今度はこういうブーツに辿り着くっていう流れはあるように思いますね。いまそういうムードなのもうなづけます。90年代にワークブーツが流行って、その次に取り上げられていたのは、まさにこういうアウトドア系のブーツだったから。
ーアウトドア系のモデルとはいえ、〈ノンネイティブ〉の別注は都会的というか、先ほど仰っていたように全シチュエーション型にデザインされていますよね。
藤井:これでハイキングはできると思うけど、たぶんハイキングをする人はこの靴を選ばないと思う(笑)。あくまでぼくはファッションアイテムとして、この靴をデザインしているから。

ーファッションがもっとも高いプライオリティにあるということですか?
藤井:そうですね。ぼくらはアウトドアのプロではないから。だけど、知っておくことは大事だと思っていて。トレランの靴でアスファルトを走ると足が痛くなるし、そうゆう検証をするのは好きだし楽しいんですよ。
ーそれを知ることによって、つくるアイテムのできあがりも変わってきそうです。
藤井:自分の生活において必要なもの、必要じゃないものが分かりますよね。たとえばゴアテックス®でも、どういう機能が必要なのかが判断しやすくなるんですよ。雨に何時間も打たれるシチュエーションって、普通の生活では考えられないじゃないですか。建物の中に入るわけだから。だからぼくがゴアテックス®にこだわるのは、防水よりも防風なんですよ。風が入ってくると寒いから。
要するに機能を知った上で必要ないと判断するのか、分からないままで判断するのか。そのあいだには大きな差があるんです。自分はできるかぎり前者でいたい。そうじゃないと、自分でつくったものを誰にも理解してもらえないから。
だからマウンテンパーカをつくるにしても、圧着でつくらずに、ステッチで生地を繋ぎ合わせているんです。ぼくにとっては「いかにローテクに見えるか」ということが重要だから。