PROFILE
共にデンマーク生まれの日系人である弟・清史とファッションブランド〈ザ・イノウエブラザーズ〉を手がけ、南米ペルーに位置するアンデス地方の伝統産業であるアルパカ製品を、サステナブルな手法にのっとって世界中へ届けている。今年、生まれ育ったデンマークを離れ、沖縄県に移住。
PROFILE
丸の内の老舗テーラーで修行後、パリコレクションブランドのパタンナーとして入社しその後独立。2016S/Sより〈クオン〉のデザイナーに就任。“新しいものは古くなるけれど、美しいものはいつまでも美しい”をコンセプトに掲げ、ジャポニズムデザインと襤褸(ぼろ)や刺し子などの伝統的な素材や技法をモダンに用いている。
始まりは胸に入ったタトゥーから。
ーアイテムやサステナビリティのことなど聞きたいことはたくさんありますが、まずはスタートの出会いからお伺いできればと。「ウィズム」の堀家さんが仲人的なことをされたとか?
〈ザ・イノウエブラザーズ〉聡(以下聡):僕が(デンマークの)コペンハーゲンにいたときに、たまたま(堀家)龍さんのインスタを見てたら、〈クオン〉のインスタが上がってきたんです。実は、僕と弟の胸には“クオン”という文字のタトゥーが入っていて、それが意味するところは“永遠の昔”なんです。ずっと昔から一緒に生まれ育ってきた兄弟、永遠のブラザーということで、18歳のときに入れました。だからブランドの〈クオン〉を初めて見たときにびっくりしたんですよ。で、龍さんに繋いでもらって、一緒に何かやりたいということを情熱的にぶつけました。
クオン石橋(以下石橋):ちょうどそのときに「ウィズム」と一緒にものを作っていて、その関連で堀家さんとの対談をインスタ上で見ていただいたという流れですね。うちの〈クオン〉も、久しく遠い、つまり遠い過去・遠い未来という意味で、長くいいものを作っていこうと掲げてやっています。だからコンセプトにすごく共感していただけたんです。
聡:僕たちは、服作り以前にソーシャルデザイン会社と名乗っていて、ソーシャルなプロジェクトを実行することがメインミッションなんです。そのあとで南米に行き始めてアルパカに出会ったからニットブランドを立ち上げたという順番なんですが、最近悩んでいることがあって…。最近はアップサイクルがよく話題になるし、そのコンセプトや思想自体はすごく好きなんですけど、出来上がってるものを見ると、逆にアップサイクルによって価値が下がっていて、元々のオリジナルの方がいいじゃんというケースが多いんです。でも〈クオン〉のコレクションを見たときに、もし一緒にコラボレーションできたら、これは僕たちのプロダクトの価値を上げてくれるなと一発で惚れたんですよね。
ー〈クオン〉としては、〈ザ・イノウエブラザーズ〉からお声がけがあったときはどうでしたか?
石橋:僕らは、襤褸(ぼろ)というヴィンテージの古布から始めていて、その補修とかを岩手県大槌町の「大槌復興刺し子プロジェクト」と協力して、復興支援の一つの形にしています。そういった職人さんとしっかりとタッグを組んでやっていくというところをすごく大事にしていて、その点〈ザ・イノウエブラザーズ〉さんのようにペルーまで行って、直接話をされて、嘘のない服をちゃんと作って届けているというのは、僕らもすごく素敵だと思ってました。なのでお話をいただいたときは、めちゃくちゃ嬉しかったですし、お会いしたときに思ったことは想像通りのパッションの人たちだったな、と(笑)。でもその情熱がちゃんとあるからこそ、こういう物作りができているわけだし、人と人の繋がりをすごく大事にしていらっしゃるなと。
石橋:一方で、僕らは“かっこいい”が一番だと思っているんです。どんなものを作るかという話を聡さんたちとしたときも「好きなものを作っていいよ。ただ誰とも被らない、最高にかっこいいものを作ろう」という話をしてくれて。なので、すごくモチベーションが上がりました。これまで〈ザ・イノウエブラザーズ〉が大事に作ってきたニットを僕らに渡してくださって、自由に作っていいというのはすごく幸せなことでしたね。
聡:ものを大事にしようという価値観は、お互いのブランド同士でシェアしているフィロソフィーみたいなものなので、一緒にやりたい理由の一つではあったんですけど、最初はもっとなんていうのかな…、日本語で言うところの“縁”みたいな。絶対一緒になんかやんないといけないでしょう、っていう。もし断られても、お願いし続けていたと思います。
ー今回は〈ザ・イノウエブラザーズ〉がアルパカのニット生地を提供して、〈クオン〉がデザイン・生産を担ってアップサイクルするという流れとなりました。完成したアイテムを見て、いかがでしたか?
聡:実は(取材日の)今日初めて実物を見るんですけど、出来上がる前から絶対すごいものができるなっていうのは感じてたし、久々にこういうものを見て、鳥肌が立ちました。最近服でテンション上がるっていうのがあまりなくて…。実際のところファッション業界はこの先どうなっていくんだろうという思いもあったので。でも、今日これを見れてめちゃくちゃ元気になったし、想像していた以上のものができたなと。
石橋:お話があってからものが完成するまでに、3シーズンぐらい展示会にお邪魔させてもらったと思います。その度にお酒が出てきて(笑)、色々な話をさせてもらいました。聡さんには、お店に来ていただいたし、襤褸を持って帰ってもらったりと、まずお互いのコミュニケーションを深めたあとに、これを作ったのが良かったのかもしれません。