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FEATURE
現代のリアル、ノアの約束。
And On The 8th Day….

現代のリアル、ノアの約束。

アダムとイブの原罪から幾星霜、いまだリンゴを握りしめて離さない現代の人々。人間の欲というのは本当に恐ろしいけれど、そこに異を唱えるのもまた、知恵ある者の営みであるはず。〈ノア(NOAH)〉はいくつもの問題を抱えるファッションの世界にあって、いつだって大量消費の世の中や利己的な企業姿勢に疑問を投げかけてきました。ストリートカルチャーの魅力やハイプゲームの明暗を誰よりもよく知る彼らが、いまの社会に想うこととは。

PROFILE

ブレンドン・バベンジン

1972年生まれ。ニューヨーク出身。ロングアイランドで生まれ育った生粋のニューヨーカーで、幼少時代からスケートボードやサーフィンに傾倒する。2002年に〈ノア〉を設立し、その後〈シュプリーム〉のクリエイティブディレクターに就任後の2007年に一度ブランドを休止するが2015年に独立し、再始動。先頃、韓国・ソウルに新たな旗艦店をオープンした。

PROFILE

エステル・ベイリー・バベンジン

ルーツはガーナで生まれは英国、現在はブルックリンを拠点として活動するインテリアデザイナーにしてブレンドンのパートナー、〈ノア〉の共同オーナーでもある。自身のスタジオ、〈ドリームアウェイク〉を通じてショップのデザインからセレブリティの邸宅のリノベーションまで、多岐にわたる活動を行っている。

“ストリートウェア”って呼び方には実態が無いような気がしてるよ。

―今日は時間を割いてくれてありがとう。早速だけど、日本で〈ノア〉を支持してる人は、「センスのいいストリートウェア」というように形容することが多いように感じてるんだけど、それについてはどう思う?

ブレンドン: ぼくの経歴を思えば“ストリートウェア”と呼ぶ人の気持ちも理解できるよ。つくってるアイテムでもグラフィックTやヒネったキャップ、ビーニーとかっていうのはストリートの印象が強いものだと思うしね。だけど、それはぼくらがやってることの一部で、ぼくらがやってることをちゃんと表現できる言葉が無いんだよね。本当にいろんなことをやってるし、プロダクトの種類も値段も様々だし。だから結局ストリートって言葉に落ち着くんだろうね。別に構わないけど、〈ノア〉は必ずしも従来通りのストリートウェアではないし、他の部分にも目を向けてもらえたらとは思うかな。

―ブレンドンのキャリアは華々しいものだし、どうしてもみんな象徴的なものに目がいってしまうんだろうね。

ブレンドン: そもそも始めたときからラベリングできるようなことをやるつもりは無かったから、そうカテゴライズされることにはちょっと違和感があるよ。ラベリングはどうしても可能性を狭めるし、物事をつまらなくしてしまうから。型にはめてしまうと、人は決まった見方しかしなくなる。できれば壁を壊していきたいね。

エステル: そもそも型にはめられるものでもないと思うの。“ストリートウェア”だとか、“ライフスタイル”って言葉を使うと、そこに括られてしまうだけ。

―メディアもそれを助長してる部分が少なからずあると思うから、責任を感じるよ。

ブレンドン: うん。もちろんメディア側の葛藤もわかるし、物事を伝えるには表現方法が必要だしね。何かしら括りが必要なこともあるとは思う。でも、実際にショップへ足を運んで直接服に触れて質を感じてもらえば、〈ノア〉がストリートウェアとはまた違うものだってわかるはずだよ。スーツがあったりもするしね。

―〈ノア〉とよくあるストリートウェアの違いを知る上で、やっぱりクオリティは大きな指標なの?

エステル: クオリティもそうだし、スタイル自体もそう。思想もね。もしスウェットやグラフィックTをストリートウェアだとするなら、ストリートの要素ももちろんあるけど、それはあくまでも〈ノア〉の一部ね。

ブレンドン: それこそラベリングの話になるんだけど、世の中から“ストリートウェアのヤツら”と見なされてる人たちって、自分たちではそうは呼ばないんだよ。ただ、それぞれが全然別のことをやってただけで。それはヒップホップだったりスケートボードだったり、グラフィティだったり。ぼくらはそういうサブカルチャーに親しんでいただけ。みんな自分のコミュニティのためにものづくりをしてた。他に誰もやらなかったからさ。それで、業界がそれを全部まとめて“ストリートウェア”って括ったんだ。だけどぼくらは〈ノア〉をその一部だと感じたこともないし、そこに当てはめることも無かったしで、すべてにおいてストリートとは違うと思ってる。“ストリートウェア”って呼び方には実態が無いような気が、ぼくはしてるよ。

―ラベリングの大きな原因でもあると思うけど、元々〈シュプリーム〉みたいな世界水準のブランドにいたブレンドンが〈ノア〉を立ち上げたのはそもそも何故だったの? より良いものづくりをしたいなら〈シュプリーム〉でできたんじゃないかな?

ブレンドン: 〈シュプリーム〉ではできなかったよ。ぼく個人とはまた視点が違ったからね。もちろん〈シュプリーム〉はすごいブランドだし、スケートボードをやりながら育ったぼくにとってはそこでの経験が人生の一部なのは間違い無いけど、自分がやりたいことを全部やることはできなかった。だから自分でやる必要があったんだ。物をつくって、ストーリーを伝えて、また別のビジネス的な哲学を持つためにね。

―前職でできなくて、〈ノア〉ではできるようになったのは具体的にどんなこと?

ブレンドン: 全部そうだよ。チャリティのためにどこと仕事をするのか決めるのもそうだし、1% for the Planet(自然環境保護を目的とする、企業同盟)のメンバーになったこともそうだね。

エステル: 自分の会社で決定権があるから、全部が自分で決めた通りにできるの。生産地や製造方法、品質について自己責任で決めるのも、他の人の資金ではできないことね。

ブレンドン: うん。わかりやすい例だと、〈ノア〉ではポーラーフリースを使わないようにしてるんだ。ポリエステルのフリースは洗うとたくさんのマイクロプラスチックが出るから。いい製品だし、ぼくらも子供の頃には着てたけどね。もし〈シュプリーム〉にいたときにポーラーフリースの不使用を提案してたら、笑われてただろうな。

―少数派の考え方を採れるのはインディペンデントな会社だからこそだね。この時代に独立した組織にはどんな価値があると思う?

エステル: 規模が小さいほど責任を持って選択がしやすくなるし、個人的には小規模で独立したブランドが好き。インディペンデントな会社が多いほどいいと思うし、実際にそういう素晴らしいブランドはたくさんあると思うわ。それが成長する過程ももちろんおもしろいんだけど、一番の価値は誠実な姿勢ね。

―そこに共感する人は多いと思うけど、実行するかはまた別だよね。そういうブランドを始めるのと続けるの、どっちが大変?

ブレンドン: 続けることだね。始めた頃は自分たちにとって新しいと思うことをやって、それが話題にもなったと思う。「あのブランドってイケてるけど、環境とか社会正義のことも考えてるんだよな」って感じで。社会的な責任を果たした運営と上質な素材使いとが両立してるところって、他にあまり無かったと思うしね。だけど、しばらくすると他がこぞって同じような理念を掲げるようになってくる。そんな状況でも、自分たちのやっていることに自信を持って真摯に、誠実にやり続けるんだ。他が不誠実なビジネスをしていても、世の中が誰が本物で、誰がそうじゃないのかを見極められるようになるまで耐えなくちゃいけない。

―それは確かにハードだね…。

エステル: 私たちが大切にしていることについて話し合えるプラットフォームが持てるのも、〈ノア〉をやってる理由のひとつね。自分自身の信念を主張することもソーシャル・ジャスティスだと思うし、私にとってはクラブハウスもその一部なの。

INFORMATION

NOAH CLUBHOUSE

住所:東京都渋谷区神宮前4-26-29
電話:03-5413-5030
時間:11:30〜20:00
Instagram:@noahclubhouse
noah-clubhousetimes.jp

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