龍が安眠を守るパジャマ。

サッカー雑誌から培われた色使いのセンスが、遺憾なく発揮されているのが今作のパジャマ。〈水流舎(つるしゃ)〉というブランド名を掲げ、つくられたのはセットアップのパジャマ1種のみ。これが出来上がるには、又吉さんの故郷、大阪の寝屋川市が深く関係しています。
「ブランドをつくりたいというより、パジャマをつくりたいと思ったのがきっかけでしたね。 自分は地名の由来とかを調べるのが好きで、出身地の “寝屋川(ねやがわ)” の由来を調べたら、諸説あるんですけど、京都・大阪間で昔の偉いひとが移動するときに泊まった家があるから “寝屋”。そこに流れてる川だから、“寝屋川”。もう一つが生駒の方面で狩猟してたひとたちが寝泊まりしてたっていう説もあったり。それで、いまは寝屋川は大阪のベッドタウンになっていて、過去から伝聞されてる地名の由来と現代の街の使われ方がリンクしてるっていうのがすごくおもしろいなと思っています。自分は寝る場所、寝る街で生まれ育ったんだなということを意識し始めたときに、ふとパジャマつくってみたいなって思い始めたんですよね。“寝るときに着てもいいし、そのまま出かけてもいいパジャマ” っていうコンセプトが出来上がったのが、いまから7、8年前。最初は誰かに相談するわけでもなく密かにいろんなパジャマを試すようになって、人前でポロッと言ったのは1年前。そこから、本格的にこの企画が走り始めた感じです。
〈水流舎〉という名前も寝屋川からきていて、学生の頃に寝屋川沿いを走ったり、思い入れが強いんです。そういう思い出もあるし、水の流れるイメージってなんとなくいい睡眠ができそうな気がして、そういうところから〈水流舎〉というブランドにたどり着きましたね」
構想から7、8年。何回寝たかも数えられないほどの長い年月と、これまで着てきた膨大な数の古着をパズルのピースのように繋ぎ合わせて完成したパジャマ。その一着には、又吉さんらしさが集約されています。
「ラフスケッチを描いて、それをつくってもらったというわけではなく、これまで着てきたパジャマとか、着心地がいいから寝巻きになっちゃった服が自分の中にストックされていて、 そのイメージを細かく伝えていって形になった感じです。パンツにはポケットを付けて、裾はこうしてほしいとか、トップスはストレスなく着れるように、ゆったりしたサイズ感で、みたいなことを話して試作品をつくってもらって、さらに修正を加えていくという流れでした。トップスとパンツは別々の服をつくっているイメージだったので、セットアップで着たときに違和感がないか不安だったんですけど、微調整してくださったお陰か、セットで着たときの収まりが想像以上に良かったですね。刺繍もこれだけ細かく、配色も綺麗に再現されるんだなと思って、我ながらいい出来かなと」


これまで愛用してきたパジャマのいいとこ取りしたような一着は、それぞれのパーツやディテールにも又吉さんの思いが脈々と流れています。生地に使われているのは、ビスコースレーヨンで織り上げられたモールスキンバイオ。モールスキンバイオと言ってもフレンチワークのようなガシッとした堅さはなく、しなやかな肌触りで着心地もかなり良さそう。
「この生地も、これまでいろんなパジャマを着てきたなかで、こういう素材が落ち着くなっていうものを選んで、最終的に絞った3種類の生地でサンプルをつくってもらって。それを実際に自宅で試してみて、 いちばん着心地がいいなと思うものにしました。この生地は経年変化もするそうなので、それも楽しみですね。ボタンもハワイアンシャツに使われてるような、ウッド調のボタンにしてます。白いボタンだと生地の色と合わせたときに浮いちゃったので、このボタンにしたり、かなり細かく注文させてもらいました」

左胸に鎮座するのは、オリジナルの龍の刺繍。〈ダブレット〉やスカジャンなど、刺繍モノの服をよく着用するだけに、こだわりも人一倍です。
「昔から刺繍の入ってる服は好きだったんですけど、小中学生の頃は値段が高くて手が届かない存在。大人になって買えるようになりましたけど、やっぱり自分にとって刺繍は特別感があって。この龍も浮世絵っぽい龍の刺繍を入れたくて、結構細かくオーダーしました。右向きでちょっとうずまいてて、寝るための龍なので口は閉じてほしい。色も青にして水っぽくしたり。龍は、“水神”とも呼ばれて崇められる存在なので、安眠を守ってくれたら、みたいな安眠祈願も込めてます。たまたま今年が辰年なんですけど、それはそれで縁起いいし、いいかなみたいな」