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ホワイトマウンテニアリングがパリで魅せた “等身大” のクリエイション。
White Mountaineering 2024-25 AW Collection

ホワイトマウンテニアリングがパリで魅せた “等身大” のクリエイション。

「自分自身でつくった服を身につけ、多くの旅をした」と語る相澤陽介さん。〈ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)〉の2024-25年秋冬コレクションは、“Destination” をテーマに彼が世界で目にした景色からイメージを広げています。その底流にあるのは、46歳になったデザイナーが考える理想の男性像。メンズウェアの品格や装い、トラッド、アウトドアといった要素に加えて、ファッション以外にもデザインの領域を広げる彼の経験がそこに厚みをもたらしています。18回目となるパリでの発表の直後、興奮冷めやらぬバックステージでつくり手本人に声を掛け、今回のクリエイションと今後のブランドの展望について話を聞きました。

ファッションを超えた活動から見えてきた現在地とこれから。

ー振り返ると〈ホワイトマウンテニアリング〉はパリで発表をはじめて9年が経ちました。続けることで変わったと思うことはありますか。

相澤:13年ほど前、はじめて海外で展示会を開いたのがニューヨークでした。そのときはカジュアルでトラッドマインドあふれる服をどうやってショーアップするかという流れがあったんです。その後、「ピッティ・ウオモ」にゲストデザイナーとして呼んでいただき、そのタイミングで〈モンクレール〉とコラボレーションしました。9年前にパリに来たら、メゾンを含めてストリートの流れが強くなっていたり、すごいスピードでトレンドが変わっています。

その中で、ぼく自身はファッションの主流を横目で見ながら、自分たちならではのスタイルを打ち出そうっていう思いがありました。当然ぼくはセールスをしっかり考えなければいけない立場でもあるから軸がブレないように、シーンをしっかり見ながら自分らしくやってきたつもりです。ブランドを20年近く続けてきて、自分の一番好きなテイストというか、自分が着る服、自分が使うものを提案することが改めて大事だなと思ったんです。

〈ワイルドシングス〉のブルゾンは機能性はもちろん、この絶妙な色使いが利いている。〈グローブ・トロッター〉とのコラボではミニサイズのバッグも展開。

ーいろいろなことを経験してきたことで、服づくりの原点に戻ったのかもしれないですね。パリのファッションウィークから去るブランドもあるなかで、ショーをやり続けるというのもなかなかできないと思います。

相澤:パリ・ファッションウィークがすべてではありませんが、このフィールドを選んだ以上、ある程度、結果を出すまでこだわるというのはクリエイターとして重要かもしれません。

ぼくらは過去の経験からショーのディレクターやキャスティング、セールスなど現地スタッフと長年コミュニケーションを取っていまに至ります。パリでの発表に関わるスタッフが、9年間ほぼ変わっていないんです。

モデルに関しても〈ホワイトマウンテニアリング〉のショーに出たいと言って来てくれるモデルも増えました。当然のことですが、大手メゾンや世界のブランドが参加するファッションウィークで日本のブランドが継続的に参加し、認知してもらうことはとても大変なことだと思っています。その中で現地の仲間がずっと支えてくれているのは心強いですし、ぼくはものづくりに集中できます。ブランドはひとりじゃできないので、こういった環境をつくることも継続するためのひとつの要素だと思います。

ショーには大人な雰囲気漂うさまざまなモデルたちをキャスティング。

ー〈ホワイトマウンテニアリング〉がパリでかなり認識されてきたということですね。一方で相澤さんはデザイナーとしてのキャリアを積みながら、現在はファッションの枠を越えて活動されています。この先、自身の中で目指しているところはありますか。

相澤:コロナ禍になりぼくの生活は現実的に大きく変わりました。それまで欧米の仕事が多く、コロナ禍の初期もちょうどイタリアの〈ラルディーニ〉と仕事をしていましたが、ご存知の通り、ヨーロッパはイタリアからコロナの流行が大きくなりました。そこに行くこともできなくなり、いままで当たり前だった仕事のスタイルが不可能になったんです。

当然、連絡を取り合う中で、大きな被害が出ていることを身近に感じていましたし、それが日本でも同様に広がっていく中でデザイナーとしての意識が変化したと思います。

それをきっかけに、以前から温めていた軽井沢の生活も一気に進めることになりました。日本の中でできることを考えるようになったし、今後のライフスタイルについても見つめ直す機会になりました。

ありがたいことに、むしろコロナ禍で仕事が増えて、〈ユニクロ〉とのコラボレーションや「ヤマト運輸」の制服デザイン、「NOT A HOTEL」では建築を含めたディレクションなど、ファッションとはまったく関係のないプロジェクトを手掛けることも増えました。また、昔から好きだったサッカーが仕事となり、「北海道コンサドーレ札幌」のディレクターとして経営に参加し、現在は取締役も務めることになりましたし、「多摩美術大学」や「東北芸術工科大学」では客員教授になり教鞭を執っています。

ファッション以外にもデザインの領域を広げるから勘違いされることもありますが、ぼくはファッションを一番大事な核として考えています。だって、ファッション以外の分野でも、ファッションが存在しない環境ってないじゃないですか。服を着ないことはないし。「ヤマト運輸」の制服はもしかしたら、その会社に関わる方々が一生で一番着る服になるかもしれない。ホテルの制服はその建物やインテリアに馴染むことも大切な要素になってきます。

乗るクルマやバイクによってもファッションは違ってきます。クルマにこだわれば、それに合わせて身につける服や時計も変わってくるし、バイクにもさまざまなスタイルがあります。そんな風にファッションとは一見関係ない分野のことや自分の趣味を服に繋げていく作業がいま一番面白いです。見たことのない世界に積極的に入り込んで、趣味をどんどん広げていくとビジネスチャンスも生まれるし、自分に必要なものが見えてくるんです。

舞台袖でショーの開始を待つモデルたち。

ー異なる世界や〈ユニクロ〉と仕事することで、相澤さんの中でファッションの捉え方が変わったということですか。

相澤:そうですね。〈ユニクロ〉などを通して、いろんなひとに知ってもらうチャンスをいただきました。昔から言い続けていますが、ファッションはある意味クライアントのいないデザイン領域であり、自分の世界観を追求することだと言うと、アート的な文脈になっていってしまう。その中で多くのひとに着用してもらうことを条件としてデザインやものづくりをすることができるのはとても有意義だと思っています。

ファッションだけに突出すると、それ以外がおざなりになってしまうことがあると思います。ぼくは単純にファッションだけではなく、いろいろな要素の複合体の中から自然にファッションが生まれてくるのが一番いいと思っています。

ー仰る通り、それがファッションの本来の在り方だと思います。今日、話を聞いていて、相澤さんのファッションに対する想いがよく分かりました。

相澤:結局、服が好きだし、つくることも好きだし、それは今後も変わらないと思います。いろいろなことをやっているからファッションに対して真剣じゃないって勘違いされることもありますが、誰よりも真剣だし、向き合っているつもりです。

いろいろなジャンルに挑戦することで知識が増えるし、それをファッションの要素として取り入れることもできます。いまモードの世界だけで物事を突き詰めるというのは、ファッションの教育に携わる人間として違うようにも感じています。

もちろん壁にぶつかることもありますが、自分自身が納得して続けてきたことには本当に意味があると思っています。経験でしか先は見えてこない歳になったのかもしれないけど、これからもチャレンジを続けていきたいです。

INFORMATION

ホワイトマウンテニアリング

電話:03-6416-5381
オフィシャルサイト
Instagram:@whitemountaineering_official, @blk_whitemountaineering

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