マーケティングの外側にあるもの。
そもそも〈プエブコ〉の製品は、どうしてあんなに魅力的な商品ばかりなのだろう。北欧風でも、インダストリアルでも、ナチュラルでもなく、なんとなく国籍不明で、飾り気のない佇まいはニュートラル。企画やデザインという工程にその秘密があるんじゃないだろうか。
「それは世の中の多くのものがマーケティング主導でできているからかもしれません。お客さんが欲しいものはなんですか? と聞いてその意見をどんどん入れていくと、いわば “角” が取れてどんどん丸くなっていく。でもそれには満足できないお客さんもいる。じゃあ、そういうひとは、何を求めているんだろう? ということを常にずっと考えています」

マテリアル探しは目当てのものが見つからないことも珍しくない。
要は合議制のもと最大公約数を狙うのではなく、田中さんが自分の頭で徹底的に考えた、“薄味ではない” アイデアしか通用しないということだ。本当のクリエイションとは孤独な作業なのだ。
「別に自分がすごいことをやっていると言いたいわけじゃありません。例えば、さかなクンや大谷翔平選手は、好きでやっていたらあそこまで行ったわけです。やらされていない。私の場合も何よりもまず、こういうのがおもしろいからつくろう、売ろうと。その連続です。でも、一方で他のブランドと同じものをつくっていてもダメだろうと。だから〈プエブコ〉の製品は、1,000人にひとりが好きになってくれたらありがたいと思ってます」


インドでつくられる〈プエブコ〉の定番インディア・クロスのマルチカバーとバッグ「FLEXIBLE CONTAINER FABRIC BAG」(¥5,500)。
日本でプロトタイプをつくりながらじっくりと考えることもあるそうだが、せわしなく動いている時にアイデアの種が降ってくることも少なくないという。
「インスピレーションは海外で見かけたものや発掘した素材から得ることが多いですね。自分の想像力なんてたいしたことないから、革新的なアイデアをいきなり思いつくなんてことはありえない。だから、街や展示会でいろいろなものを見て、アイデアの種を探すんです。高城剛さんが言う『アイデアは移動距離に比例する』というのはまさにその通りで、違う文化圏にできる限り足を運ぶようにしています」
このことを象徴するエピソードが取材中にあった。
素材探しの途中だった。街中で急に田中さんが足を止めて、道端で休んでいるロバの背中に載せられた、ロープの編みカゴがほしいと言い出した。おそらく飼い主であろう、隣にいるひととの交渉がはじまり、見事商談成立。聞けば、この編みカゴを次の展示の参考にしたいとのこと。これに限らず、常にアンテナを張り、いろいろなことが頭の中を同時並行で流れているということは、想像に難くない。


ロバの背中のカゴを手に入れるという、田中さんの突然の行動に取材班は呆気に取られた。
この取材に同行してくれた〈プエブコ〉のスタッフがこんなことを教えてくれた。「社長は、新商品や展示方法のヒントになりそうなものを常に探していて、一緒に道を歩いていると、あれいいね、これいいねって。365日、24時間仕事のことしか考えてないと思います。社長は結果も重視するし、厳しさもある。でもその時の仕事を120パーセント楽しもう、やり切ろうという厳しさです」