ポッドキャスト番組戦国時代といえる昨今。「フイナム」も参画するポッドキャスト番組「カルチャーと街づくりの経済学~カルチャースケーパーズ~」が、2026年5月末から火曜朝の週一配信でスタートしています。
基本的な座組としては、「グリーニング(GREENING)」のCEOである関口正人氏、「ランドスケーププロダクツ(Landscape Products)」代表取締役の中原慎一郎氏、そして「フイナム」編集長の小牟田亮の3名がMCとなり、カルチャーシーンを牽引するキーパーソンをゲストに迎えていきます。
改めて、前者二人の会社に関してご紹介しておきましょう。
鎌倉の「ガーデンハウス(GARDEN HOUSE)」や、下北沢の「マスタードホテル(MUSTARD HOTEL)」、沼津の有形文化財を活かした宿泊施設「沼津倶楽部」など、飲食・ホテル・商業施設の企画開発から運営までを手がける「グリーニング」。そして、「風景を作り出す」を社名とし、インテリア・家具・空間・アートを横断した事業を展開する「ランドスケーププロダクツ」。旗艦店である「プレイマウンテン」やカフェ「タスヤード」など、千駄ヶ谷を拠点に多角的なライフスタイル提案をしています。
お二方とも長年街づくりに携わりながらも、裏方的な存在だったからこそ、表立って話をする機会はそこまで多くありませんでした。しかし、点や面、さまざまなスケールで街づくりを実践してきた両者だからこそ話せる“活きた情報”は、さまざまな課題を抱える日本の街づくりのヒントになるのではないでしょうか。
はたしてどんな内容の番組なのか。ポッドキャストには未収録ですが、番組説明のキモになりそうなので、関口さんの考えをここでご紹介しておきます。
関口:日本のカルチャーが世界的に高く評価されるようになってきたなかで、それを単に「カルチャー=かっこいいもの」として終わらせるのではなく、これからの仕事やビジネスに繋げ、日本を後押しするような成長産業にしていけるのではないかという可能性を感じています。そうした視点を「経済学」という少し学問的な切り口でまとめ、リスナーの皆さんも含めて一緒に気づきや学びを得られる「共同ラボ」のような場にしたいという思いから、この番組名にしました。
「カルチャースケーパーズ」という言葉には、そうした活動を体現している人たちという意味を込めています。今後は食や建築、アートなど、さまざまな分野の第一線で活躍されている方をゲストにお迎えし、その方々の活動や仕事を深く掘り下げながら、皆さんと一緒に学び、新たな気づきを得られるような番組にしていきたいです。
この記事を配信した時点では、「カルチャーは、いかにして都市の価値を変えるのか?」をテーマに、#1〜4が配信されています。未聴の方に向けて、各回の見どころをまとめました。気になる方はポッドキャストでぜひ本編をお楽しみください。
#1 伝統文化と現代ビジネスの融合:これからのライフスタイルと街作りの編集術とは?
だしショップの衝撃。
互いの原点ともなった、10年前にサンフランシスコで開催されたポップアップイベント。その現地での凄まじい熱狂を振り返りながら、対談はスタートします。
関口:約10年前、アメリカのサンフランシスコで日本の乾物や道具を紹介する「DASHI KATACHI Essence of Japan」というポップアップイベントを中原さんと開催しました。日本の中小企業を海外に紹介するのが目的でしたが、現地の人々が熱狂的に興味を持ってくれたことに大きな衝撃を受けました。私自身、若い頃からアメリカ文化に憧れていましたが、このイベントを通じて「日本文化や日本人ってすごくかっこいいんだな」と肌身で感じ、日本のかっこいいものを仕事(街づくりやビジネス)として形にし、次世代に繋いでいきたいという思いが芽生えました。
中原:2015年のこのイベントは、現地の物づくりや食に携わる人たちと日本がグッと近くなる、私にとっても非常に大きな経験でした。当時はまだ海外で「だし(DASHI)」という言葉は浸透していませんでしたが、あえて言葉をそのまま使い、道具も「形(KATACHI)」として表現したところ、現地にすんなりと受け入れられました。会場となった陶器ブランド〈ヒース・セラミックス(Heath Ceramics)〉のオーナーからも、歴史上一番人が集まったイベントだったと言われるほど大成功を収めました。
抹茶に見る文化の輸入。
情報スピードが加速する現代において、日本のカルチャーが海外でどのように独自の解釈をされ、生活に溶け込んでいるのか。具体的な事例を挙げて考察します。
関口:10年前と今では情報の交換スピードが変わり、日米の価値観が混ざり合う「真ん中」のような視点が出てきています。例えば、今アメリカで大人気の「抹茶(Matcha)」が良い例です。日本人は伝統的な抹茶として捉えますが、アメリカでは健康ドリンクや緩やかなカフェイン、ケールジュースのような感覚で生活に取り入れられています。それでいて、ブランドとしては精神性を説いていたりする。アメリカ人の「想像力を持って良いものを取り入れ、自分たちのライフスタイルに落とし込む能力」は非常に長けていて面白いなと感じます。単に文化をそのまま輸入・輸出するのではなく、時代や生活様式に合わせて形を変えながら繋がっていくことが重要です。
文化を編集する視点。
変わりゆく時代のなかで「文化を残す」ためのアプローチとは。番組がテーマに掲げる「カルチャー×街×ビジネス」という掛け合わせの可能性について掘り下げます。
関口:忙しい現代人が毎朝イチから出汁を引くのは難しくても、出汁パックのような形に姿を変えることで文化は残っていきます。今の私の関心は、そうした「文化をどう編集するか」という点にあります。日本の良い文化を、現代の日本人や海外の人々の生活様式に合わせてどう伝えていくか、ビジネスとしてどう形にするかを考えています。
小牟田:自分は編集者という肩書きなので「編集」という言葉には敏感なのですが、どのジャンルの方も何かを掛け合わせている時点で、実は編集を行っているのだと思います。この番組に「カルチャー」や「街」だけでなく「ビジネス」という側面が入っているのは非常に面白い試みだと感じています。クリエイティブな世界ではビジネス論がどこか敬遠されがちですが、やり方次第でとてもオーセンティックなテーマになります。この3つの掛け合わせから、これからのビジネスや文化研究の話を深く掘り下げていきたいです。
#2 都市の熱量は「食」から生まれる:クリエイターが集まるエリアに共通する初期衝動とは?
おもしろい街の話。
国内外のさまざまな街を訪れてきた二人が、今おもしろいと感じているエリアや、時代とともに移り変わる都市の変化のスピード感について語り合います。
小牟田:お二人は国内外問わずいろいろ行かれていると思いますが、面白い街とはどういったもののでしょうか?
関口:20年前くらいに「プレイマウンテン」や「タスヤード」ができて街の色が変わっていった千駄ヶ谷も面白かったですが、かつてのサンフランシスコのミッションエリアや、ニューヨークのブルックリンも、変化の仕方が面白かったです。当時は大手チェーンではなく、自分たちで焙煎するこだわりのコーヒーロースタリーができ、IT経済の後押しもあって周囲にアトリエや人が集まりました。日本の裏原宿はファッションが街を変えましたが、あちらではコーヒーやパン、カクテルといった「食」のプレイヤーが話題を作っていたのが印象的でした。
中原:最近はカリフォルニアよりもアジアに行く機会が増えましたが、韓国や台湾の変化のスピードには本当に驚かされます。何もなかった場所に急に若い人が店を始め、投資が入った瞬間に、びっくりするほど街の様子が変わる。カリフォルニアで10年かけて起きていたような変化が、アジアではもっと短いスパンで行われています。この猛烈な勢いの後に何が残るのか、非常に興味がありますね。
小牟田:いまの若い人の興味関心が確実にあるのは、アジアであり、韓国などのファッション、カルチャー、ミュージックみたいなところですよね。
過程を楽しむ強さ。
アジアの凄まじいスピード感の背景にある「熱量」の話から、中原氏がカリフォルニアの人々から学んだという、ものづくりにおけるマインドへと話が深まります。
関口:韓国のベンチャー創業者が「仕事が楽しすぎて、社員みんなで24時間働いている」と言っていました。今の日本は働くことへの価値観が変わり、それはそれで良いのですが、やはりあのスピード感の裏には圧倒的な熱量がある。その熱量には勝てないなと感じる部分もあります。
中原:僕がサンフランシスコなどのアメリカで学んで大きかったことは、物作りをする人や食関連の人たちがみんな、過程(プロセス)をすごく楽しんでいるということ。例えばラーメンだったら、日本ではオリジナルがあって、効率的にいろんなものができちゃっているんですけど、向こうはオリジナルを知らないから、初期は自分たちの手探りで始めてインディペンデントに物を作ろうという人たちがいる。その過程を見ていて、ここに面白さがあったんだ、ここにオリジナルなものが眠っているんだなというのを教えてもらいましたね。
小牟田:アメリカには合理的に物事を動かす人たちが多いのかなと、スクエア(堅苦しい)な見方をしちゃっていたんですけど、カリフォルニアの人たちがプロセスを大事にしてものづくりをするというのは驚きですね。
中原:日本では、継承し続ける美学が強すぎるのかもと思うことがあります。オバマ大統領のときに「G20」でのお土産が、ホワイトハウスの芝生を剥がして作った農園で採れたハチミツだったんですよね。日本だったら絶対、創業何百年の何々を贈る、となるじゃないですか。アメリカは「庭で採れたハチミツを渡すんだ、かっこいいな」と思ったんです。
点から面へ。有機的に始まる街。
千駄ヶ谷の記憶へ。ひとつのショップという「点」がきっかけとなり、そこから人と場所が有機的に結びついて街が生まれていくプロセスを振り返ります。
関口:僕がサラリーマン時代、オフィスが千駄ヶ谷にあったので、中原さんの「プレイマウンテン」を中心に街が「編集」されて変化していく過程を間近で見ていました。中原さんはデザイナーとも違って、まさに街を編集している人だなと感じていました。
中原:最初から街を作ろうなんて意識はなくて、すべては人と物件の偶然の出会いから始まりました。2店舗目の物件も、最初は飲食不可の場所を冗談半分で「カフェをやらせてくれるなら借りる」と言ったら、急にオーナーからOKが出て(笑)。ちょうどそのとき、鹿児島から上京してきた先輩のコーヒーマスターがいたので任せることにしたんです。
小牟田:街に人が長く滞在するには飲食店やカフェが起点になり、そこから洋服屋などが広がっていくケースは多いですよね。
中原:地方都市でも、何もない場所に1つの店ができるだけで急に人が集まり、変化していく。そうした有機的な街の広がりは、各地にあって非常に面白いなと思います。
#3 次世代組織の在り方と信託型経営:クリエイターが育つ環境
ファッションから衣食住へ。
時代の変化に合わせてライフスタイルやカルチャー全般へとその枠を広げていく「フイナム」の、メディアとしての新たな方向性について語られます。
小牟田:「フイナム」はファッションからスタートして20年以上経ち、読者も自分と同じように年を重ねてきました。服から始まった興味関心ごとが家具や建築、そして食へ移っていくのは自然なことです。さらに今、皆さんの関心は国内の旅や観光に向いていると感じるので、日本をしっかり掘り下げたい。クリエイターが最終的に宿泊施設をやりたくなるように、衣食住がコンパクトに凝縮されたコンテンツを「フイナム」でも取り入れたいです。
関口:ファッションから少し枠を広げて、カルチャー、まちづくり、観光や食も含めて広がっていくような展開ですね。
経営と美の二兎を追う。
クリエイティブとビジネスの両立という普遍的なテーマから、アメリカの老舗ブランドが実践する最先端の組織形態へと話が展開します。
小牟田:クリエイティブとビジネスは相反するものではなく、両輪で回すべきものだと思っています。デザイナーが社長をやった方がいいという話もありますが、ビジネスをやりながら美を突き詰めることは両立できるはずで、今後の参考になるビジネスの話もやっていきたいです。
中原:僕は今「コンランショップ」でCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として働いていますが、CEOとCDOが横並びでいる体制は会社のバランスに凄くいい。また、サンフランシスコの〈ヒース・セラミックス〉は、社員全体が目的を達成するための信託会社のような形態に変えたそうです。全員に持ち株を渡して、代表の二人は数字とクリエイティブの議長であって会社の代表ではないというやり方。アメリカはそういうことまで先に行っているなと、新しい未来を見せてもらいました。
大量生産からクラフト焼酎へ。
中原氏が20年以上関わり続ける鹿児島を舞台に、クラフト文化の熟成と、人と地域が共鳴して生まれる街の変化について掘り下げます。
小牟田:中原さんがずっと関わられている鹿児島は最近どうですか?
中原:2000年頃から地元・鹿児島には頻繁に帰っていますが、面白い物作りをするクリエイターがどんどん増えています。彼らをいろいろなところに連れていくことで、だんだん物が良くなっていく経過を見てきました。彼らがまとまり始めると、ものづくりの文化と動きが現れて街が変わっていく。僕が20年前に始めたデザインとクラフトのフェアは、行政のお金をまったく必要とせず、世代が若返りながら毎年多くの人が参加する大きなイベントになっています。
関口:中原さんがいることで、鹿児島と千駄ヶ谷とアメリカという三角形のバランスがめちゃくちゃ面白い。この文化交流から生まれる予想できない化学反応が面白いですよね。
小牟田:今では市民権を得ている「クラフト」という言葉も、中原さん周りの活動から広がっていったんじゃないかなとメディア側としては見ています。
中原:鹿児島のクラフトでいえば、大量生産だった親世代から引き継いだ焼酎メーカーの3代目や4代目のなかには、原点に戻って、芋から作り始めて焼酎のポテンシャルをどう引き出すかという作り方に変えている若い子たちがたくさんいます。ナチュラルワインを置く店が急にその焼酎を置くようになったり。お酒の業界でもそういう変化が起きています。
#4 都市か地方か、それ以外か:不動産バブルと観光、これからの日本の「街作り」を考える
鎌倉や地方都市の価値。
関口氏が手がける「ガーデンハウス」がある鎌倉を切り口に、大都市ではない場所で経済と文化が成立する、これからの日本の街の在り方について話が進みます。
関口:鎌倉の七里ヶ浜の土地は15年前は一坪100万円でしたが、今は400万、500万円です。日本で一番土地代が上がったのはニセコ、次に白馬ですが、これは単なる不動産価格の話ではなく、街の価値の転換点を迎えているということです。ただ海や山が綺麗なだけでなく、サーフィンやスノーボードを楽しむ文化や生活があり、そこに食や観光の要素がある。東京ではない場所で価値と生活と文化が経済として成り立っている湘南エリアのような在り方は、これからの日本の地方都市の在り方を先行的に形にしていると思います。
小牟田:海外の方も日本への解像度が上がっていて、「こんなところも知っているのか」という飲食店にも海外の人がいますね。一方で、オーバーツーリズムや交通インフラなどの課題も出てきていると思います。
関口:インフラにも関わるので、単純に観光客の数を増やすようなビジネスは難しくなってきますが、生活と文化が成熟したことで、「何もしない時間を鎌倉で過ごしたい」という新しいニーズが増えつつあると思います。
日本のコンテンツ力。
掘っても掘り尽くせない日本のコンテンツの奥深さと、アジアのクリエイティブの勢いがもたらすインテリア業界の新たな潮流について語られます。
関口:ホテルを運営していて感じますが、インバウンドはまだまだ増えます。一見さんというより、年2回来ていた人が3回、4回と増えていく感覚です。例えば日本はラーメンを食べようとしても選択肢が無限にある。外国人から見たら、掘っても掘ってもまだある国なんだと思います。
中原:アジアのクリエイティブのスピード感も早いです。例えば「コンランショップ」では、今の世界情勢だとヨーロッパからの輸入はハードルが高く、厳しい問題がたくさんあります。だからアジアで物作りをしたり、各国に同じ共通言語で喋れる同年代の窓口を作ってコネクションを繋げていくことが大事だと思います。
小牟田:自分もビジュアル制作などを通してアジアのものづくりの勢いやブランディングに目を向けると、リファレンスへの解像度の高さに目を見張ります。今後もアジアは見ていかなきゃいけないですね。
文化を繋ぐゲスト達。
伝統的な産地文化が直面する危機を乗り越えるため、番組の今後を見据えて「これからの未来を作るゲスト」への期待を膨らませます。
中原:今、円安もあって海外の友達が日本の生産背景に興味を持って訪れています。アパレルの世界でも「日本で作るのが一番いい」と、岐阜などに家を買って生産拠点を構えている。アメリカには焼き物の街のような「産地」が点在していなくて一大産業になっていないけれど、日本はウールなら尾州、靴下なら和歌山と、産地がまだギリギリ残っていますね。
関口:問屋も昔ながらの問屋ではなく、クラフトフェアに問屋として出ていって紹介するような、新しい問屋の形になると価値がちゃんと繋がって面白いですよね。そういう人たちの話を聞いてみたいです。
小牟田:直接取引が増える中で、問屋さんも「編集」やキュレーション、誰かと何かを繋げる発想を持てば新しい需要を生み出せると思います。大変な現状を踏まえた上で、「じゃあどうしていこうか」というポジティブで楽しい話ができるゲストをお呼びしていきたいですね。
「経済学」や「街づくり」と聞くと、一見、机の上の難しいお話のように思えるかもしれません。しかし、第一線で現場を動かしてきた人たちが交わす言葉は、どれもリアルで、私たちの日常やこれからの仕事に直結するワクワクに満ちています。これからの日本のカルチャーをどうビジネスに変え、街の未来へと繋いでいくのか。その「共同ラボ」の扉はすでに開いています。
毎週火曜日の朝、通勤や通学のひとときに、彼らの賑やかでディープな雑談に耳を傾けてみませんか? まずは気になるテーマの回から、ぜひチェックしてみてください。
Photo_Masayuki Nakaya
Text_Shinri Kobayashi

