前編でブラジルの街と自然を巡った「グローブスペックス」代表の岡田哲哉さん。旅のきっかけは、数年前にミラノの展示会で出合った〈ラピマ(LAPIMA)〉でした。アイウェアとともに飾られていたブラジルの美しい風景写真に惹かれ、岡田さんはそのデザインの源となる景色を自分の目で確かめたいと感じました。ブラジルの風景は、どのように一本のフレームになるのか。後編では〈ラピマ〉のサンパウロの店舗、そしてカンピーナスにあるデザイナー夫妻の自宅と工房を訪ねます。
サンパウロ – アイウェアを引き立てるミニマルな空間。
旅の途中、岡田さんはサンパウロにある〈ラピマ〉の2店舗にも足を運びました。ショッピング街の商業施設内にある「LAPIMA CONCEPT STORE」と、今年6月にオープンしたばかりの直営店「LAPIMA GALERIA」です。
コンセプトストアでは、吊り下げられた銅製のディスプレーに眼鏡が浮かぶように並び、中央にはブラジルのデザイナー、クラウジア・モレイラ・サレスによるベンチが置かれています。
一方のガレリアは、現代アートの展示室を思わせる白い空間に、有機的な曲線を取り入れたつくり。円柱状の什器は可動式で、空間構成を自由に変化させることができます。どちらの店も〈ラピマ〉の独創的な色彩と立体感が際立つシンプルな内装です。
大胆な形をしたアイウェアのフレームを、すっきりとした空間で見せる。その印象を胸に夫妻の自宅を訪ねた岡田さんは、そこに広がるもうひとつの〈ラピマ〉の姿を知ることになります。
カンピーナス – アートな感性が詰め込まれた、夫妻の創作の原点となるマイホーム。
サンパウロからクルマで約1時間半。〈ラピマ〉が拠点を構えるカンピーナスで、岡田さんはまず、グスタフォ&ギゼラ・アシス夫妻の自宅を訪ねました。床から庭のウッドデッキ、その先のプールへと、フラットでシームレスに続く空間。リビングの壁やサイドボードにはブラジルの現代アートがびっしりと飾られ、テーブルにはデザインやアートにまつわる本が何冊も積まれています。
「外に目を向けるとワイルドな木々があり、サーファーでもあるグスタヴォがコレクションしているヴィンテージのサーフボードも、アートのように空間の一部になっていました。彼らのブラジルへの愛を強く感じましたね」
前編で岡田さんを圧倒したブラジルの自然も、ここでは夫妻の暮らしと地続きになっています。
かつて彼らはセレクトショップを運営するなど、長年にわたってファッションの世界に携わってきました。夫婦ともども愛するアイウェアを自分たちの世界観でつくろうと、2016年に〈ラピマ〉をスタートさせますが、その前に取り組んだのが理想の家づくりだったのです。
「これまでに吸収してきたものを立体的な形で表そうとした結果、自宅とアイウェアという2つの表現にたどり着いたんですね。家づくりとブランドをつくるのは同じことだと考えていたそうです」
店舗では一本のフレームに凝縮されていた夫妻の感性が、自宅では空間全体に広がっていました。自然の色や形、建築、アート。日々目にし、手に取るものの豊かさが、あのアイウェアの根底にあるようです。
カンピーナス – 大胆な造形を支える、職人の細やかな手作業を覗きに。
ブラジルの街、そして夫妻の自宅で培われている感覚を、実際にアイウェアへと昇華する場がカンピーナスに構えられたオフィスです。岡田さんが驚いたのは、デザインが生み出される部門と職人が製作するアトリエ部門が一箇所に集約されていることでした。
「アイウェア業界では一般的に、その2つはまったく別々の場所に位置していて、物理的にかなり距離があるものなんですよ。〈ラピマ〉の場合、それらがたったドア1枚で隔てられているだけなんです。これほどすぐにデザインを形にできるブランドを他に見たことがありません」
まずは手描きのスケッチから。インスピレーションの源であるアートや建築などに常に触れていられるよう、オフィスの至る所に写真やアートブックが飾られています。次にデザイナーの頭のなかにある凹凸や曲面をPC内で立体に起こし、3Dプリンターによる試作を経て、実際の素材で再現可能な造形かどうかを探っていきます。
そのなかで特に岡田さんの印象に強く残っているのは、フレームを研磨する工程です。
「日本や海外でもいろいろなアトリエを見てきましたが、ここまで研磨に工程を割くところは他で見たことがありません。機械を使って成形しながら、入り組んだ細かな部分は手でヤスリをかけたりして、何段階も研磨を重ねていくんです」
〈ラピマ〉の魅力のひとつである、ボリュームのある厚みと複雑に入り組んだ立体感のあるフレーム。その造形の奥行きを支えていたのは、丁寧に時間をかけて研磨する、職人一人ひとりの “手” でした。職人が纏う防塵服の背中には「ARTESÃO ESPECIALISTA(アルチザン・スペシャリスト)」の文字が刺繍され、仕事に対する誇りも感じられます。
細部まで磨き上げられたフレームは顔に掛けたときにこそ、その魅力を現します。
「最初は難しそうに見えるデザインかもしれない。でも掛けてみると意外に顔になじみやすいんです。見たことのないアイウェアだからこそ、自分の新しい魅力を発見できる。そんなふうに楽しんでもらえたらと思います」
ミラノで出合った〈ラピマ〉に、いまはブラジルの風景、夫妻の暮らし、職人の手つきが重なって見えてきます。一本のアイウェアを知るために、その向こうにある世界まで実際に足を運ぶ。岡田さんが大切にするその姿勢は、店頭で私たちがまだ知らない自分の魅力を見つけることにも、繋がっているのかもしれません。
PROFILE
都銀に勤めた後、大手眼鏡販売会社を経て、1998年に東京・渋谷に「グローブスペックス」をオープン。2017年からイタリアの「MIDO」展で2年連続「BESTORE AWARD」を受賞。世界一の眼鏡店に選ばれる。
Instagram:@tetsuya_globespecs
Photo_Suguru Saito
Video_Tiago Navas
Text_Sana Tajika

