〈ジル サンダー(JIL SANDER)〉のクリエイティブディレクターを務めるルーシー&ルーク・メイヤー夫妻がこのメゾンでやろうとしていることは、いってみれば原点回帰への挑戦である。
オーセンティックなデザインをベースとした、ブラックとシルバーだけで構成されるカラーパレット。ストイックなデザインワークで確固たる存在感をみせつけるその手腕は、すでに原点回帰を成し遂げているといっていいすぎではない。
たっぷりとった腕まわりに比して極端に着丈が短いブルゾンや、ジッパーやボタンのバランスに顕著だが、メイヤー夫妻にはパターンやバランスを創造する力がある。そのさじ加減はジル・サンダー女史のそれを想起させずにはおかない。仕立てたファブリックも往年の〈ジル サンダー〉に負けず劣らず上質のひと言である。
ガーメントウォッシュが施されたファブリック、あるいは世界最古の薬局「サンタ・マリア・ノヴェッラ」で使用されている薬草をモチーフとした刺繍。どこか自然へのオマージュが感じられるあしらいが、巧妙なアクセントになっている。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa