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【FOCUS IT.】服と椅子でアートをつくるKOTA KAWAI。彼は服の可能性を探るのか、サスティナブル思想へ警笛を鳴らすのか。

答えは、どちらでもあり、どちらでもない。

アーティスト、KOTA KAWAI。素材も形も色もばらばらな古着を、椅子の骨組みに纏わせるという手法で作品を世に生み出しています。活動開始は昨年からですが、数々のアパレルブランドやクリエイターに目をかけられ、今やその勢いは天井知らずです。

フイナムでは一度「Shopping Addict」の企画で、“服の可能性を押し拡げているチェア”として紹介しました。しかしその後、他媒体のインタビュー記事の発言から、作品の裏には先のポジティブな発想だけではない、社会問題への目配せがあることに気づきました。

彼のクリエイティブの根っこにあるもの、彼自身を形成してきたものとは。その真に迫るべく、作業場だというご実家の一室にお邪魔して、お話を聞いてきました。

PROFILE

KOTA KAWAI(河合航大)

1998年生まれ、大阪府出身。文化服装学院で服飾を学び、在学中に文化服装学院 学院長賞受賞。在学中の2018年から約2年間、アーカイブ&セレクトショップでビンテージCUSTOMを経験したあと、2020年11月よりアーティスト活動を開始。個展での作品製作に加え、アパレルブランドとのコラボも積極的に行う。
Instagram:@_kotakawai

まわりが服だから、ぼくは椅子。

ー制作をはじめたのが、昨年の11月からということで、まだ文化服装学院に通われていた頃ですね。

KOTA KAWAI(以下KAWAI):「生産システムコース」というところで、その名の通り、服の生産管理について勉強しました。課題もそんなになくて、自分の時間が好きに取れるのと、あとは学校外の活動に力を入れたかったのでそこにしました。

ーまわりは服をつくっているひとが多いですよね。

KAWAI:ですね。なので椅子をつくっていると言われるんです、なんで服じゃないの?って。それはまわりが服をつくっているから、僕は椅子っていうだけ。まわりとちがうことをしたかったんだと思います。

椅子をつくりはじめる前、4年生の10月くらいまではリメイク服を月に60〜80着くらいつくっていて。翌月から椅子に切り替えました。

本人インスタグラムより(2021年5月20日)

ー単純に椅子が好きだったんでしょうか。

KAWAI:そうですね。ひとに「座る」という動作をさせる椅子がもともと好きで、でも新たに資材を用意するのではなく、既存の資材でつくりたいと思っていました。

ー昨年に活動をはじめてからいままで、展示もすでに何度かおこなっていて、最近では〈ダイリク〉や〈ファセッタズム〉などのアパレルブランドと何かいっしょにつくったりも。こうなると予想していましたか?

KAWAI:100%思ってたとは言い切れないですが、ぼくがやっていることと時代の流れを見たときに、まったくダメだとは思っていなくて、まわりの助けもありつつ、ここまでこれましたね。


“そこにある資源” でつくる。

ー一脚をつくるときの流れを教えてください。

KAWAI:一脚あたり何日というよりは、長いスパンで決めます。展示やポップアップが最終目標にあり、それまでにコンセプトを決めて、製作に入ってつくる。つくってみてコンセプトに寄せていくという形のときもあります。

ーコンセプトはどんなところから決まるんでしょう。アイデア源となっているものはありますか?

KAWAI:生活のなかで感じていることをベースに膨らませる感じですかね。

ー見聞きするものからということでしょうか。河合さんのインプット源はなんですか?

KAWAI:クジラがブワッと海から出てくるシーンとか、大自然や動物の生の映像を集めたNetflixの『私たちの地球』っていう作品があって、そのメイキングはよく観ます。

YouTubeだと、さらば青春の光の森田がDIYをするチャンネル「五反田ガレージ」とか、あとは最近知り合いに勧められて、スタイリスト高橋ラムダさんのチャンネルも見ますね。

アーティストで言うと、オラファー・エリアソン。彼は光や霧、滝とか、自然のものを人工的に生み出す、アンビエントアートをつくっています。Netflixの『アート・オブ・デザイン』で特集されているのをたまたま見て、そこからよく調べるようになりました。

ーなんとなく“環境”や“DIY”がキーワードで、どちらも河合さんの作品と遠からずなテーマですね。

(左)河合さんが描いたイラスト。モチーフは誰でもなく架空の人物だという。顔に引かれた縦の線については「ソーシャルディスタンスじゃないけど、外界と距離をとるマスクのようなのものとして描いたのかも」とのこと。(右)展示のコンセプトを整理するために、ノートに書き出したそう。

河合さんのお気に入りの本から二冊。(上)カメラマン富安隼久さんの作品集『TTP』は公園の卓球台をひたすら定点観測した写真がまとめられている。(下)ベルリンを拠点に活動していたファッションデザイナー・クリスティン・ビルクレの作品、スタジオ、衣装デザインがまとめられている『How I Felt』。

ー作品の話に戻って。材料は椅子と生地がありますが、どちらから決めていくんでしょう?

KAWAI:資材の椅子をベースに、そのイメージに合わせて生地を選んでいきます。生地は、友達に車を出してもらって千葉の倉庫に。感覚を頼りにがばっと選んで、買いつけたものをストックしています。

ーその集めた服を椅子に纏わせていくと。

KAWAI:ちょっと作っては、机に置いて、離れて見て、っていうのを繰り返しています。煮詰まったときは、とりあえず寝ます。リセットして、起きたあとにもういちど見たり。とにかく客観的に見ることを意識していますね。夜通し作業はあまりせず、基本ちゃんと寝ます。生活のなかに製作があるので。

本人インスタグラム投稿より(2021年4月7日)

ー先ほども話にありましたが、〈ファセッタズム〉から生地提供をしてもらって作品を製作されたということで、通常となにか心持ちは違いましたか?

KAWAI:あれは伊勢丹さんのブッキングで、最初にどの椅子でやるかをブランド側に伝えて、それに応える形で、デザイナー落合さんに生地を送っていただきました。

ー生地選びをご自身でできないのは、製作において窮屈ではありませんでしたか?

KAWAI:それはないですね。“そこにある資源” でつくるのがぼくのコンセプトなので、自分で選べないというのは特に枷にならず、いつもの製作と変わらずにできました。

ー個人的な感想ですが、このコラボで出来あがった椅子は、これまでと比べてしっかり作られているという印象を受けました。

KAWAI:今回は服ではなくテキスタイルが材料だったので、服をドッキングさせるのとは手法が違います。素材感も薄いレーヨンや綿っぽいものだったこともあり、いままでのやり方だと耐久性が心配で。その薄い生地に合わせた縫い方をしたから、そういう見え方をしたのだと思います。

チャックやポケットなど服のギミックがないぶん、より既製品の椅子に近い印象になったのかもしれませんね。外とのコミュニケーションをはかることができたので、新たな試みにはなりました。


服で服を解決しようとするのはどうなんだろう。

ー今回の取材のきっかけとなった「服が椅子にまで到達している」という発言の真意を探っていきたいのですが、その前に。他の媒体のインタビューで「服はただの繊維」という言葉もありました。

KAWAI:SDGsとか時代的な流れのなかで、服でもそれをなんとかしようという機運が強いと思っていて。服を使って服の問題をがんばって解決しようとするのはどうなんだろうと。発想が狭まってきているような気がしていて、それをもっと別のところで消費できたら、この問題も柔らかく捉えられると思います。

ー服を使って服の問題を、というのはエコな生地を開発したり、リメイクという取り組みのことですよね。

KAWAI:はい、もちろんトレンドがあるのでしょうがないんですが、みんながみんなずっと環境のことを考えているかと言うとそうではないし、ぼくも環境のことをずっと叫んでいるわけじゃない。それがリアルです。そういう取り組みを消化するのではなく“昇華”する。別のフェーズに落とし込めるといいですね。

ーなるほど、服がジャンルの垣根を超えて椅子に昇華されている、と。あの言葉は、昨今のサスティナブル問題へ警笛を鳴らしつつ、あざやかにそれを解決したことを意味していたんですね。

KAWAI:ぼくの活動は、いまアパレル業界が抱えている問題を知ってもらう機会も増えますし、社会貢献にすこしはつながっているんじゃないかなと思っています。

ー意地悪な質問なのですが、たとえばこの問題が解決されて、むしろ服が足りなくなっているみたいな状況に仮になったとき、河合さんの表現活動はどういう方向にいくと思いますか?

KAWAI:そもそもこの表現方法でずっと行こうと思ってやっていません。はじめは、いろんなものを使って椅子をつくろうというのが根幹にあったので、服ではなく、買い物するときに使うキャリーやスピーカーとかでつくっていたりもしました。

本人インスタグラム投稿より(2019年8月18日)

“もともとある資源”でつくるっていうのが好きなだけであって、ぼくの活動の発端はサスティナブルな精神ではなく、アートへの探求。価値観やアイデアを形にするための、ひとつのテーマでしかないんです。なので、問題が解決されてなくなったとしたら、作品をつくってきた意味もあっただろうし、自分なりにまた方向性を考えなおすのだと思います。

あと単純にもっと挑戦したいですね。ずっと椅子をつくっていたら、見てるひとはまた椅子をやるんだろうなと思うと思うんです。でも、他人の予測と違うことをしたい。

ー冒頭でも「予測と違うことをしたい」という発言がありましたが、他人に作品がどう見られるかということを常に考えられているんですね。

KAWAI:YouTubeで殴られ屋の動画がありましたが、最初はおもしろいんですけど、気づいたら見なくなっていて。毎回ちょっとした変化はあるけれど、結局企画自体はいっしょ、つまり予測ができるから、自分は見なくなっていったんだと思います。

音楽だったらAメロ、Bメロ、サビという一曲通しての強弱、映画だったら予測していなかった事態や盛り上がりにおもしろさを感じます。椅子を中心にしつつ、他のものもつくって自分の表現を変化させていっているのは、次になにをやるのかとひとの好奇心を掻き立てたいからなんだと思います。

直近の展示会のためにつくった作品。端材に服を巻きつけて縫い込んでいて、壁にかけるオブジェとして機能している。

ー椅子ではない他のものというと、いくつも棒を繋げたような作品(上記)もつくられていますね。

KAWAI:これは最近まで渋谷の「noma」で開催していた個展で出した作品。“下流”がコンセプトなんです。ゴミが川上から川下へと流れていくサマが、アパレルにおける服が生産されて廃棄されるまでの流れとリンクしていると思って。流れ着くものはいつも違くて、いろんな素材のゴミがあって、結局ひとまとまりの何かになるわけではなく、ミスマッチのものが組み合わさっているのがおもしろい。

ー出会うはずのなかったものが出会ってしまった、偶然性というか。

KAWAI:椅子のような対象をつくるのとは別に、もっと抽象的で、いびつで、見たひとが考えられるような何かをつくりたいなと思いました。何だと言われたらオブジェみたいなものとしか言えないんですけど、壁に掛けられるというのもポイントです。

ーというと?

KAWAI:座っているときを抜きにして、これまでつくってきた椅子は対象としてみたときに、だいたい視線が落ちるんですよね。そこで、いまのパンデミックの状況下を思い浮かべて、もうちょっと前を向けるような、顔をあげられるようなものを作りたい。それで壁にかけるオブジェをつくりました。


作品が生活に介入した時点で、クリア。

ー河合さんの手から離れたあとの作品についても知りたいです。お客さんや買ったひとの反応を調べたりはしますか?

KAWAI:それはほとんどしないですね。でも、自分が自分の展示に行ったらこう思うだろうという視点で、お客さんへのアプローチを考えています。最初の個展の宣伝として動画つくったんですが、あれはオラファーがきっかけ。友達に彼の展示の宣伝画像を見せられたときは惹かれなかったんですが、その後Netflixの動画を見て、行けばよかったと後悔しました。それはつまり、動画で心が動いたっていうこと。だから、自分の個展の宣伝でもそれを行いました。

本人インスタグラム投稿より(2020年10月13日)

ー動画のなにが河合さんの心を動かしたんでしょうか。

KAWAI:画像って見ているようであまり見ていない。こういう感じなんだろうなと瞬時に決めつけちゃうんです。動画の方がよりリアルに、疑似体験としても捉えられますよね。

ー製作も宣伝も、どの行程でも客観視する機会が多いですね。

KAWAI:自分がつくりたいものをつくっているので、一定の自信はあるんです。なので、あとはまわりが見たらどうなんだろうという視点が気になっているのかもしれませんね。

作業部屋と玄関に置かれている河合さんの作品(椅子)。座っても眺めても、もの置きにしてもいい。唯一無二の個性がありながらも、実生活になじむ。

ー椅子を買ったひとに対して、どういう風に使ってもらいたいとかはありますか?

KAWAI:そこは特にありません。この作品がひとの生活に介入するっていうことで、もう作品の意義はクリアしていて、資源も再生されてるんですよ。なので使い方は自由にしてもらいたいですね。

ーコラボレーションが増えてきて、よりその意義は広く認知されそうですね。これからも外との連携を図って製作していきたいですか?

KAWAI:実は、まだオフレコですが今年はいくつか予定があって、個人での製作はすこし抑えていこうかなと思っています。いままでの方向性を変えることで、いままでつくられた椅子の価値も上がりますよね。

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取材が終わり、作業部屋の撮影をしながらふと「5年、10年先のことを想像しますか?」と聞くと、「いまお金にならなくても、来年仕事になりそうだなと思ったらやるようにしてます。こういう仕事をしている限りは、老後までにだれよりも成功していなくてはいけない」と河合さん。

人生すらも客観視しているのかと感心しながら、河合航大というクリエイターが手の届かない所にいくまえに話が聞けたことをうれしく思った。彼は今年で23歳になる。

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