ジム・ジャームッシュ作品の一挙公開は、今年1、2を争う映画トピックでしょう。
これまで新作とあわせた過去作の上映はおこなわれてきたものの、初期作から最新作までの12作品が一斉にスクリーンを彩ることはなかったはずです。
すでに都内では上映がはじまっているところもちらほらあり、コロナ禍という特殊な状況も相まってか、異例の盛り上がりを見せています。そして続々と地方での上映も決定したいま、改めて上映作品を振り返りましょう。
『パーマネント・バケーション』(80)
ニューヨーク大学在学中に卒業制作として撮影された、ジャームッシュ初の長編映画。社会に馴染めない主人公の少年が、あてもなくNYを彷徨い、さまざまなアウトサイダーたちと出会いは別れ、自分の行く先を探していく。部屋で踊り狂うシーンは映画史に残る。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)
NYで自由気ままに暮らしていたウィリー、従妹のエヴァ、親友エディの3人が、とりとめもなく日々を過ごす。ジャケットにも写っている車がストーリーをあらゆる方向へと連れて行ってくれる。ウィリーのアーガイル柄のニットが印象的。
『ダウン・バイ・ロー』(86)
不良のジャック、ラジオDJのザック、そしてイタリア人のロベルトがニューオリンズの刑務所、同じ房のなかで出会い、ある日、3人は脱獄に成功。目的地のない珍道中が繰り広げられていく。男同士のなんとも言えぬ友情を見る作品。
『ミステリー・トレイン』(89)
メンフィスの街を舞台に3つの物語が交差するオムニバス形式の作品。それぞれがそれぞれの場所で、同じ夜汽車を眺め、エルヴィスの「ブルー・ムーン」を聞き、翌朝1発の銃声を耳にする、ワンナイト・ムービー。工藤夕貴と永瀬正敏が、作品に独特の風を吹かせている。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)
ロサンゼルス、NY、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市を舞台に、タクシーの車内で展開される、運転手と客との巡り合いをオムニバス形式で描く。ウィノナ・ライダーのとびっきりクールな運転にしびれる。
『デッドマン』(95)
会計士のウィリアム・ブレイクは、仕事を求めアメリカ西部の街、マシーンへと赴くが、街で殺人の濡れ衣をきせられたブレイクは逃亡の旅へ。次々と襲いかかる敵を打ち負かし、彼は西部劇さながらのアウトローへと変貌を遂げていく。すでに人気が高かったジョニー・デップの新たな一面を見る作品。
『ゴースト・ドッグ』(99)
武士道に傾倒し、「葉隠」を愛読するゴースト・ドックは、伝書鳩を唯一の通信手段として使用する孤独な殺し屋。あるとき、行き違いから、街のイタリアン・マフィアとの抗争に突入していく。ジャームッシュの日本への敬意が読み取れるとともに、ヒップホップ文化と武士道という斬新な掛け合わせも楽しい。
『コーヒー&シガレッツ』(03)
コーヒーとタバコを囲みながら繰り広げられる、11のエピソードを綴った珠玉の短編集。個性豊かなジャームッシュ作品の常連俳優やミュージシャン、コメディアンや無名の新人までが登場し、それぞれが思い思いの話を展開していく。過去作をなぞりながら、まったく新しいストーリーを生み出す、ファン垂涎の作品とも言える。
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)
アダムとイヴという名を持つ2人の吸血鬼を主人公に描く、異色のラブ・ストーリー。現代の街でひっそりと暮らす彼らだったが、イヴの妹エヴァが現れたことによって、平穏な生活は終わりを告げることとなる。ティルダ・スウィントンの神聖さに酔いしれる一作。
『パターソン』(16)
ニュージャージー州のパターソンという街に住む、パターソンという名の男の7日間の物語。バスの運転手をしながら詩を書きためる彼は、妻のローラ、愛犬のマーヴィンと共に、何気ない毎日を過ごしている。一見代わり映えのしないパターソンの日常をユニークな人々との交流と、思いがけない出会いとともに描く。歳を重ねたジャームッシュの心持ちの変化がうかがえる。
『ギミー・デンジャー』(16)
パンクロックの元祖と呼ばれ、のちの音楽シーンに絶大な影響を与えた伝説のバンド、ザ・ストゥージズ。長年、ジャームッシュの友人でもあるイギー・ポップ自らが制作を依頼したストゥージズ公式ドキュメンタリー。音楽に対するジャームッシュの深い愛情が画面に滲んでいる。
『デッド・ドント・ダイ』(19)
警察官が3人しかいないアメリカの田舎町、センターヴィル。ある日、ウェイトレスが内臓を食いちぎられる怪事件が発生する。気付けば町はゾンビで溢れかえり、3人の警官たちは町民を守るため、ゾンビに立ち向かう。お馴染みのキャストが大集合した豪華なオフビートゾンビ映画。新たなジャンルを開拓するジャームッシュのスタイルに脱帽する。
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観るものが青春をなぞらえたり、人生の何たるかを説いてもらったり、はたまた音楽の素晴らしさやファッションの楽しさを知ったり。ジャームッシュ作品は、映画としてのすばらしさや完成度はもちろんのこと、鑑賞者の人生の軸となるものをともに育んでくれますよね。
ジャームッシュの洗礼を受けていない若い世代も、擦り切れるほど観たという中年世代も、ぜひ足をお運びください。上映館はインフォメーションでご確認を。
ちなみに今回の特集上映のためにつくられたパンフレットは、フイナムでも映画コラムを執筆している大島依提亜さんによるもの。入手困難らしいので、お求めの方はお早めにお問い合わせください!
ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021
上映劇場
・札幌シアターキノ(北海道):10月29日(金)~11月12日(金)
・チネ・ラヴィータ(宮城):8月6日(金)~8月12日
・フォーラム仙台(宮城):7月30日(金)~8月5日(木)
・ヒューマントラストシネマ有楽町(東京):7月2日(金)~8月5日(木)
・新宿武蔵野館(東京):7月2日(金)~8月5日(木)
・ヒューマントラストシネマ渋谷(東京):8月6日(金)~
・池袋シネマ・ロサ(東京):8月13日(金)~9月23日(木)
・アップリンク吉祥寺(東京):8月6日(金)~8月26日(木)
・シネマジャック/ベティ(神奈川):9月18日~10月1日
・新潟・市民映画館シネ・ウインド(新潟):近日公開
・静岡シネギャラリー(静岡):9月10日(金)~9月30日(木)
・センチュリーシネマ(愛知):10月8日(金)~11月4日(木)
・アップリンク京都(京都):8月13日(金)~9月2日(木)
・テアトル梅田(大阪):8月6日(金)~8月26日(木)
・シネ・リーブル神戸(兵庫):8月6日(金)~8月19日(木)
・八丁座 壱・弐(広島):8月6日(金)~8月19日(木)
・KBCシネマ(福岡):近日公開
・シアター・シエマ(佐賀):9月17日(金)~9月30日(木)
・天文館シネマパラダイス(鹿児島):10月8日(金)~11月4日(木)
・桜坂劇場ホール(沖縄):9月4日(土)~9月24日(金)