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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.21 “音楽の匂いがする”フランスメイドのアー・ペー・セー。

そもそもニュー・ヴィンテージとは?

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

第21回目は「インスタントブートレグストア(instant bootleg store)」の坂本一さん。

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


坂本一 / instant bootleg store 主宰
Vol.21_アー・ペー・セーのシャツ&F2ジャケット&コーチジャケット

―さて、今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムは?

今回は〈アー・ペー・セー(A.P.C.)〉。それも1992年〜2000年代中頃までのフランス製でイーストバイウエストの品質表示タグが付いているモノに、フォーカスを当てたいなと。当時、日本で流通していた商品は、基本的にコレでした。フランス製だからというワケじゃないけど……というかぼくの主観なんですが、この頃のアイテムって現在の〈アー・ペー・セー〉=デニムっていうイメージとは全然違って、飛ばしているデザインが多く、なんかロックっぽいんですよ。パンクではなく、そこから成熟した“ロック”。要は1998年以降の洒落たロックアーティストが着ていそうな感じというか。例えばこんな柄シャツとかまさに。この上に、ミリタリーアウターを羽織るみたいな。

アー・ペー・セーのシャツ ¥13,200(インスタントブートレグストア)

アー・ペー・セーのシャツ ¥9,900(インスタントブートレグストア)

―なんとなく分かります、その感覚。というか、なぜいま〈アー・ペー・セー〉なんでしょうか?

先ほどデニムのイメージが強いという話をしましたが、実際みんながここのブランドに抱くイメージって、“無地”や“ミニマル”だったりですよね。〈ジル サンダー(JIL SANDER)〉や〈ヘルムート ラング(HELMUT LANG)〉的な。ですが、当時はショップにCDとかも並んでいたりして、服屋なのに“音的”なアプローチをしていたんですよね。いまや珍しくもないですが、すごく面白いことをやっていたなぁって。それを思い出して気になっていたのと同時に、昨今のワイドシルエット一辺倒への個人的満腹感もあって自然に掘り出しました。

―当時からタイトに着るのがお約束でしたし、世のワイドシルエット人気に対するカウンターとしてはたしかに打ってつけかと。

そもそも当時のサイズ感って、いまと比べて圧倒的に小さいんです。なので、ウチでは基本的にサイズ3(L相当)を仕入れているんですが、それでも「これ本当に3なの?」ってくらい小っちゃい時もあって(笑)。大きいサイズ自体がほとんど出ないので、ソレを掘るという楽しみもあります。これまでも度々触れてきましたが、ある程度の流通数があることで、自分自身の感性で選んで「これはありなのか? なしなのか?」を再定義していく楽しみ方が可能となる。それこそがニュー・ヴィンテージというモノなんじゃないかなと。

―なるほど。ロックの匂いがする以外に、どんな点が面白いのでしょうか?

最近は自分的にも「これは○○年の○○だからレアなんです」みたいな古着の楽しみ方に、ちょっと飽きてきていて(笑)。それとはまた違ったベクトルというか、純粋にルックスで楽しめるアイテムが多いという特徴はあります。さらに他と一線を画す点を挙げるとすれば、サンプリングやインスパイアからデザインを再構築する際のアプローチ方法ですかね。元のデザインに足し算や掛け算をするブランドが多いなかで、〈アー・ペー・セー〉は引き算をするんです。

―引き算とは?

例えばこの「F2ジャケット」。アメリカ軍でいえば「M-65」みたいなもんで、ヴィンテージのフレンチミリタリーでは定番ですが、ココんちのはディテールを削ってシンプルに仕上げています。シルエットも当然改良されてスタイリッシュに。で、それが何年にも渡って、生地やディテールを変えつつ作り続けられているっていう。前回の「プロップスストア アネックス(PROPS STORE ANNEX)」さんが紹介していた、〈スピワック(SPIEWAK)〉の「N-3B」なんかと一緒ですね。そこで今回は、3レイヤーの撥水生地で防水性を高めたバージョンとオリジナルでは存在しないブラックナイロンバージョンを持ってきました。

アー・ペー・セーのF2ジャケット ¥27,500(インスタントブートレグストア)

アー・ペー・セーのF2ジャケット ¥19,800(インスタントブートレグストア)

―シンプルに、見た目が男前。これは汎用性も高そうな。

トレンドと関係なく、本当にずっと着続けられるアイテムって感じじゃないですか? こういったアウトシェルを採用したバージョンは玉数も少なく、通常のコットンサテンのような素材を採用したバージョンよりも新鮮。格好いいんですよね。あと、ぼく的に〈アー・ペー・セー〉の“音楽の匂い”がするアイテムの代表作と思っているのが、この辺のコーチジャケット。

アー・ペー・セーのコーチジャケット ¥22,000(インスタントブートレグストア)

アー・ペー・セーのコーチジャケット ¥29,800(インスタントブートレグストア)

アー・ペー・セーのコーチジャケット ¥22,000(インスタントブートレグストア)

―これはもう、完全にストリートのノリですね。1着目なんかはスケートブランドかと思いました。

同ブランドの中でも珍しいビッグシルエットですし、モノによってはアウトシェルにPVCまたはオイルドコーティング素材が使われているモノもあったりします。90年代にこのアイデアを型にするって、なかなか格好いいなぁって。3着目は〈ソフネット(SOPH NET.)〉とのコラボでも復刻されたデザインのオリジナルバージョン。背中に“ROCK STEADY”とプリントされていて、この他に“STUDER”のバージョンも存在し、非常に人気がありました。

―選び手がどう着るか、そしてその人のスタイル次第で、全然違った楽しみ方ができそうです。

先に述べたように、これからのファッションにおいてワイド&ルーズなシルエットで着続ける人が残っていく一方で、早い人は少しずつジャストめに向かっています。今回紹介したアイテムからは、そうやってファッションが細分化されていく流れが感じられるのでは。これをキッカケに、誰もが個人の趣味嗜好で色々なスタイルを楽しむ時代になってくれたらなぁと思っています。

坂本一 / instant bootleg store 主宰
原宿「BerBerJin」にて8年余り古着業界に携わりバイイングも経験。その後、セレクトショップ「FAN」に参加。そして2020年に「instantbootlegstore」を立ち上げ、様々な企画を手掛ける。その坂本 一が思う良い物を、”素敵な小遣いの使い方”をテーマに売るお店が「instantbootlegstore」である。
インスタグラム:@hajime0722

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