ご存知、“神は細部に宿る”と言います。ただ、ここで紹介するお店は神が多すぎて、やや渋滞しています。
10月1日に表参道のなかでも緑豊かなエリアにオープンした「ホテルズ(Hotel’s)」は、テレビや雑誌に引っ張りだこ、自ら開設したYouTubeチャンネルも大人気という「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作さんが率いるお店。
「sio」は、2018年のオープン直後からミシュランガイド東京の星を2年連続獲得した、代々木上原にあるモダンフレンチのレストランです。また、コロナ禍では、鳥羽さんが「sio」の人気メニューのレシピをTwitterであけっぴろげに教えてくれるという、「#おうちでsio」というハッシュタグも大きなトレンドとなりました。
感染状況がずいぶん落ち着いてきたとはいえ、未だコロナの影響を引きずる飲食業界において、新店をオープンしたというこの明るいニュースには頭が下がる思いです。
カジュアルな雰囲気の「ホテルズ」は、表参道に位置し、“架空のホテルの レストラン”をコンセプトにしています。数ある特長の一つとして、モーニング・ランチ・ディナーといつ訪れても異なるスペシャリテが楽しめること。
ホテルは宿泊施設であるために、どの時間帯でも食事を楽しめるという魅力があります。このレストランでは、その店名の通り、いつ訪れても心躍る料理が味わえるホテルのレストランから着想を得て、モーニング・ランチ・ディナーと訪れるタイミングで異なるスペシャリテを提供します。
ただし、一口ごとに味が変わるイチオシのサラダは、全ての時間帯に共通して提供されるので、ぜひ味わってみてください。
また、食事の一皿ずつに合わせた季節を感じるアルコール、ノンアルコールのペアリングドリンクの他、素材にこだわった自家製のクラフトドリンクや、アジア人初のWORLD BREWERS CUP世界チャンピオンの粕谷哲氏が監修した、全生産量の5%に満たない高品質かつ希少なコーヒーも味わえます。
さて、ここまでは飲食のお話。ここからは、料理以外のこだわりをずらりと紹介していきます。
ロゴのデザインは、クリエイティブディレクター水野学氏率いる「good design company」。ちなみに「sio」のロゴも同じく。
上品なネイビーのユニフォーム(エプロン/シャツ/パンツ)は、新潟の老舗縫製工場「K2 FACTORY」のもの。そして、もうひと組となるレストランでは珍しいグレーのスウェットのセットアップは、高品質な服をカナダから生み出す〈レイニング チャンプ(REIGNING CHAMP)〉のもの。
そして、レストランユニフォームとしては圧倒的にレアな〈レッドウイング(RED WING)〉の「6インチ クラシックモック」を採用。断言はできませんが、〈レッドウィング〉のシューズをユニフォームとして履いているレストランなんて世界でここだけではないのでしょうか?
空間を満たす音楽は、大沢伸一氏(MONDO GROSSO)が手がけ、料理に合わせて音楽もモーニング/ランチ/ディナーという、それぞれの時間帯の料理/空気感をイメージしています。
家具は、日本が世界に誇る〈マルニ木工〉。お客さんは、いい座り心地が美味しい食事にとってどれほど重要かを体験することになるでしょう。
食器は、陶芸家の鈴木麻起子氏が手掛ける〈ラ メゾン デ ヴォン(La Maison de Vent)〉。〈グラフペーパー〉がキュレーションした展示でもよくお見かけします。ブランドのシンボリックカラーかつお店のイメージに合うターコイズブルーを中心に、〈ホテルズ〉特注のものとなっています。
最後に、おしぼりのことを。そう、おしぼりがすごいんです! 「ホテルズ」の「最初の一皿は、おしぼりです」というほどこだわった逸品は、〈sio〉と同じく〈イケウチオーガニック〉のオーガニックコットン100%の今治タオル。驚くくらい大判のおしぼり(35cm×72cmのフェイスタオル)で、何度でも手をふけることが実に心を満たしてくれることを痛感するはずです。
鳥羽さんから教えてもらった、驚異の保水力を味わうためのやり方を紹介しましょう。まずこのおしぼりで両手のひらをしっかりと拭いた後に、10秒程待って、手のひら同士をすり合わせてみてください。普通であれば濡れているのに、おしぼりの保水力がすごすぎて、しっとりとしかしません。ぜひお試しあれ。
コロナで沈静したとはいえ、人気飲食店であれば行列を厭わない、狂食の時代が今です。「ホテルズ」のように、もはや料理が美味しいのは前提であり、その先にある、どれほど豊かな物語でお客をもてなすことができるのかを考える、そういう食の時代に入っているのかもしれません。そして、それは食だけに限らず、オンラインにはない実店舗だけがこれから持ちうる魅力とも言えそうです。
その先駆けである、「ホテルズ」にぜひチェックインしてみてください。
Text_Shiniri Kobayashi