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【FOCUS IT.】26歳の異端児がつくる総合芸術空間とは。京都の花街・祇園に新名所 “T.T” が誕生しました。

歴史ある神社仏閣が点在し、老舗の料亭やお茶屋が軒を連ねる京都・祇園。その南北を貫く花見小路は古きよき時代の面影を残す、石畳みの風情あふれる通りです。

12月4日、そんな祇園のメインストリートから一本なかに入ったところに〈タイガ タカハシ(Taiga Takahashi)〉のブティックを含む総合芸術空間「T.T」がオープンしました。

ご存知ない方のために説明すると、このブランドはデザイナーで現代美術作家の髙橋大雅さんが2017年にスタート。「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」をコンセプトに掲げ、今シーズン、日本に本格上陸しました。

アンティークや古い服の蒐集家でもある髙橋さんは考古学の観点から昔のものづくりを細かく研究し、独自のアプローチでコレクションを表現。ただヴィンテージをコピーするのではなく、生地や縫製、パターン、付属品まで徹底的にこだわった、佇まいの美しいモダンな服をつくっています。〈タイガ タカハシ〉について詳しく知りたい方はまずこちらのインタビュー記事をご覧ください。

髙橋さんは「T.T」についてこう説明します。

「この建物は大正時代の初期(1904年頃)に建てられた町家です。(改装するにあたって使った)木材はすべて古材なんですけど、日本各地から出た神社の廃材を持ってきました」



1階は〈タイガ タカハシ〉のブティック、及び、古美術や骨董、髙橋さん制作の彫刻が展示されるギャラリー。そして2階は日本の伝統文化である “茶の湯” を舞台芸術として表現する茶室「然美(さび)」。生まれたのはさまざまな芸術を集約した空間です。

「コロナ禍になったタイミングで、アトリエのあるニューヨークから日本に一度戻りました。ぼくの地元は関西です。小さい頃から通っていた祇園を歩いたとき、ちょうど一軒だけこの物件が空いていました。

人生の半分以上を海外で過ごしてきて、自分の日本人としての感性や美意識って何なんだろうという疑問がありました。直感的にここで何かやれば、それが理解できるんじゃないかと思ったんです」

奇しくもこの建物はもともと1階が呉服屋、2階がお茶屋として使われていたといいます。

「工藝、建築と日本芸術の源流は “茶の湯” にあります。2階の茶室「然美」はそのような日本古来の美意識を私の総合芸術の一部として再解釈した空間です。

ここには〈タイガ タカハシ〉の服、自分の彫刻作品、そして茶室がある。自分のなかでは店という説明の仕方ではなく、総合芸術空間と呼んでいます。食、お茶、陶器、アート、服…、いずれ異なるコミュニティのひとたちが集まって、交わる場になれば面白いのではないかと思います」

「T.T」に訪れたひとをお出迎えするのは、石の巨大な彫刻作品。重さ3、4トンもある玄武岩を削ったもので「目に見えない時間の流れを表現した」と言います。


©︎髙橋大雅 ‘無限門’, 2021, 玄武岩, 86.5x126x85.5cm

「去年の春、東京で展示会を行ったときに、空間の半分をイサム・ノグチの『AKARI』という作品で飾りました。そこから『イサム・ノグチ日本財団』の方々と関わりを持つことができて、実はこの作品も協力を得てつくったんです。日本全国に石工はいますが、西洋的な彫刻の技術がないと造形的なものはつくれないんです」

制作をサポートしたのが、『イサム・ノグチ日本財団』理事長を務めた故・和泉正敏さん。イサム・ノグチを20年以上支えた石彫家です。この空間には髙橋さんがつくった作品3点のほか、建物の中央に和泉さんの作品1点が据えられました。

©︎髙橋大雅 ‘無限円’, 2021, 玄武岩, 78x104x76.5cm

©︎髙橋大雅 ‘無限塔’, 2021, 玄武岩, 左:21.3×21.3x200cm / 中央:17.4×17.4x200cm / 右:21.3×21.3x200cm

建物の中央に据えられた和泉正敏さんの作品

「(今年9月に)和泉さんは亡くなられたんですけど、そのタイミングでこちらを譲ってもらえることになりました。普通、窓にはフレームをつけますが、この作品が見渡せる窓にはあえてつけないで、外と中という概念のない設計にしました。

ノグチさんはアメリカの方ですけど、日本文化を西洋美術で捉えて変換した美術家です。和泉さんは彼を何十年も支えて、横で見てきた方。そのような歴史を知っている方と創作に取り組むことができ、多くのことを学びました。

本当は出来上がった空間まで見てほしかったです。牟礼(香川)の和泉さんのアトリエで見た作品の表情とここに置かれた表情が全然違うので」

この発言から「T.T」の空間づくりにも関わった、和泉さんの存在の大きさが読み取れます。彫刻作品と同じフロアに並べられたのは〈タイガ タカハシ〉の服。100年以上前につくられたものを参考にしたという品々で、見た目はベーシックですが、実際手に取ってみると独特の存在感があります。




例えば、エンジニアコート(写真下)は「1300年以上続く技で染めた」という一着。奄美大島のテーチギという植物で天然染色し、鉄分を多く含む泥につけることで黒く反応してこの奥深い色が生まれるそう。通常、これは大島紬に用いられる繊細な技術で、職人の体調や天候で仕上がりの表情が変わるといいます。そこには「大量生産ではできない服づくりがしたい」という髙橋さんの思いが込められています。

ENGINEER COAT(LOT 401) ¥114,400
オーガニックコットンを使った独特の生地感は1910年代、第一次世界大戦時に使われていたアメリカ軍の生地を再現

「ここではセレクトショップのようなことをするつもりはないですし、他のブランドを扱うとか、古着を売るつもりもありません。唯一、自分で集めた古美術品を置くことはあるかもしれません。自分のフィルターが通ったものしか置きたくないんです。

服のデザインに関しても自分がゼロから生み出すことに興味はなく、いままで数千着収集した70年から100年以上前の衣服を考古学の観点で研究し、コレクションを発表しています。そんななかで衣服は記憶を辿る装置だと結論づけました。

社会情勢によって人々の装いは激しく左右されますが、衣服がタイムカプセルのように時間に耐えて生き残ることで、過去の記憶を追体験し、失われつつある文化や伝統を閉じ込めることができると考えています」

片方の壁だけで支えられている庵治石の階段で2階に上がると、そこに広がるのは茶室「然美」。“茶の湯” の世界を舞台芸術として見立てる空間になっています。

老舗和菓子司二代目の職人の技がつくり出す伝統と革新が融合した菓子と厳選した茶葉を使用した日本茶やカクテル、それぞれ5品ずつからなる茶菓懐石を提案しています。このスペースにも髙橋さんならではのこだわりがありました。



「壁には京都の唐紙工房『かみ添』の職人が一枚一枚手で染めた紙をパネル状に貼りました。椅子はジョージ・ナカシマの家具を手掛ける『桜製作所』と一緒につくったものを置いています。

お菓子を乗せる器も全国のいろいろな作家さんに会いに行って選びました。毎月変わるお品書きに合わせて、器も変える予定です」

12月に出されるのは「師走の茶寮懐石」。ただの和菓子やお茶ではなく、和の要素に洋のアイデアを加えたオリジナリティあふれる創作懐石です。程よい大きさの絶品スイーツに舌鼓を打つ1時間半から2時間。ペアリングの日本茶が疲れた心を癒してくれます。以下は「師走の茶寮懐石」の一部です。

「山眠る」
著預きんとん、備中産の白小豆粒あん、干柿

「枯木星」
生チョコレート羊羹、ピーカンナッツ


独自性のあるファッションや手頃な価格のアパレルが生き残り、立ち位置の曖昧なブランドは淘汰される厳しい時代、服を売るだけだったらネットで十分かもしれません。そんな流れのなかで髙橋さんは自身の城である総合芸術空間を完成させました。

「何代も続いている職人や工芸作家の方に話を聞いていると、やはり根本の部分は守るんだけど、時代に応じてアプローチを変えていっているんです。時代の流れを読み取るというか。情報があふれる時代のなかで、古いものだったり、価値観だったりを見つめ直して、現代の手法で蘇らせることも必要なことではないかと思っています」

PROFILE

髙橋大雅
デザイナー、現代美術作家

1995年生まれ。神戸市で育ち、2010年に渡英。「ロンドン国際芸術学校」を卒業後、13年に「セントラル・セント・マーチンズ」のBAウィメンズウェア学科に進学。在学中にアントワープやロンドンのメゾンで経験を積み、17年に同校卒業後、自身の名を冠したブランド〈タイガ タカハシ〉をニューヨークで立ち上げた。2021年秋冬シーズン、日本に本格上陸。

Photo_Kazuma Yamano

INFORMATION

T.T(1階)

営業:12:00〜19:00(水曜休)
電話:075-525-0402
オフィシャルサイト
※12月4日、オンラインストアがオープン

祇園茶寮然美(2階)

営業:13:00〜18:30(水曜休、予約制、茶菓懐石 ¥5,500)
電話:075-525-4020
オフィシャルサイト

住所:京都府京都市東山区祇園町南側570-120 T.T

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