スイスの実業家、セザール・ド・トレーはインドで行われたポロ競技を観戦していた。世界恐慌の波がひたひたと押し寄せていた1930年のことだ。
ド・トレーはそこである相談を持ちかけられた。それは壊れない時計が欲しい、というものだった。当時のガラス風防は激しいプレーに耐えられなかったのだ。そこで彼はケースが反転すればそのような事態を防げるのではないかとひらめいた。
ド・トレーの考えは友人のジャック=ダヴィド・ルクルトにただちに披露された。〈ジャガー・ルクルト(JAEGER-LECOULTRE)〉のルーツとなる「ルクルト」社の三代目である。翌31年、ルクルトはそのアイデアをかたちにし、パリ特許局は登録申請を受理した。モデル名にはラテン語で “回転する” の意となる「レベルソ」が与えられた。
細部には諸説あるが、「レベルソ」誕生の物語は大要、こんな感じらしい。
「レベルソ」は画期的構造もさることながら、アール・デコ円熟の時代に生まれたケースデザインがまた、素晴らしい。シーンのみならず、ジェンダーをも超越するポテンシャルがある。ダイバーシティな時代に相応しい一本といえるだろう。
忘れてはならないのが、美しいレクタンギュラー・シェイプに合わせて新たに開発されたスクエアのキャリバーだ。いうまでもないことだが、それまではラウンドがスタンダードだった。430以上の特許、1,300に及ぶキャリバーを有する〈ジャガー・ルクルト〉の真骨頂である。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa