今年7月、ガスライターにヒントを得た「ローラガスコレクション」が登場しました。
フリント(発光石)とローラーの摩擦熱で着火させるその名も「ローラガス ライター」は1950年代に〈ダンヒル(dunhill)〉が考案。ハンドル操作を妨げない、片手で着火できるそれはモータリゼーション華やかなりし時代のアイコンになりました。
蓋をかちりと開けたその親指でローラーを回す。流れるような仕草は、世の女性や少年をうっとりとさせたといいます。
「ローラガスコレクション」はローラガスのボディに刻まれたチューブ模様を再現しています。〈ダンヒル〉はそのボディに工芸品のごとき、さまざまなスカルプチャーを施してきました。この模様は1970年代当時のものが雛形になっているそうです。
コレクションにはカーコートやブルゾン、ジレといったウェア、シルバーのタイバー、カフリンクスといったアクセサリーなど、〈ダンヒル〉の歴史を辿るようなアイテムがラインナップされていますが、なんといっても見逃せないのはバッグです。
往時のパターンをエンボシング、ならびにキルティングで表現したボディは古き良き工業製品の素晴らしさ、すなわち職人の矜持を確かに伝えています。
再現したのはボディのスカルプチャーにとどまりません。ユニークライターのリフトアームに着想を得たバー型のジッププル、六角ナットを彷彿とさせるラッチ…随所にブランドのオートモーティブの伝統を反映した意匠が潜んでいます。ユニークライターはローラガスに先んじてリリースされた、やっぱり〈ダンヒル〉を代表するライターです。
ボディの素材はヨーロッパ産のフルグレインカーフスキン。しなやかさが際立つクロム鞣しとナチュラルなシボを生かすセミアニリン仕上げでフィニッシュしています。
端正でダンディ――そんなブランドのDNAを見事にかたちにしているといえるのではないでしょうか。
Photo_Kazuma Yamano
Text_Kei Takegawa