フイナムでも連載「TBSJ」をスタートさせた、シェフ鳥羽周作。最近いろいろなメディアに登場して、多種多様なプロジェクトに関わっているので、その姿を見たことがある人は多いのではないでしょうか。
なぜ鳥羽さんがフイナムで連載を始めることになったかというと、それにはいろいろ理由があるのですが、一番大きかったのは食とファッション、カルチャーを有機的に絡めていこうという彼の考えに、いたく共感したからです。
鳥羽さんは今いくつもの飲食店を束める立場にありますが、その中でも出発点というか、原点なのは代々木上原の「sio」です。2020年から3年連続でミシュランで星を獲得した本格的なレストランではありますが、ここは良い意味で他のレストランとは雰囲気、様相が違います。
何がどう違うのかをしっかり聞くべく、過日開催された「sio」の4周年パーティにお邪魔してきました。
ー「sio」が4周年を迎えたということでおめでとうございます! いわゆるレストランの周年パーティと違いますね。
鳥羽:はい、全然違うと思います。今回は「stacks」の(山下)丸郎くんにいろいろお願いしたんです。それがとにかく最高で。
ーなぜ丸郎さんにお願いしようと思ったんですか?
鳥羽:丸郎くんが持っているストリートカルチャーが常々すごいなと思っていて。実は丸郎くんたちとワインバーをやりたいと思っていて話をしていたんですけど、それの前哨戦的な意味も込めて、今回のパーティを考えたんですよね。ワインバーもただのワインバーじゃなくて、カルチャーをきちんとわかっているひととやりたかったんです。
ーなるほど。それでTシャツ作ったり、CD作ったりしたんですね。
鳥羽:はい。丸郎くんっていろんな才能があるんで、肩書きがよくわからないんですよ。「stacks」ではZINEとか作ったり、ギャラリーにいろんなアーティストを呼んだり。とにかく彼に“編集”されたいなって思ったんですよね。いつもは編集する側なんですが。
山下:ありがたいですね。実は15年くらい前に、鳥羽さんが別のお店にいたときに、店員さんと客という関係性でお会いしてるんですよね。それが最近になって(長谷川)昭雄さんたちの本を「stacks」で出版させてもらった際の展示に、鳥羽さんが来てくれて、そこで本格的な交流が始まったっていう感じです。
鳥羽:色々話をしているうちに、音楽も詳しいし、アートやグラフィティにも精通してるし、っていうことで、自分のお店を編集してください!みたいな流れになって。丸郎くんは、自分が今一番求めているものを持っているし、掘っているんです。
ー鳥羽さんはアート方面にも明るかったんですか?
鳥羽:いや全然。ぼくのなかでは「AH.H」のグラフィティの回が大きくて。あれ見て、改めてすごく勉強になったんです。
ー丸郎さんがガイドしてくれた、一連の企画ですね。
鳥羽:はい。ああいうストリートカルチャーが、「sio」だったらうまく合うんじゃないかって思えたんです。一つ星レストランでこの感じを良しとする感覚って、たぶんあんまりないと思うんですよね。
ー確かに。この掛け合わせが新しいし、気持ちがいいですよね。丸郎さんは今回の取り組みについていかがですか?
山下:「sio」は料理もすごく美味しいですし、スタッフの方の接客は勿論、内装とか音楽も含めてとても居心地が良いので最高なお店だなと思ってました。それに自分自身、飲み歩くのも食べ歩くのも好きだし、フードカルチャーには興味がありました。そのうえで「sio」や鳥羽さんと、ご一緒できるのはすごく楽しそうだなって思ったので、素晴らしい機会を頂きました(笑)。
鳥羽:もう全部ディレクションしてもらいました。
山下:ブースまで組ませてもらって(笑)。
鳥羽:やばいですよね! 今までこういう周年パーティみたいなのに全く興味がなかったので、4周年にして初めてなんです。
ーへぇ、なんか意外ですね。
鳥羽:僕は、MUROさんには丸の内のお店の音楽をずっとやってもらってるんですけど、CDをつくるっていう発想にはならなくて。
山下:CDのデザインは自分がよく一緒に仕事をしている〈オルウェイズ(ALWAYTH)〉さんにお願いしました。MUROさんの過去のMIXTAPEって、ジャケットで食料品とか飲料品とかのサンプリングネタをよくやっているので、今回は「sio」でよく使っている食材のパッケージをサンプリングするという案になりました。「sio」で定番的に使っているパスタのパッケージが元ネタになっています。
鳥羽:こういうところがめちゃくちゃ丁寧なんですよね。文脈をきちんと理解しているというか。うわべだけのひとじゃこういうことはできないと思うんです。
鳥羽:最近流行ってるワインバーって、店主ありきのお店が多いんですけど、僕はそういう感じではなくてカルチャーとして盛り上がっているというか、箱自体がイケてるっていう場所にしたくて。
ー個人としてめちゃくちゃキャラクターが立ってる鳥羽さんがそういうことを言うのが面白いですよね。自分がお店にいなくても回るようにするとか、店主ありきじゃないお店を作ろうっていう考えになるっていうのが新しいなって。
鳥羽:一人のカリスマのところに、だーっと集まっていくのは本質的なカルチャーじゃないと思ってて。食べ物で、例えばピノでもペヤングでもなんでもいいんですけど、そういうのって一切ひとの影がないですよね。鳥羽シェフ監修のピノです、みたいなことで10年残ってるようなものってないんですよ。文化になっていくものって、そういうことじゃないなって。だから最近自分の名前を出さない仕事っていうのを増やすようにしてて。
ーそうなんですね。
鳥羽:だからこれからは、自分が好きだからっていうことではないことをやりたくて。だからこそカルチャーを本当にわかっているひとと一緒にやりたいんです。カルチャーってお金で買えないじゃないですか。
山下:そうですね、それは難しいですね。一朝一夕で育める物でもないですし。
鳥羽:そう、付け焼き刃だとすぐばれるんですよ。下地がないとカルチャーって作れないんです。
ーそれはその通りですね。メディアをやるうえでもそこは肝に命じています。
鳥羽:こないだ「フイナム」でこれからは、レストランのカジュアルラインが来る、みたいな企画を作ってたじゃないですか。これって本当にそうだなって思うんです。僕らも2年前ぐらいからハンバーガーとかバインミーとかつくってるなかで、やっぱり次はこういう感じだなって。
ー嬉しいです、そう言ってもらって。
鳥羽:肩に力の入ってない感じというか。それでいうとちょっと違う話なんですけど、シェフがTシャツとか作るとちょっと変な感じになっちゃうことが多いんですよ。
ーうーむ。そうなんですね。
鳥羽:なんかカルチャーが好きっていう感じとはちょっと違うんでしょうね。ハイブランド着ちゃうみたいな。別にハイブランドが悪いってわけじゃないんですけど。
鳥羽:今回、丸郎くんとやれたことって、自分のなかですごく大きくて。「AH.H」を見て昭雄さんと繋がって、丸郎くんとこうして一緒に何かできるっていうのには、全部理由というか文脈があるんですよね。そういうところがカルチャーっぽいのかなって。
山下:そうですね、さっきのレストランとかがTシャツを作って微妙なものになるっていうのは、それこそ文脈がないからじゃないですかね。
ー繋がってない、流れがない。
鳥羽:そう。アウトプットしたデザインの話ではないと思います。プリントがかっこいいとかそういうことじゃなくて、文脈のなかにきちんとあることが大事で。
ーなるほど。この二人の並びってちょっと意外だったんですけど、なんかなるほどなって思いました。お互いに“編集”ができるなかで、任せるところは任せて、そのうえで化学反応が起きるというか。
鳥羽:これからはチーム編成が必要な時代なのかなって気がしてます。
山下:あー、それは自分も日々感じています。
鳥羽:レストランだって、音楽もいるしアートもいるしってなったときに、今までのシェフだけの切り口では表現しきれない部分を、チームをつくることで各々のセンスでキュレーションしてもらうっていうのが、超重要だと思います。
ーなるほど。編集ですね、それもまた。
鳥羽:そこを間違っちゃうとすごく変な感じになっちゃうんですよね。さっきのカジュアルラインの話でも、例えばストリート=スケボーとか、そういうことじゃないじゃないですか。
山下:それはわかりやすいかもですね。
鳥羽:当たり前なんですけど、スケートボードやってれば、ストリートカルチャー知ってるっていう話じゃないっていう。多分精神の話ですよね。
ー鳥羽さんは今いろいろなお店を司る立場にいますけど、この「sio」が始まりでしょうし、ここでいろいろなことを試せるのはいいですね。
鳥羽:そうですね。4年目になって、ミシュランをいただいてテレビも出てみて、いろいろやってみて、1周回って今自分がやりたいことは、今回このパーティでやったようなことなんだなって確信しています。
ー食を中心にした、様々なカルチャーが並列になる、この感じですね。
鳥羽:はい。いろいろな評価軸がありますけど、そういうのを1回忘れて、自分たちが本当に大事にしたいことはなんなのかっていうことを改めて見つめ直すっていうことですよね。なんかすごく新鮮なんですけど、昔からこれをやりかたかったって感じもするというか。
ー新しいけど懐かしい。
鳥羽:最終的にどうなっていくんだっていうのは自分も楽しみですね。あと思うのは、みんな海外の真似をしがちじゃないですか。レストランだったらヒゲとタトゥーのシェフがいて、みたいな。いや、タトゥーがどうこうっていう話じゃないですよ。
ーはい。それも文脈ですよね。うわべではなく。
鳥羽:そうそう。そういうところだけを真似するのってファッションであって、今回丸郎くんとやったことって、カルチャーだと思うんです。しっかり根が張ってるものをやってくっていう。海外を真似しないで、日本で。あくまで僕たちの文脈でやるってことですよね。
山下:大企業が資本を投資してるような、結局はビジネスとして動かすのが第一というものではなく、鳥羽さんとなら自分たちが大切にしているものとしっかり向き合いながらやっていけると思っていて。そうすればしっかりとしたカルチャーが根付くものになっていくと思うんですよね。勿論、ビジネスも大切なんですけど(笑)。
ーなんだかすごく面白そうなものが生まれる感じがして、すごく期待してしまいます。
鳥羽:カルチャーの一部にファッションがあることが重要で、ファッションが最初に来ちゃうと続かないし、流行り廃りになっちゃうんですよね。カルチャーを作っていく過程で、スタンスとしてファッションがあるみたいな位置付けが、いいのかなって。
いかがでしたでしょうか? 「sio」がどうこうという話を軽々と飛び越えて、ワクワクするような言説がたくさん飛び出しました。
今回お二人が作り上げた、肩肘の張らない親密なムードの空間というのは、勝手ながらフイナムとしてもすごく親和性が高いなと思っています。ゆえに彼らが手がける諸々を追いかけていかなきゃな、と思いを新たにしたのでした。