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【FOCUS IT.】TOKYO ART BOOK FAIR 2022。本はこんなにも自由だし、いつも楽しい。

総務省統計局によると、新刊の本は1日に200タイトル近くが刊行されており、年間刊行数は68,608冊にもなるそうです(令和2年度の統計より)。紙からWebの時代、と言われて久しいですが、こうして数字で見ると、日々途方も無い数の本が世の中を行き来しています。書店や図書館ですれ違う本たちは、ほんの氷山の一角に過ぎないよう。そう考えたら、まず絶対これらすべての本は読めないのだから、選び取るのはおもしろい一冊がいい。それもとびきりスペシャルな一冊が。

2009年から始まったアート出版に特化した日本初のブックフェア「TOKYO ART BOOK FAIR」には、個性豊かなアートブックやカタログ、アーティストブック、ZINEなどを制作するアーティストや出版社が、各々のスペシャルなタイトルを持ち寄って一同に会します。その規模はアジアで最大級。今年、10月最後の週末の4日間(10月27日~30日)にひらかれた「TOKYO ART BOOK FAIR 2022(以下TABF 2022)」は、ここ2年、コロナ禍の影響から減少気味だった海外からの人出も戻り、約200組におよぶ国内外の出展者が東京都現代美術館にブースを並べました。

限られた滞在時間のなかで手にできるのはわずかですが、そのどれもがこだわりの詰まった特別な一冊たち。会場をまわり、出展者からの熱のこもったアートブックの話に頷きながら、ときに英語で話される説明にはにかみながら過ごしていると、本はこんなにも自由でよくて、本のある場所は楽しいのだと、大きな声で言いたくなります。

取材班が切り取ったシーンでもって、TABF 2022をレポートいたします。

ダンボールを剥がして現れるタイトルロゴは、デジタルにはない、紙ならではの質感が際立つ。入り口に待ち受けるこちらの横断幕はプリントながら、各ブースのサインは実際に3層仕立てのダンボールを剥がして文字が出現。本展のアートディレクター・田中義久さんによるもの。

イヴォン・ランベール(Yvon Lambert)」による展示は、TABF 2022「Guest Country」の大きな目玉のひとつ。1967年にギャラリーを構えて以降、現代においてもフランスの現代美術界を牽引しつづけ、現在はパリ3区にブックストア、展示スペース、出版社を併設したより親密なスペースを運営している。「イヴォン・ランベール」の活動を振り返ることはすなわち、フランスのアートブックシーンの歴史を概観するよう。

「イヴォン・ランベール」の現在の出版プログラムは、主に詩集、写真集、プリントなどで構成されている。写真は芸術家夫婦・クリスト&ジャンヌ=クロードによる作品のドローイング。

壁一面に〈アニエス・ベー(agnès b.)〉が発行する『ポワンディロニー』がびっしり。1997年にアニエス・ベーと現代美術家クリスチャン・ボルタンスキー、現代美術キュレーターのハンス=ウリッヒ・オブリストの会話をきっかけに誕生したこの刊行物。アートフリーペーパーとしておよそ10万部が、世界中の美術館、ギャラリー、書店、そしてアニエスベーショップで配られている。

パリ・セーヌ河岸で見られる「ブキニスト」を模したユニークな什器に、専門性の高いセレクションの書籍が並ぶ。「ブキニスト」とは、古本やポスター、絵葉書を販売する屋台のことで、パリの風物詩のひとつ。さまざまなジャンルにおける目利きのスペシャリストたちが、現地で話題のフランスのアートブック、ZINEやポスターなどをセレクトし、フランスのアートブックの多様性と個性が表現された。

TABFにとって初となる子ども向けのコンテンツ「Kids’ Reading Room」は、本展屈指に居心地のよい空間。子どもや大人を読書の喜びへと誘う、遊び心あふれる独創的なフランスの絵本のほか、日本人作家たちの絵本も並んだ。オリジナルの販売機「ART BOOK VENDING MACHINE」もナイス!

スタンプを押すと現れるのは、どれも水や雨につまわるフランス語の言葉たち。作家、デヴィッド・ホーヴィッツによるワークショップコーナーはシンプルながら詩心をくすぐる。

日本の浮世絵をイメージソースに、水彩画で描かれた怪獣たちをまとめた一冊。絵本のような表紙まわりの造本によって、チャイルディッシュな世界観が巧みに表現されている。
Tom Fellner『Monster Drawings』(edition fink)¥4,800-

上の作品集を刊行している「edition fink」を含め、スイスに拠点におく4つの出版社(edition finkBoabooksJungle Bookstria publishing platform)からなる、アートブックのプロモーション・ディストリビューションのための共同体「Fair Enough」のショップカード。2017年に発足し、世界中で乱立しているアートブックフェアに交代制で参加しているそう。批評的なスタンスすら感じられるネーミングも素晴らしい。

あちこちから英語ほか諸外国の言葉が飛び交い、国際色の豊かな「EXHIBITION SPACE」。国内ではなかなかお目にかかれないタイトルの数々に時間も忘れて本を読みふけってしまう。

作家が、コロナ禍によってもたらされた内省する時間のなかで制作したという一冊。縫製や刺繍の要素を取り入れたコラージュ技法でつくられていて、22枚のタロットカードが纏められている。一枚一枚の美しいイメージもさることながら、作家自ら施した製本には、すみずみから美意識が感じられる。
Julia Borissova『Alchemist Tarot Book』(Self published)¥34,000-
取扱は金沢「アイアック(IACK)」による。現代写真を中心とした国内外の作品集の展示、販売、流通を行っており、金沢に訪れた際にはぜひ足を運びたいブックショップ。

ボッテガ・ヴェネタ自身がTABFのために選書したアートブックが展示され、ブランドの世界観が本を通じて展開された。そして来場者には先着で「WINTER 22」のキャンペーンビジュアルをまとめたフォトブック(未公開ビジュアルを含む全2分冊構成)の配布も。

地下B2フロアにある「ZINE’S MATE」とは、2009年に開催された第一回「TOKYO ART BOOK FAIR」のタイトルでもある。原点回帰の思いを込めて新規出展者を積極的に募集し、荒削りにでも、実験的な本づくりを試みる出展者が集まった。

写真家の濱田晋さん、ペインターの鈴木昌吉さん、アーティスト、スズキ・ショーン・ショウスケさんによる「BY ONE PRESS」ブースは、テーブルを新作タイトルで埋めて参加。写真右下の青いブック『環状特ア線』は、初の文章作品だそう。

「ZINE’S MATE」フロアでは「あれ? ブックフェア?」と思ってしまうようなビックリアイテムも多々出現。これは、ご存知レオナルド・ディカプリオのプリントがあるお皿。詳細は不明。

「SPACE PAPER」ブースで見つけたのは、アーティスト・森山泰地さんの作品集。水を張った田んぼにレンズを設置し、集めた太陽光で水上の木を燃やすというインスタレーションを記録したもので、タイトルは『時空焦距_Focus of time and space』。

亡くなった祖母の遺品から発見されたフィルムを、長い時間の隔たりを超えて現像し、写真集として表現されたMai Springによるタイトルの見当たらない写真集。(Self Published)¥4,300- 。
経年によるフィルムの劣化から生じた、思わぬ色彩の転移が美しい。

上の作品集を扱っていた「LAVENDER OPENER CHAIR」ブースでは、「KHONKA KLUB」のピンバッジも並ぶ。これらのバッジは、バンドをはじめやサブカルチャーのアイコンをモチーフにしているが、実は「クオリティ・ブート」と呼ばれていて、無許可での製品化し版元からの警告を受けた後、そのクオリティの高さで販売許可を得るという豪腕な手法でつくられたアイテム。

Photo_Yusuke Kajitani
Text&Edit_Jun Asami

INFORMATION

TOKYO ART BOOK FAIR

公式サイト
ZINE MATE Spotify

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