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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.52 ボディに施した企業ロゴ刺繍から紐解く、“アウトドアとアメリカ”の蜜月関係。

そもそもニュー・ヴィンテージとは?

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。いまではさらに、当時“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

気が付けば7シーズン目に突入した本連載。というワケで、新たにショップも入れ替わってリスタート。1巡目の最後を飾る、第52回目は「インスタントブートレグストア(instant bootleg store)」の坂本一さんがカムバック!

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


坂本一 / instant bootleg store 主宰
Vol.52_起業モノの刺繍が施された、アウトドアブランドボディのユニフォームウェア

―シーズン3以来のカムバックですね。お帰りなさい!

今回また、この連載に参加するにあたって“ニュー・ヴィンテージ”とは何かを見つめ直してみたんです。次なるヴィンテージの再定義として、時流に合わず忘れ去られていたモノや放っておけば確実に埋もれてしまうようなモノを提案していく。ぼくが考えるに、古着屋は究極のセレクトショップなんです。そもそも一点モノであり、「これがヤバい」「これが珍しい」「こんな感じで着ろ」といったエゴに満ちたモノに一部少数派が共感することで、共通言語・認識として広がっていく。そんなアナログで温かみのあるカルチャーだなぁと。なので、2回にわたって”いま、自分自身が自然とハマって探しては買っているモノ”を、思いっきり主観で伝えていきたいと思っています。

―これは期待大ですね。で、今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?

まずはコレです。〈エル・エル・ビーン(L.L.Bean)〉のジャケットで、一般的にカバーオールやフィールドコートと呼ばれるアレ。ぶっちゃけアイテムの種類はどうでもよくて、注目して欲しいのがこの胸の刺繍。フィラデルフィアのボルチモアにあるガス・電気供給会社〈BGE〉のロゴですね。ここまで多種多様に広がったデザイン的進化の根源には、アメリカ企業のロゴにあるのではないかと思うんです。誰もが見たことがある気がして、スッと許容してしまうのは、潜在意識下で“アメリカ=ベーシック”と感じているんだなぁと。要は、なんだか知らないけどよく見えるっていう。

エル・エル・ビーンのジャケット¥19,800(インスタントブートレグストア)

―たしかにそれは言えます。そもそも現在の古着カルチャーはアメカジが元になっていますし。

アメカジの定番である〈ディッキーズ(DICKIES)〉や〈レッドキャップ(RED KAP)〉といったワークブランドは当然、ユニフォームウェアとして愛されてきましたが、1990年代〜2000年代って、こういった感じで、アウトドアブランドのウェアをボディに使ったユニフォームウェアが多々見受けられます。しかも1980年代以前は技術的にあり得なかったような高機能性のアイテムを使用している場合も多く、すごく新鮮なルックスになっていたりして。

―こういった+αのディテールって、テンションが上がりますよね。続いては?

これなんかもすごく良いなと思っていて、ベースは〈パタゴニア(Patagonia)〉のダウンセーターで、アメリカの有名ビール「サミエルアダムス ボストンラガー(Samuel Adams Boston Lager)」のモノ。酒の醸造所は温度管理も厳しくやっていて室内でも寒いため、ダウンセーターを採用したのかな? と想像するのも楽しいし、ナイロンものにガンガン刺繍をかましちゃうラフなノリも超好き(笑)。先ほども述べたように、こういうのって新しめのモノしか出てこないんです。これだって製造年は2015年ですし。だからこそ新世代のニュー・ヴィンテージとなり得るなと。

パタゴニアのダウンセーター¥27,500(インスタントブートレグストア)

―他にはどんなアイテムがあるんですか?

実に様々なアイテムがありますよ。なかでも取っ付きやすいのがビール系。これは〈クアーズ(Coors)〉で、ボディは近年モノの(キャベラス(Cabela’s)〉。止水ジッパーを使用しているシェルジャケットで、屋外イベントで着用されていたのかな。同じくビールだと、テキサス生まれの〈シャイナー(Shiner)〉とかも。ボディは〈エディー・バウアー(Eddie Bauer)〉のフリースベスト。ボディ素材としてフリースは特に使用されていることが多く、探すと色々なモノが見つかります。

キャベラスのシェルジャケット¥14,300(インスタントブートレグストア)

エディー・バウアーのフリースベスト¥12,100(インスタントブートレグストア)

今回紹介したモノを見ていくと、「アメリカでは日本よりもアウトドアブランドが日常のすぐそばにあって、アウトドアこそアメリカなんだなぁ」と再認識させられますよね。ちなみに刺繍&ワッペンのロゴが施されたウェアは、企業モノのみならず団体モノなど数限りなくあります。これなんかは、カレッジに文脈があるもの(※「シグマニュー(Sigma Nu)」は、バージニア軍事大学で設立された大学の友愛団体)ですし。

パタゴニアのフリースベスト¥18,700(インスタントブートレグストア)

―掘れば掘るほど、新しい発見がありそう。

同じボディで、同じ刺繍の入ったアイテムなんて基本、見つかりませんからね。そういった古着のロマン的な部分を感じられますし、まだそこまで高価ではないというのがポイント。これがさらに古着的価値が育っていくと、「こんなハイエンドモデルを使ったユニフォームはなかなかない」とか、無理矢理細分化するようになるのかもしれませんが、どちらからといえば“ノリ”が大事です。

―ニュー・ヴィンテージを語る上で、ひとつの基準としてハズせないのが“ノリ”ですもんね。

ここでいう“ノリ”って、“色”とも言い換えられると個人的には思っています。例えば、ビール系だけ集めていたり、パタゴニアの刺繍モノが多いとか。そういった店ごとの色があってこそ面白い。ただ目に入るモノを全部仕入れているわけでは当然無いはずなので、そこを上手く表現することでセレクト感が生まれるし、これからの古着業界では、各ショップがしっかりと認識して表現していくべきだなと。古いか新しいかではなく、“古着というカルチャー自体をどう捉えるか”が、いまとても大事で、かつ楽しいところだなとひしひしと感じています。ぜひこれを読んでいる人も自分のエゴ全開で、”みんなが欲しいモノ”だけを追うのではなく、“自分だけの価値があるモノ”を探してみてください。きっと楽しいではずなので。

坂本一 / instant bootleg store 主宰
原宿「BerBerJin」にて8年余り古着業界に携わりバイイングも経験。その後、セレクトショップ「FAN」に参加。以降は様々な企画を手掛ける。その坂本一が思う良い物を“素敵な小遣いの使い方”をテーマに販売する古着屋、それが「instantbootlegstore」である。
インスタグラム:@hajime0722

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