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箱根ランナーも市民ランナーも、なぜ「走る」ことに魅了されるのか。 箱根駅伝の本戦出場を決めた、城西大学男子駅伝部を訪れる。〜櫛部監督編〜

正月、新春の陽光に照らされた東海道箱根路で、学生ランナーたちがタスキをつなぐ青春ドラマが繰り広げられます。10月の予選会を堂々3位で通過し、来年1月2日・3日の箱根駅伝に2年ぶりに出場する城西大学男子駅伝部。11月のとある日、埼玉県坂戸市にある彼らのグラウンドに、「フイナム ランニング クラブ♡」の牧野英明さんと訪れました。

今回は牧野さんをインタビュアーに迎え、監督とキャプテンそれぞれに、予選会の裏側や正月に向けた意気込み、目標などについて対談を実施。さらに、学生エリートランナーと市民ランナーの共通点である「走る」という、一見すると単純なスポーツにある難しさや魅力について語ってもらいます。2本仕立てとなる本記事の前編では、城西大学男子駅伝部を長年指導してきた櫛部静二監督が登場。

PROFILE

櫛部静二

1971年生まれ。山口県出身。学生時代は早稲田大学競走部に所属。1993年の3年時には箱根駅伝1区で1時間2分9秒の区間新記録をマークし、チームの往路優勝、総合優勝に大きく貢献した。実業団選手を経て、2001年、城西大学男子駅伝部コーチに就任。2009年より同部の監督に。

PROFILE

牧野英明

1980年生まれ。栃木県出身。大手セレクトショップ勤務。ファッションのスキルと現役サブスリーランナーとしての経験を活かして、ファッションランニングアドバイザーとしても活躍中。普段着のテーマは、常に10km走れるコーディネート。箱根駅伝は学生時代から欠かさず追っていると意気込む。

予選会3位通過の裏側。

牧野:櫛部監督! 今日はどうぞよろしくお願いします。ぼく、世の中のスポーツのなかで箱根駅伝が一番好きなんです。

櫛部:そうなんですね! それは嬉しいです。

牧野:ぼくのなかで城西大は箱根の常連校という認識だったので、前回の箱根駅伝出場を懸けた予選会では15位で本戦出場を逃してしまい(正月の本戦出場は10位まで)、城西大がまさか…… と思いました。なので、そのチームが今年10月の予選会を3位通過したことにはビックリしましたね。今年の3位通過に対する評価はどうですか。

櫛部:3位という結果は予想以上に良かったと思います。ただ、あくまで予選ですから。大事なことは、本戦への切符を勝ち取ることです。

牧野:今年の予選会当日は気温が上がりハードなコンディションだったと思いますが、何か戦略は立てましたか?

櫛部:はい、過去にも気温が上がった予選会で思うような走りができずに敗退したことがあり、その教訓を活かして、夏合宿のときから、さまざまな気象条件のなかで暑さ対策に取り組んできました。そして、過去の予選会の気温と湿度データから2016年のコンディションに近いと想定して、当日の戦略を立てました。

牧野:具体的にどんな戦略だったんですか?

櫛部:タフなレースだからといって序盤から自重することなく、気温が上昇する前にある程度速いペースで走って、貯金をつくる走り方を指示しました。結果、前半から通過圏内に入り、終盤も順位を上げながら走り切ってくれましたね。

牧野:なるほど。戦略通りだったんですね。

櫛部:はい、ピタリとハマった感じでした。

牧野:堂々の予選通過! 本戦に向けても期待できそうですね。

櫛部:予選会はどちらかといえば苦手にしていたので、通過できたことがまずは一番の収穫です。本戦を見据えると、予選会はチームでまとまって集団走をするほうが手堅く走れますが、本戦はひとりで20kmの距離を走り切る力が求められます。今回は、予選会のときから集団走に頼らない走りを意識するよう指示していました。そう考えると、正月の本番も期待できるかなと思います。

牧野:今年は城西大男子駅伝部初となる留学生がいますよね。よく留学生がチームに記録面だけでない好影響をもたらすという話を聞きますが、やはりその通りなんですか?

櫛部:そうですね。ヴィクター・キムタイは1年生ですが、早くもチームを活性化させてくれています。当初はみんな驚いていましたが、新しい刺激をもたらしています。ただ、箱根駅伝は10区間それぞれ距離や難易度が異なり、それこそ山登り、山下り区間があり、スピードが求められる平坦区間もあるので、適材適所に選手を配置してチーム構成したいと考えています。

牧野:箱根駅伝では、山登りと山下りと言った特殊区間の対策が鍵を握ると言われていますよね。

櫛部:大学の近くに山があるので、箱根に見立てて夏からトレーニングしてきました。普段の練習のなかから登りが得意な選手の見極めができるので、その選手を重点的に山を走らせたりして育成してきました。今年のチームには山を得意としている選手が複数名いるので、その点はポジティブな要素なのかなと思います。

牧野:正月に向けて順調にチームが成長しているんですね。今年のチームはどんなカラーですか?

櫛部:そうですね・・・。実は、春先は特徴がないというか。個性がちょっと足りないというのが正直あって。学生たちにそういう話をしたこともありました。協調性を大切にしながらも個性を磨くことが大事です。ここにきて、選手の特徴も出てきてチーム力が上がってきていると思います。

牧野:チームとしても個人としても大きく伸びてきてきていると。

櫛部:学生は瞬間瞬間で変わってくるので、それぞれが高い意識を持って頑張ることが大事です。どう成長するかは彼ら次第なので、指導者としては道筋を立ててあげたら、あとは見守ってあげることが大切かなと思います。


走るという単純な行為の、難しさと楽しさ。

牧野:いよいよ本戦まで、あと1ヶ月に迫ってきました。ここから本番に向けてどんなトレーニングをしていくつもりですか?

櫛部:あまり時間がないので、ここからは特別なことはしません。まずは怪我をしないこと。予選会はいい形で走れたので、正月の本番も最大限にパフォーマンスを発揮させることが大事です。

牧野:具体的にどのように指導されるんですか?

人工的に高地環境をつくる低酸素ルームでのトレーニング風景。

櫛部:疲労を抜きながらコンディションを上げて、本番に向けてピーキングを行います。強度の高いポイント練習のメニューは私が組み立てますが、他の日は選手に任せる部分も多くあります。箱根は距離が20kmあるので、直前まである程度は距離を走りながら調整していきます。最低でも1日1時間ほどは走らせ、ポイント練習は3日に1回のサイクルで行い、普段からメリハリをつけてトレーニングしています。

牧野:櫛部監督は学生長距離の指導に携わって長いと思いますが、いまと昔で自身の指導内容など変わってきたことはありますか?

櫛部:城西大男子駅伝部の立ち上げからですから、21年目になります。監督になって14年が経ちますね。発足当初は、選手のレベルもいまほど高くなかったです。なので、着実に強くなるために、トレーニングは強度ではなく量を重視していました。いまは色々なタイプの選手が集まっていますから、選手ごとに強度の高い内容に取り組んだりしています。

牧野:何かメンタル面で心掛けていることは?

櫛部:そうですね、選手たちの走る意欲が湧くよう、言葉を選んで声かけするように意識しています。

牧野:トレーニング環境も変わってきていますよね。

櫛部:人工芝のグラウンドができたり、科学的なトレーニングができる低酸素ルーム施設など最先端のトレーニング環境を整えました。また、カーボンプレートの入ったシューズは速さと引き換えに身体への負荷も高いから注意が必要です。1kmあたり2〜3秒速く走れますが、シューズから受ける反発が強いので大腿部の疲労骨折など以前はなかった故障が増えているので、筋力トレーニングにも力を入れています。

牧野:ぼくら市民ランナーもいわゆる厚底シューズブームですが、選手たちは何か工夫して履き分けているのでしょうか?

櫛部:速いスピードで行うポイント練習の時だけカーボンプレートの入った厚底シューズを使い、そのほかの練習はカーボンプレートの入っていないシューズを履くように心がけています。

牧野:なるほど。でも厚底のほうが速く走れるから、ぼくも仲間と走るときにはついつい厚底を履いて、遅れを取らないようにしてしまいがちです。

櫛部:その気持ちはわかります。ただし、よく選手たちにも言うことですが、強くなること、速く走れるようになることが目的なのに、目の前の練習をこなすことだけに意識が向くと、練習のための練習になってしまいます。毎日のトレーニングは手段であって、それを目的にしてしまうとズレが生じてしまう。市民ランナーの皆さんも同じで、その日のトレーニングの目的は何かを日々問うことが大切だと思います。

牧野:その通りですね。さらに、よくあるのが練習ではできても本番でできない・・・ということが多いです。

櫛部:まぁ、その難しさが、この単純な競技の面白さだと思いますよ。

牧野:はい、そう思っています!

櫛部:練習を積んでいつも自己ベストが出るなら、こんな単純なことは飽きてやらないでしょう。難しさをいつかクリアして絶対走り切る! 目指すものがあるから、こんなドMなスポーツをやっているのかなと思います。

牧野:不思議ですよね。単純だからこそ上手くいかない。その点にこそ、よりのめり込む要素がランニングにはあるんだと思います。ぼくが学生だった頃は走らされている状態で、走ることの深みに気づけていませんでした。

櫛部:学生時代と社会人になってからでは、意識の差に大きな違いがありますよね。

牧野:いまでも理想にはなかなか辿り着いていませんけどね。

櫛部:シンプルがゆえに、自分の身体との対話を重ねてつくり上げていくのが魅力なんではないかなと。

牧野:正月の箱根駅伝、活躍を楽しみにしています。最後に、応援してくださる方々に向けてコメントをお願いします。

櫛部:今年の予選会通過を予想以上に皆さんが喜んでくださったので、そのお礼というわけではありませんが、正月もしっかり力を発揮したいと思います。シード権獲得に向けて選手たちは希望に燃えています。来年度、箱根駅伝は100回記念大会です。出場権は早いうちから取っておきたいですから。

牧野:頑張ってください!

Photo_kentaro Hisadomi
Text_Kenji Hashimoto

INFORMATION

城西大学

城西大学男子駅伝部 Twitter:@josai_ekiden
オフィシャルサイト

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