1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップがすべて入れ替わり、スタートした10シーズン目も今回がラスト。トリを飾る第80回目は、「ウォーミング(Warming)」の坂本高久さん。さて、2周目はどんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
坂本高久 / Warming 店主
Vol.80_ザ テリトリー アヘッドのシャツジャケット&アノラック&キャップ
―さて、今回紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムは何でしょうか?
これまでアウトドアを背景に持つアイテムを紹介してきましたが、今回はちょっと趣向を変えてファッションブランドを取り挙げたいと思っています。ただし手持ちの情報が少なく、あくまでぼくの知っている範囲での紹介という感じになってしまうのですが……。
―非常に気になりますね。なんというブランドですか?
〈ザ テリトリー アヘッド(THE TERRITORY AHEAD)〉という、アメリカのカリフォルニア州サンタ・バーバラ生まれのブランドです。創立は1989年で、いまも健在。公式サイトに記された文言によると“人生という冒険のための服”がコンセプトのようで、実際ここのアイテムは定番モチーフであっても、ちょっと冒険したディテールを備えているのが特徴。どれもこだわりが光っていて、すごく面白いんです。ということで、今回はその中から3つほど用意しました。
―おっ、これはパッと見にも面白い感じが伝わってきます。
ですよね。アメカジの定番アイテムにツイストを効かせる感じは、〈ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)〉のノリにも通ずるものがあります。このブランドは遭遇率こそ低いのですが、出会えた時に“当たり”を引く確率が非常に高く、これまで見てきたアイテムはどれもかなり刺さるモノでした。
―それぞれどんなアイテムなのか教えてください。
まずはこちらから。コーディロイ襟やリベットが打たれたポケットなど、ワークな意匠はカバーオールのそれですが、素材は柔らかなコットンで袖先はシャツの仕立て。なので、分類的にはシャツジャケットになるんですかね。見どころは抜群のシルエット。サイズはXLですが、日本人体型でもハマる腕の長さと身幅、丈感なので着こなしやすいと思います。このチラリと覗いているマルチストライプ柄の裏地も気になりますよね? ということで裏返すと、こんな感じ。
リバーシブルというわけではないようですが、そういった着方をするのもアリ。胸には機能的なジップポケットがさりげなくあしらわれ、袖部分にだけなぜか中綿が入っています。普通なら身頃に中綿を入れますが、なにかしらの意図があるのか土地柄なのか……そこは謎です(笑)。これに加えて、前立て裏のループに配備された替えボタン、裾がめくれたときに見えるピスネーム&織りネームタグと、細部まで実に凝っています。
―これはまさにディテールの宝庫ですね。続いてはアノラック。こちらの見どころは?
しいて挙げるならば、全体の雰囲気でしょうか。素材はコットン74%:ナイロン26%。コットンの比率が多めだからか、着込まれたことによって生まれた褪色のムードとパッカリングの風合いがまたイイ感じで。オレンジ × ベージュのカラーブロッキングに、さりげなくジップはモスグリーンという玄人的な配色もウチらしいなと。ステッチのアクセントも効いています。
―シーズンを問わず活躍するライトアウターといったところでしょうか。
まさに。素材由来の防水性とメッシュライナーの通気性を備えているため、春先〜晩秋までの3シーズンで活躍するかと。ウチではオープン当初からアノラックに注力してきましたが、こういったデザインの効いたタイプは新鮮です。丸っこいバルーンシルエットはボトムスの種類を問わないので、いろいろな着こなしにチャレンジしたい人にオススメ。
―坂本さんはこういったアノラックを着る際、中は何を合わせていますか?
普通にクルーネックのスウェットとかですかね。これからの季節だったらロンTやTシャツでもイケますし、少し変化を付けるなら、ちょっと大きめのシャツを選択肢に加えてもイイでしょうね。そして、最後は小物からキャップ。これも面白いんですよ。
―多岐にわたって、アイテムが展開されていたんですね。
とはいえ、圧倒的に見つかりやすいのはトップス類。シャツ系がいちばん多く、次に多く見つかるのがライトアウター系。逆に小物はあまり出てこないので珍しいアイテムだと言えます。ボディに用いられている生地が格子状のコーデュロイというか刺し子っぽくて面白いですし、背面に入ったロゴ刺繍のワンポイントも目を引きます。バイザー部分は表がレザー。経年変化なのかヒビ割れた表情で、裏はヘリンボーン生地。これにレザーストラップも相まって、アメリカンカントリーな雰囲気が楽しめます。
―一見するとシンプルですが、これもディテールの面白さが目を引きます。
加えて、シルエットにも注目してほしいです。やや長めのバイザーで、クラウンは被り浅め。正直、自分でも買っちゃおうかなと悩むくらい好みです(笑)。ロゴもののスウェットにキャップを合わせようと思ったときに、両方ロゴだとうるさい感じになってしまうので、引き算しつつアクセントを付けられるこういったブランクキャップは重宝しますね。
―新たな発見がありました。以前、「サマー オブ ラブ(Summer of love)」さんが〈デザート(Dezert)〉というドメスティックブランドを取り挙げましたが、それにもどこか近いノリを感じます。
絶妙なアレンジ加減といい、どこかストリートの匂いもしますよね。基本的にベーシックなアイテムが多いウチの店としては、そういったものが並ぶラックにたまに刺さっているスパイスって感じがイイんじゃないかなと。スパイスといってもチリペッパーとかキツイのではなく、山椒くらいの…ですけどね(笑)。
―ちなみに〈ザ テリトリー アヘッド〉のアイテムって、他のショップでも結構取り扱いはあるんですか?
あるとは思いますが、いわゆるアメリカ古着を扱う昔ながらのショップではあまり評価はされていないんじゃないですかね? それよりもデザイン古着を得意とするショップの方が見つかる可能性は高いかも。この記事をキッカケに評価が高まれば嬉しいのですが、正直そんなに出てこないブランドなので、皆さんも見つけたらとりあえずチャレンジしてみて下さい。
坂本高久 / Warming 店主
千葉県出身。2016年5月より、インスタグラム上で自身が買い集めた古着を紹介するアカウントを開設。2019年4月に、世田谷区・松陰神社前に待望の実店舗「Warming」をオープン。90sのUSブランドを軸に、気の利いたグッドレギュラーなアイテムから、レアなアイテムまでを展開。そのセレクトセンスはもちろん、週末と祝日のみという営業スタイルも人気の理由。
インスタグラム:@warming__store