1830年、アメリカのペンシルバニア州プラムランで設立されたアウトドアウェアのブランド〈ウールリッチ(WOOLRICH)〉。長い歴史を誇るこのブランドから、新たなラインが生まれました。その名も〈ウールリッチ ブラック レーベル(Woolrich Black Label)〉。クリエイティブディレクターを務めるは、ニューヨークを拠点に活動を行うデザイナー、トッド・スナイダーです。来日した彼のもとを訪ね、頭の中にあるアイデアに触れました。
Photo_Sara Hashimoto
Text_Tsuji
現在進行形のブランドであることを証明したい。
ファッションは常に新しいものを求められる世界である一方、過去のものへの畏敬の念を忘れることはありません。クラシックは歴史であり、指針であり、その中には新しいものを創造するためのヒントが隠されています。
今季よりスタートした〈ウールリッチ ブラック レーベル〉もまた、伝統に敬意を払いながら新しいものを生み出そうとするブランドです。
クリエイティブディレクターに就任したトッド・スナイダーは、90年代に〈ギャップ〉や〈J.クルー〉、そして〈ラルフ ローレン〉といったブランドで経験を積み、2011年に自身の名を冠したブランドをスタート。アメリカを代表する名だたるブランドとのコラボレーションも数多く実現するなど、まさにアメリカンカジュアルを体現する人物といっても過言ではないでしょう。
そんな彼が〈ウールリッチ〉と手を組むという話を聞いたとき、驚きよりも「おもしろいものができそうだ」という期待を抱きました。
「〈ウールリッチ〉は本当にアイコニックなブランドです。70年代、私はよくこのブランドの服を着ていたし、90年代に〈ラルフ ローレン〉や〈J.クルー〉で仕事をしていたときも、このブランドのファブリックをよく使っていました」
オファーを受けたときの気持ちを聞くと、胸に手を当て「It was great honor(大きな光栄だった)」と答えるトッド。歴史あるブランドだけに当然プレッシャーも大きかったが「〈ウールリッチ〉を未来に繋げたい」と話します。
「例えば、〈ランドローバー〉の『ディフェンダー』というクルマがありますよね。歴史上、実用車として多くのひとに愛されてきましたが、近年アップデートされ、モダンなクルマへと進化を遂げました。実用車としての機能を残しながら、一方ではラグジュアリーでもある。そこに私はヒントを見出しました」
そうした言葉の通り、実際に〈ウールリッチ ブラック レーベル〉の服に触ると、モダンなアプローチを取っていることに気づかされます。例えば、象徴的なバッファローチェックはテクニカルなナイロン地の上にプリントされ、リフレクター素材を織り込んだウールのCPOジャケットは光を当てると全体が反射するようにデザインされているのです。
「ヘリテージ、モダン、ラグジュアリー、テクノロジー、ストリート。これら5つのエッセンスを軸に、私は〈ウールリッチ ブラック レーベル〉を手掛けています。生地の多くはエクスクルーシブ。イタリア、日本、アメリカの最高峰の工場でつくられています。古くからあるブランドだから “ヘリテージ” の部分ばかりにフォーカスされがちですが、重要なのは継続することや、その先の未来です。つまり、現在進行形のブランドであることを証明しなければならない。そのために私がこれまで培ってきた知識や経験をフル活用して、世界最高峰のファブリックブランドや工場と一緒に服づくりをしているんです」
彼のこだわりが感じられるのは服だけではありません。ショッパーもそう。「ここにすべてが現れている」と自身も誇らしげに語ります。
「今回のために新しいロゴをつくりました。ペンシルバニア州にある本社の外壁に掲げられていた “WOOLRICH” のロゴをモダナイズしました。オーセンティックであり、力強くあってほしいという願いを込めて。そしてこのブランドの拠点があるMILANO、TOKYO、NEW YORKの3つの都市名を加えています。これは〈ウールリッチ〉がグローバルなブランドであることを示しています。リサイクル素材を使ったショッパーは日常でも持てると思います」
その内側にはアメリカの山脈を表すトポグラフィーが描かれ、“LET NATURE BE YOUR MUSE(自然から多くのインスピレーションを)” というメッセージが添えられます。そうしたところにもアウトドアブランドである〈ウールリッチ〉に対するリスペクトを感じます。
「私がはじめて日本に来たのは30年近くも前のことです。それ以来、定期的に足を運んでいますが、日本人はディテールに対するこだわりが強い。そして、デザインと品質にリスペクトがある。そうした方々に〈ウールリッチ ブラック レーベル〉の服を楽しんでもらえることを願います」
〈ウールリッチ ブラック レーベル〉は始動したばかり。今後、どういった動きをするのか気になるところ。
「継続と進化。これが重要だと思っています。〈ウールリッチ〉はアウトドアのブランド。それをいかにライフスタイルを通して語れるかが鍵となります。私はデザイナーであり、ストーリーテラーでもある。このレーベルの服には、物語を込めています。それをみなさんに届けていきたい。次の春夏シーズンも期待してください。〈ウールリッチ〉は冬に強いブランドだと思われていますが、春にはさらにアクティブなコレクションを用意していますので」
ウールリッチ ブラック レーベルを象徴する4つのアイテム。
〈ウールリッチ ブラック レーベル〉は、トッド・スナイダーの言葉にもあるように、5つのエレメントによって構成されています。ヘリテージ、モダン、ラグジュアリー、テクノロジー、ストリート。これらの要素が絶妙なバランスで絡み合い、クリエーションが成立しているのです。ここからは、そんなコレクションの一部をデザイナーの言葉で紹介します。
「このシャツは〈ウールリッチ〉の定番の形です。通常であればウールで仕立てられますが、これはカシミア100%。とても肌触りがよく、高級感があります。山で着るのはもちろん、都会でも重宝する一枚です」
「〈ウールリッチ〉を代表するハンティングジャケットは上質なウールの生地でつくりました。イタリア製で、仕立てにこだわったところも特徴です」
「フリースジャケットに刺繍したのは〈ウールリッチ〉誕生の地でもあるペンシルバニアの州花、カルミアです。こうしたストーリーを服に盛り込むことも大切にしています」
「アークティックパーカをモチーフにしたロングダウンも代表作のひとつ。名だたるブランドの生地も手掛けるイタリアの『オルメテックス』社のファブリックを採用し、そこに白樺の森からインスピレーションを得た柄をプリントしています。オーバーサイズでロングシルエットにした、〈ウールリッチ ブラック レーベル〉を象徴する一着です」
PROFILE
2011年に自身の名を冠したブランドを設立し、〈エル・エル・ビーン〉〈チャンピオン〉〈コンバース〉〈タイメックス〉〈ニューバランス〉といったブランドとコラボレーションを行う。24年、米国の『WWD』が選ぶMenswear Designer of the Yearを受賞した。
Instagram:@toddsnyderny