2022年、2023年に伊勢丹新宿店で開催され、大きな話題を集めた〈マルニ木工〉のポップアップイベント「RE-INNOVATION」が今年も行われます。手がけるのは家具愛好家として知られる〈ノンネイティブ(nonnative)〉のデザイナー・藤井隆行さん。今回で三度目の登板となります。ファッションブランドと数々の名コラボを仕掛けてきた藤井さんに聞く、家具のことやファッションとの違い、そしてその思いについて。
Photo_Masayuki Nakaya
Text_Shinri Kobayashi
Edit_Ryo Komuta
PROFILE
1976年生まれ。奈良県出身。コンテンポラリーなフォルムに、機能素材を絶妙なバランスで取り入れ、幅広い世代に長年支持される東京を代表するメンズブランド〈ノンネイティブ〉のデザイナー。コラボレーションの名手として名高く、その手腕は家具にも遺憾無く発揮されている。
なんでも置ける入れ物。
ー昨年、一昨年から続く「RE-INNOVATION」シリーズの第三弾とのことですが、これまでとの違いはなんでしょうか?
藤井:これまでは、オールドマルニ(※〈マルニ木工〉が1950年代初頭から1970年代半ばまで製造していた家具の愛称)の家具を工場で再生して、それを販売するというスタイルでした。今回は一からつくったということが大きな変化ですね。1963年に発売されたオールドマルニのマガジンラックを、当時の設計図から復刻しました。4色展開になります。
ーカラバリが豊富なのはうれしい悩みですが、どうして4色展開なんですか?
藤井:各家庭で当然、床の色は違いますよね。このマガジンラックは視線的に見下ろすことが多く、床とマッチするかがとても重要になるので、床に合わせて色を選べるようにしました。
ーもともと藤井さんは、ご自宅でこのマガジンラックを愛用されているんですよね。
藤井:2010年くらいにオークションサイトで見かけて、どこのものかはわからずに、直感的にデザインがいいなと思い落札しました。〈マルニ木工〉のことは知っていましたが、オールドマルニというジャンルは聞いたことがなく、そもそもそれが〈マルニ木工〉の家具とはわからないままに2台購入したんです。というのも、うちにあるピエール・ジャンヌレやシャルロット・ペリアンの家具などにすごく合うと思ったので。オールドマルニはそれらとほぼ同世代だから、おそらくさまざまな情報が日本に入ってきていて、影響を受けたんじゃないかと思います。
ーご自宅では、どんな使い方をしていますか?
藤井:掴んで持ち運ぶこともあります。うちでは一台はスリッパを入れて、もう一台はベッドサイドに置いて、わりと一切合切を入れてます。子供のおもちゃやノートPC、配線一式など、なんでも入れられます。受け皿が分離できるので、野菜を置いてもいい。雑誌以外にも使えるので、マガジンラックという名前は変えてもいいと思います(笑)。
ー多用途なのはいいですね。
藤井:野菜などを入れて、レストランのテーブルの上に置いてもいいし、ホテルやレストランで気の利いた荷物入れに使ってもらうのもいいなと。
アップデートされた価格、木目、刻印。
ー当時のオリジナルの家具がこちらにありますが、今回の製品との違いについて教えてください。
藤井:今回のマガジンラックは、東南アジアのチーク材と籐になります。
藤井:実は、コストを含めていまの日本でこれをつくるのはかなり難しいので、あえて中国でつくり、最後の仕上げだけ日本にある〈マルニ木工〉のグループ会社で、修理専門会社〈マルニファニシング(MARNI FURNISHING)〉のリペア工場で行っています。この最終工程を日本でやれば日本製と謳えるんですが、素材も東南アジアのものを使用していますし、ベースは中国でつくっているということで、そうはしませんでした。
ーアパレルもそうですが、中国の技術躍進には目を見張りますね。去年、一昨年と並んだマガジンラックはすべて一点物で数も限られていたわけですよね。
藤井:そうですね。だからどうしても価格が高くなってしまったので、今回は購入しやすい価格にしたいと思いました。気軽に使ってほしい家具、くらいのイメージですかね。長く使えることを考えたら全然高くない価格帯になっているはずです。
ー木目の感じも雰囲気が違いますね。
藤井:昔の家具の塗装は、いまと違って、もっと木目を消すくらいベタッとしていました。あとは木目自体が弱かったので、今回はもっと強い木目に変えました。家具屋さんからすると、強い個性的な木目は切り落とすのが常らしいのですが、今回の場合はちょっと信じられない、みたいな感じだったようです。
ーこの木は、どう経年変化していくんですか?
藤井:どれくらい日が当たる場所で使うかにもよりますが、濃い色のモデルはもうちょっと薄くなっていきます。今後塗り直したいと思えば、〈マルニ木工〉のサービスを利用すればいいし、全く違う色にカスタマイズすることもできます。そういうサービスがあるということが、あまり知られていないので、もっと広めたいですね。スニーカーも自分で色を決められるサービスがありますが、そんな感覚でいいと思います。
ーこの「544」という刻印は?
藤井:今回は、昭和45年(1970年)の設計図を元につくっているんですが、そのモデル番号が544番なんです。〈マルニ木工〉の当時の製品には基本的にはモデル名はなく、つくった順番通りの番号で管理しているんです。去年までに僕が作ったマガジンラックには、1960年代のモデルにあったオールドマルニの孔雀のマークが入っていましたが、今回は「544」を採用しました。イメージとしては、〈ポルシェ〉の911です。あの車と同じように、変わらず長く使ってほしいという願いがあります。
製品以外のことが製品に出てくる。
ー今回も広島にある〈マルニ木工〉の本社工場を訪れたんですか?
藤井:はい。最初に行ったときもそう感じましたが、すごく整理整頓されているという印象を受けました。広島で100年近く続いている会社ですが、設計図もちゃんと残してあってきちんとされているなと。そういうことは家具にもはっきりと表れていると思います。
ー製品に出るものですか?
藤井:出ますね。デニム屋の工場が汚いと、縫製が荒いとか、確実に製品に表れます。
ー藤井さんはシェフの鳥羽周作さんと交流があると思うんですが、藤井さんにお店のユニフォームをつくってもらった際に鳥羽さんが仰っていたのは、藤井さんは服だけじゃなくて、周辺のものも含めてすごく細かく見ていらっしゃると。
藤井:そうですね。例えば、道具が有名なのか高いものかどうかということは関係なくて、手入れが行き届いているかどうかを見ます。以前、鳥羽くんのキッチンで目にしたフライパンは、よく手入れされていてかっこいいんだけど、本人はどこのメーカーのものかわからないくらいでした。だからあれだけおいしいんだなと思いました。
ー今回の復刻で、難しいポイントはどこでしたか?
藤井:やっぱりどんなにがんばっても、当時の雰囲気は出ません。それはどんな家具でもそうだと思います。ですが、家具そのものとしては進化していて、性能はこちらの方が上だという自信はあります。たとえばこの足の部分は、組み継ぎという凹凸を作り、接合していて強度が高いし、きれいな仕上がりとなっています。中国側が勝手に仕様書から変えてきたんですけど(笑)、こっちの方がいいねとなりました。
ー今回も〈ノンネイティブ〉の藤井さんではなく、藤井さん単独名義の監修になるんですね。
藤井:〈ノンネイティブ〉とコラボレーションするとなれば、〈ノンネイティブ〉のカラーを出さなきゃいけないのですが、今回はプロダクトをデザインしたわけでもないので。家具のジャンルはファッションとは異なる、別ページのイメージです。もちろん〈ノンネイティブ〉を買ってくださるお客さんにも家具に興味を持ってほしいですけどね。
ー藤井さんは、〈アンダーカバー(UNDERCOVER)〉の高橋盾さんと〈OZISM〉を始められて、いわゆる現代視点からの和のデザインを手がけています。家具も和モノがお好きなんですか?
藤井:僕は、シャルロット・ペリアンのデザインが好きなんですが、いろいろと調べると、ペリアンは日本から影響を受けていて、民藝をモダンにアップデートしているものがあったりと、すごく面白いんです。また、前川國男さんなどがその時代にフランスと日本を行き来したりしていて、そのなかからいろいろな家具が生まれてきた。そういう話を、このマガジンラックを見たときに想像したりしました。
コロナ前まではみんながみんな海外志向でしたよね。でもコロナを機に、改めて日本を見つめなおすと、日本のすごさがわかったんです。あと僕は奈良出身なのですが、お寺周りのつくりもすごいなと、改めてその奥深さを感じました。
ー今回のイベントに期待することはありますか?
藤井:普段はファッションが好きだけど、実は家具に興味があるというような若い方も含めて、多くのひとにとって家具の世界の入口になればいいなと思います。あとは〈マルニ木工〉の社員の方たちにちゃんと伝わるかどうか。だから〈マルニ木工〉のホームページにも掲載してもらいたいですね。 自社のことを知らないというパターンは、世の中に結構ありますが、〈マルニ木工〉はこれまでちゃんとやってきたというその実績を、社員の方々にも見てほしい。
〈マルニ木工〉には特定のデザイナーがいないので、こうやって復刻されること自体がそもそもないんです。でも「HIROSHIMA」は「アップル」の本社内で使われていたり、深澤直人やジャスパー・モリソン、セシリエ・マンツとも組んでいて、新しいデザインも輩出している。でも残念ながら過去はあまり知られてない。そういったことも今回のイベントを通じて、多くのひとに触れてもらえたらと思っています。
ー今回は、伊勢丹新宿店の5Fで開催されます。
藤井:百貨店の家具フロアを訪れるひとはまだまだ限られていると思うんですが、(隣のポップアップブースを指して)このフロアは面白いものがたくさんあるので、ぜひ足を運んでもらえたらと思います。
〈マルニ木工〉RE-INNOVATION Vol.3 No.544 Magazine rack supervised by Takayuki Fujii
会期:2024年10月16日(水)〜10月22日(火)
会場:伊勢丹新宿店本館5階 センターパーク/ザ・ステージ#5
特設ページ
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