昨年の12月に発表されたカプセルコレクション「OZISM」。〈アンダーカバー(UNDERCOVER)の高橋盾と〈ノンネイティブ(nonnative)〉の藤井隆行、二人の日常的で密な交流から生まれた静謐なプロジェクトです。
当初から「OZISM」は継続的なアイデアであると明言していましたが、この度第二弾となる新作が発売になります。というわけで、今回も高橋盾と藤井隆行によるスモールトーク(世間話、雑談)をお届けいたします。パリ、葉山、ファッション、葉山、そんな感じとなりました。
OZISM、海を渡る。
ー前回の取材では、お二人の暮らしぶりというか、日常的なお話を含めた雑談を記事にさせていただきました。
ー今回もそんな感じでいけたらと思います。まず昨年に「OZISM」を発売したときの反響、リアクションはいかがでしたか?
藤井:作務衣とかちゃんと受け入れてもらえるかな、と少し不安もあったんですけど、結果いい反応をいただけてよかったです。
ーそのあと〈アンダーカバー〉のウィメンズのパリ展示会に持っていったんですよね?
高橋:そうですね。それが今年の3月です。
ーこのコレクションを海外の方が見て、どんなリアクションだったのかが気になります。
高橋:藤井も言ってましたけど、やっぱりこういう感じのコレクションなので、日本人でもそうですけど、好き嫌いがありますよね。万人受けはしないというか。それでも日本のこうした文化に興味ある人もたくさんいて、それは良かったんじゃないかなと思います。
藤井:僕らにとってはすごく新しい試みだったし、もちろん〈アンダーカバー〉にとってもそうだったと思います。なので〈アンダーカバー〉を見に来ている方達にとっては少し異質なものに映ったかもしれないですね。
ー「OZISM」=小津イズムなわけで、小津となると、やはり世界中で認知されているという感じなんでしょうか?
高橋:どうですかね。でもやっぱり映画好きの人じゃないとわからないのかもしれないですね。
ー初の海外発表となった、2023年の3月のパリウィメンズファッションウィークですが、藤井さんも現地に行かれたんですよね。
藤井:はい。ウィメンズのファッションウィークの感じが、自分にとっては心地いいんですよね。せかせかしてないというか。
高橋:いま、メンズのファッションウィークはちょっとお祭りみたいになってるよね。
藤井:僕はメンズの方は行ったことないんですけど、インスタ見てるとそんな感じがしますね。
高橋:ストリートセレブ祭りというかさ。やっぱり来てる人たちも、本来モードの人ではないわけで。ウィメンズはそういう意味では、そんなに変わってなくて、モードのファッションがいつも通りに発表されて、それを見に来る人たちがいてっていう感じ。あんまり浮かれてはない。
ーたしかにメンズのファッションウィークのときは街全体が浮かれてる感じかもしれません。
高橋:みんな自分をアピールしにいくというか。
藤井:ファッション対決みたいな。
高橋:そうそう。それがやっぱりずっと違和感はあるよね。たまにメンズのときに行くと、そういう雰囲気を感じる。
ーいろいろなひとが集まるということで、いい側面もあるとは思うんですけどね。
高橋:盛り上がってる、ということなのかもしれないですね。
藤井:パリ、昔はちょっと苦手な感じでしたね。
高橋:あ、そうなんだ。
藤井:なんだろう。なんか緊張感があったのかもしれないです。いまは仕事で行けるようになったんですけど、そうなるとだいぶ気持ちは違うかもしれないです。
高橋:確かに。仕事で行くのとそうじゃないのって違うよね。
ー藤井さんは以前、さまざまな国に行ってそれをコレクションのテーマに据えたりしていましたが、ジョニオ(高橋盾)さんは創作のインスピレーションを得るためにどこかに行く、みたいなことをしますか?
高橋:ほとんどないですね。やっぱり年に最低2回は海外に行くので、さらにとなると、どうも。。元々出不精といえば出不精なので、なるべくあんまり外に行きたくないんです。
藤井:笑
高橋:とはいえ、いろいろなところには行ってるんですけどね、なるべくなら行きたくない(笑)。というか、そもそも行くタイミングがあんまり見つからないんです。
ーまとまった時間って、いつ取ればいいんだろうみたいな。
高橋:そう、なかなか取れないですよね。だから例えばタイに行きたいとかあるんですけど、9月のウィメンズが終わったら、次はすぐにメンズが始まるから行けないな、、って。
ータイはどんなお話の流れのなかで出たんですか?
高橋:友達がホテルをやってるので、そこにみんなで行こうかっていう話なんです。旅はすごく疲れるので、頻繁には行けないですけど、良きタイミングで、良き内容であれば、っていう感じですかね。やっぱり行ったら行ったで、たくさんインスピレーションを受けはするので。
藤井:ショーとかもですか?
高橋:ショーの場合は、そのタームがこの20年ぐらいの間で刷り込まれてるから、身体がちゃんと対応できるんだよね。時差とかも含めて。
藤井:あーなるほど。ちなみにコロナ前はメンズのショーをしていて、今はウィメンズじゃないですか。どっちがしっくり来るとかあるんですか?
高橋:季節的なことでいえば、6月のメンズは気持ちいいよね。まぁ自分にとってはどっちでショーをやりたいのかっていうことでしかないので、メンズをやりたいなと思ってあのとき(2019 SPRING-SUMMER「THE NEW WARRIORS」〜2020 AUTUMN-WINTER「FALLEN MAN」)はやっていたわけで、両方はできないからそのときはウィメンズを休んでたってことだよね。
茶色、ブラウンの可能性。
ー今回発売になる新作は新型もありつつ秋冬なので、ナイロン素材のアウターが増えたりという感じなんですね。
藤井:そうですね。あとは継続ものの形を微調整したりとかですね。
ー新色でブラウンがあるのが印象的です。
藤井:なんか最近、世の中的に茶色がキテる気がするんですよね。
高橋:そうなの? けど茶色って意外と着やすいよね。ネイビー的な感覚で着れるというか。
ー普段も結構着るんですか?
高橋:わりと着ますね。あとはベージュとかカーキとか。でも、全然いろんな服を着てないですね。ずっと同じ格好で、季節で変わるだけ(笑)。
藤井:たしかに。ハマるとずっと同じというか、探して買うっていうタイプじゃないですよね。こないだは京都のお店で色々買ってましたけど。
高橋:そうだね。この形のこの色とこの色って決めてそれを買ったら、その季節はもうそればっかり。自分はデザイナーではあるんだけど、ファッションマニアじゃないからね。
ーそういう意味ではこの「OZISM」のコレクションって、いつでもどこでも着られるようなものが多いですよね。
高橋:そうですね。冬はこればっかり着てました。
ー絵を描かれるときなんかにも、着れるかもしれませんね。
高橋:そうなんですけど、まだできてなくて。というのも、絵を描くときは服はもうえらいことになっちゃうので。
ーそうですよね。
高橋:ただ、それはそれでかっこいいかもしれないですね。そのままご飯食べに行っちゃう感じの。要は作業着ですよね。
藤井:汚れてもかすれてもかっこいいっていう。茶色でいうと、小津の映画で誰かが茶色いスーツを着てたんですよね。誰だったかな。。『小早川家の秋』だったような。。
高橋:えー、誰だろ。笠智衆とか着てそうだけどね。
必見、必読のZINE。
ー今回、「OZISM」の2023AWコレクションを作るにあたって、ZINEも制作されたそうですが、出演者がとんでもないですね。
藤井:ジョニオさんから出したいっていう話が上がって作ったものなんですけど、そう、ありえない人が出てますね(笑)。
高橋:基本的には海外の自分の友達に出てもらいました。アイテムを送ってそれを着て写真を撮ってもらうっていう。またみんな作務衣が似合うんですよね。
藤井:違和感ないですよね。
ーそれにしても、ショーン・ステューシーやらなんやら。。すごい。
高橋:写真を撮ってもらって、なおかついくつか質問もしてます。「今まで生きてて1番大変だったことは? そしてそれにどう対処しましたか?」とか「普段我慢していることは?」とか。
ー「普段我慢していることは?」ってすごくいい質問ですね。この一答だけで、いろいろなものが見えてきそうです。
高橋:この人はどう生きてきたのか?っていうのが見える質問ですよね。みんなおじさんだから人生経験豊富。いろんなことを乗り越えてきてるし、そういう姿がなんかかっこいいなって。
藤井:そういう人は本当に似合いますよね。こんなにハマることってなかなかないですよ。
ー出演者は、お二人以外は海外の方となっていますが、この人選は迷われたんですか?
高橋:わりとすんなりでしたね。それなりに面白いことをやってきたひとで、年齢とかを考えていくとそこまで迷うこともなく。最初は日本人の方の候補もいたんですけど、、
藤井:逆に難しかったですよね。結局海外の方だけにしようということでまとまりました。
ーこれは「OZISM」を購入された方に差し上げるものなんですか?
藤井:そうですね。
ー楽しみですね。ぜひこのZINEをみなさんにも見ていただきたいです。ちなみに次の2024SSの「OZISM」はどんな感じなんですか?
藤井:かなり型数も増えます。あと素材は和紙を使ってますね。
ーなるほど。前回の取材でも和紙の話は出てきましたよね。
高橋:この「OZISM」は地道に続けていって、 ちょっとアップデートしていけたらという感じです。むしろアップデートしないものもあってもいいですし。
ーそうですよね。最初に作ったものがずっとあるっていうことも素敵ですよね。
高橋:使って着てみて気づいたって改良していくとか、そういうことですね。
東京と葉山と。
ージョニオさん、最近は東京と葉山はどういう頻度で行ったり来たりしているんですか?
高橋:大体、月〜火は葉山で仕事をする感じが多いですね。たまに日曜から行ったり。葉山の家 は、今年ぐらいから建て始められたらなっていう感じですね。
ー新たな拠点を作られるというお話はしてましたよね。
高橋:それができたら、もっと行く頻度は増えるだろうし、ゆくゆくは完全に引っ越してって考えてます。前にも言ったと思うんですけど、もう東京最高だなって思わないんですよね。秋谷とか葉山にいると、海に行ってぼーっとしてるだけでも癒されるし、最高なんです。
藤井:本当そうですよね。葉山にいると追われてる感じはないですよね。
高橋:そうそう。まず車のスピードが遅い。向こうにいるとちょっと力が抜ける感じになるよね。何にもない場所なんだけどね。全然飽きない。
藤井:ですよね。僕もいつも同じ道をランニングしてますし。
高橋:全然いいよね。あとさ、この間森山神社のお祭りがあったじゃない。あれ素晴らしいね。ちょっと濃い感じで。コミュニティとか伝統的なもの、それが何かはわかんないんだけど、場所の雰囲気含めて、田舎の本当にいいお祭りみたいな。
藤井:今年の夏は結構いろいろ行きましたよね。盆踊りとか。
高橋:そうだね。逗子の花火大会と、あと森戸と一色の花火大会も見たよね。森山神社のお祭りでも法被とかを着てる町内会の若い子とかいたじゃない。あれとかかっこよかったよね。背中に“一色”って入っててさ。そういうのに入り込む余地はないのかな。
藤井:作ってくれるひとは常に探してるから、いざ参加しちゃえばできるんじゃないですか。
ー町内会のコミュニティみたいなものは、関わり方が難しいですよね。子供がお神輿担ぐなら、いろいろなところに顔を出さないと、とかありますよね。
高橋:自分は群馬で育って、小さい頃は町内会のお祭りがあってお神輿担いだりもしていて、地域性みたいなものはやっぱり過去に見てきたものなので、この間の森山神社のお祭りはいわゆる田舎の祭りの風景だったから、血が騒ぐ感じがありましたね、改めていい場所だなって。
藤井:子供が多いですよね。
高橋:そうそう。子供がもう田舎の子供だもん。最近はただ週に二日行ってるだけじゃなくて、いろいろなところに目がいくよね。その土地に根付いている土着的なことが気になったり。そこに腰を据えていくっていう前提で色々見てるよね。それが面白くて。見え方が全然変わるから。
ー葉山の話をしていると、お二人が楽しそうでいいなって思います。そういう土地で育まれたコミュニケーションが生み出したのがこの「OZISM」ですもんね。
高橋:そうですね。夏はこれ着て夕方5時ぐらいに海の家に行って、ビールとかハイボールを2杯ぐらい飲んで、歩いて家に帰って寝るみたいな。そういうことがしたいんですよね。
ーいいですね、そういう暮らし。
高橋:絵描いてペンキがついたまま近所の飯屋に行って、帰りにちょっと5分ぐらい海を見て帰るみたいな。そういう服としてずっと歳をとっても着てたいんですよね。最終的に上下セットで5000円ぐらいになっちゃってもいいんです(笑)。
藤井:どこかのユニフォームメーカーにお願いするのもいいかもですね(笑)。
高橋:葉山町の人たち、おじいさんたちがみんな着る服みたいな。そういう感じのものが作れたら、すごくかっこいいんじゃないかな。そこに今までの甚兵衛とか作務衣とは違う要素がしっかり入ってるっていうものになればいいなって。それが町内でしっかり活用されるようになれば、これで全国行けるからね。
ー新しいビジネスの形になるかもしれないですね。
藤井:「OZISM祭り」みたいな。
高橋:どうしてもユニフォームとかワークウェアって、なかなか日本で発達していかないっていうか。
藤井:決まってますよね。
高橋:小野塚(秋良 ※zucca創業者)さんは白衣をやられてるじゃない。やっぱり俺のなかでは小野塚さんがパイオニアなんだよね。
ー〈HAKUI〉ですね。
高橋:その後を受けてじゃないけど、藤井がジャパニーズワークウェアとか、ジャパニーズモダンみたいなのを新しい形でやるのはいいんじゃない。自分はというと、まさかこういう葉山みたいなエリアにどっぷり入っていくとは思ってなかったんだけど、いまはそういう場所にいることでだいぶ意識も変わってきたから、本気で地域性のあるジャパニーズワークウェアになったらいいなって思ってる。それがこの企画の最終的な形なのかなって、勝手に想像してるんだよね。
高橋:だってこれ絶対、あの辺うろうろしてるおじいさんとか似合うよ。
藤井:葉山とか〈パタゴニア〉着てるおじいさんとか結構いるじゃないですか。その延長線で、なにかやるとか。
高橋:そうだね。日本のテイストが入ってるっていうのは、あの辺の雰囲気にめちゃくちゃ合うよね。次はそういうことをやってもいいかもね。地元の人、町内会の会長さんとか地元のかっこいい人、面白い人に着てもらうとかさ。
ーそういう巻き込み方は面白いですね。
藤井:まずは軽くTシャツみたいなものから、作ってみるとか。
高橋:本当は作務衣を着てくれる人を見つけるのが1番なんだけどね。
藤井:あとはもう少し安く作る方法を考えたいですね。もっと普通に手に取れるぐらいというか。
ー地域に根差す、コミュニティとともにある服というのは本当に素敵だと思います。実現するにはなかなか時間もかかるかもしれませんが、個人的にも楽しみにしています。
Photo_Akio Yamakawa