コットンをメリヤス編みにしたスエットは「ミシガン大学」のコーチがトレーニングウェアとして仕入れたのを機に市民権を得た。いまからちょうど100年前のことだ。アメカジの仕上げに欠かせないそのウェアは当時、杢グレーしかなかったという。
全面に現れた繊細な杢グレーはそんな時代のスエットを彷彿とさせるが、手触りはどこまでもしなやか。オーバーサイズのシルエット、袖ぐりを大きくとったドロップアームホール、リブ編みのクルーネック、袖口、ヘムと相まって、着心地は至福のひと言だ。
そこにエレガンスを加味するのは、胸元に刺繍した “Christian Dior Couture” の文字。白糸で小さくあしらったそれは、杢に紛れてしまいそうだ。ラグジュアリーとストリートを融合し、新たなスタイルを創造したキム・ジョーンズらしいさりげなさである。
〈ディオール(DIOR)〉のクリエイティブ ディレクターとして6年走り続けてきたキムは、これまでを総括するように伝統を破壊し、再構築することでタイムレスなスタイルの確立を目論んでいる。言葉にすれば陳腐に感じるかも知れないが、そのスエットを手にとれば膝を打つに違いない。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa