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COLUMN

旅とか僕とか、相棒のこと

文・写真:尾崎雄飛

自他共に認める生粋の服好きとして業界内外で名を馳せる、デザイナーの尾崎雄飛さん。最近ではそこに“旅人”としての称号も追加されたとか。聞くところによると、尾崎さんは旅に出るとモノを買いまくることが多いそうです。旅、服、買い物、この三点が尾崎雄飛という人物を形成しているのです。本コラムではそんな尾崎さんの旅っぷり、買いっぷりをご自身にのんびりと振り返っていただきます。

第一回 アメリカ合衆国 マサチューセッツ州ブリムフィールド

言われてみれば、たしかに僕はよく旅をしている。

年に数回の海外渡航と、月に何度か国内の旅をするので、周りの人々は僕に、いつもどこかに行っているイメージを持っているらしい。

旅に出ることを人に告げると、「今回の旅は何しに行かれるんですか」とよく聞かれる。

何しに、か。

と、僕はいつも言葉に詰まってしまう。

デザイナーという僕の職業柄に似合いの目的地や業務がある場合もあるけれど、そうでないことのほうが多々あるから、説明が難しいのだ。

二拍ほど間をあけて、実は何かしら秘密の目的やら業務やらがあるような感じの雰囲気を満々にして、「いろいろですね~」と答える。

その答えを受けた人はたいてい、「なんやそれ…あっ(察し)」と矛を収めてくれるが、きっと少し気になっていることだろう。

答えを言葉で伝えると長い話になるので、飲みに行きましょう、とでも言えばよいのだけれど、相手の人にもそんな時間はないだろう。

というわけで、僕が本当は何しに旅に出るのか、何をしているのか、それをここに書きしたため、相手の人にはサッとQRコードかなんかを渡せるようにしようというのがこのコラムの趣旨だ。

そして、このコラムのいちばん重要な登場人物は、デザイナーらしく、ちゃんとファッションであり、服であり、身につける道具たちだ。

旅の話なので、愛を込めてここではいつも彼らを「相棒」と呼ぶことにしよう。

7月9日、真夏のニューヨークからレンタカーに乗って、僕は北へと向かっていた。

車は大型のシボレー。今回はふたりの連れ合いとその荷物も乗るので、一番大きな車を選んだ。

大きい車は衝突時の安全性もあるし、なによりアメリカらしい。僕の旅はそういった“気分”を重視している。

行き先はマサチューセッツ州ブリムフィールド。

全米最大級のアンティークフェアが年3回開催される町で、僕は毎年行っている。

当然のように左ハンドル。アメリカでは〈シボレー〉は定番中の定番。

マンハッタンを遠く背にし、右手にまぶしく輝くマナセット湾には白いボート群が停泊するのが見える。

「さすが、グレート・ギャッツビーの世界だな…」などと呟くのがいつものドライブの序章だ。

このあたりの海沿いはロブスターが名物なので、まずはお気に入りの店に寄ってロブスターロールを食べるのも恒例。

ロブスターロールって日本ではあんまり普及してないような気がします。

ここで、みやげ物のTシャツとキャップを購入。

アメリカの飲食店はよくTシャツとかのグッズを作って売っていて、これがなんとも言えずダサかわいい。

ダサいはかわいい、そういうことなんです。

約3時間のドライブの休憩には、地図検索して見つけたスリフトストア(リサイクル店)に適当に入って「栗○さんごっこ」をするのだが、僕らの中にゴッドハンドの持ち主はおらず、改めてゴッドを尊敬するのだった。

戦果は……

〈ヒルディッチ&キー〉のシャツ($9.99)

〈ターンブル&アッサー〉のシャツ($9.99)

70年代〈ラングラー〉のジーンズ($19.99)

謎のインディアン・ドール数体(各$5)

どれも状態はそれほど良くない…トホホである。

インディアンドールの視線の先には何があるのか。

念の為、尾崎さんは左の方です。

その朝、飛行機から降りたままの僕の相棒は、〈アクロニウム〉のトップスに〈ナイキ〉のランニング用パンツ。

どちらも伸縮性があって機内や長時間ドライブに適しつつ、街着としても着られるシンプルなデザインが気に入っている。

キャッキャウフフと寄り道しつつ、ゆったりドライブを続けると、風景は波止場から森林と草原に変わっていく。 

霧の中、静かな緑水を湛える池が点在するコネチカット州を抜けるとマサチューセッツ州。

夕方には今晩の宿へとたどり着いた。

明朝は早起きのため、枕投げはせず、ビール1杯(メガ)だけ飲んで就寝。

控えめに言っても顔二個分はあるのでは。

なにげない風景でも日本にはない風情があります。

翌朝早く、僕の大好きな、アメリカ独特の美味くも不味くもないコーヒーをたっぷり飲みつつ、宿から車で15分の隣町ブリムフィールドへ。

夏の東海岸、なんとも気持ち良さそうな朝です。

ブリムフィールドの町の入口には綺麗な教会があって、その前庭に駐車することができる。

より安い駐車場は近隣にいくらでもあるが、これも気分が大事である。

老若男女が訪れる一大イベント。日本人はあまりいないそうです。

この巨大なアンティークフェアには、本当に様々なモノが並ぶ。

当たり前だが、そこには値段のついたモノが並んでいて、誰かに買われていくのだけど、それはその値段がそのモノの価値と等価として認められたということであり、

いつまでも売れないモノは、価値が低いということで値段が下げられ、それでも引き取り手のつかないモノは無価値として、いつかは売り主からも捨てられるのだろう。

コカコーラの木箱、これだけで様になるのはなぜでしょう。

玉石混合なのは、どのアンティークフェアも一緒。

色々なサインを見ているだけで楽しい。フォントの奥深さ。

市場の原理原則として、当たり前のことだけど、この原始的な市場は、価値に対してシビアで、難しいことがなく、わかり易い。

はたして、日本でビジネスをするときに「価値」について、これほど純粋に考えたことはあっただろうか。

僕はいつからか、この場所に「価値の意味や理由のようなもの」を学びに来るようになっていた。

「I ❤️ BRIM」、、意外とアリかも。

誰かにとってゴミみたいなモノも、他の誰かにとってはお宝である。ただし、ニッチなモノには価値は付きづらい。

では、ゴミみたいではないニッチなモノはどうか?

その答えは「一部マニアの間では高値で取引されるモノ」だ。逆に価値が高い。

希少性に価値が発生するという、為替の源泉を眺め、また学ぶ。

この学びは、あらゆる市場に共通しているはずであるが、純粋な価値を求める市場が少ないというのも、現代社会の特徴だな、とかも見えてきたりする。

昔は、より良いモノを、価値の高いモノをと、競い合ってモノづくりに勤しんだということが、昔のモノを見れば分かる。

大量にあるからこそよく見えるモノも。

ウエスタンなブースなんかもあります。

ディスプレイからしてセンス良し。

雑貨好きにとっては、垂涎の眺め。

だがっ、もうそれはそれとして、僕はやっぱり純粋にモノが好きである。

見たことがないモノ、かっこいいモノ、かわいいモノ、笑えるモノ、誰かの人生の支えになったかもしれないモノ…。

どれもこれもが本当に魅力的で、僕にとって価値あるモノばかりだ。

値段交渉なんかもこうしたマーケットでの醍醐味。

こうして今年もブリムフィールド・アンティークフェアでの爆買い行為は続いていく。

尾崎さん曰く「僕らのオアシスこと、レモネード屋さんのおばちゃん特製のハンバーガー。
アメリカでいちばん美味しいと思う」。

買ったモノはどんどん身につけて、ハデ派手にしていくのが僕らのルール。

右手:40~50年代ナバホ族ターコイズ入りブレスレット、指には30~60年代ナバホとズニのリング
左手:30~40年代ナバホ族のシルバーブレスレットとリング、ロレックスのセミバブルバック

今回の新しい相棒たち。もちろん、マーケットプライス=仕入れ値だから、安い安い。

大型車のトランクがギッシリ。おそるべき爆買いぶり。

3日間、歩きまくって、買いまくって、帰りの車の中は荷物でパンパン。シボレーの車高も下がるくらいに。

結局、いくらお金を使ったかもハッキリしない。でも、これでいいのだ。

僕は、アンティークフェアで「価値」について学ぶ。

学んだ価値観を日本で僕のお客さんに伝えるのが使命だと思うし、これが僕のこの旅の「何しに」であり、僕にとっての価値である。

だからとにかく、来年もまたここに戻ってくるのだ。

モノと価値のある限り。

大好きなシェーカーボックスを手に入れてご満悦な尾崎さん。

旅は続く。

PROFILE

尾崎雄飛
サンカッケー・デザイナー

1980年生まれ。某ショップバイヤーを経て〈フィルメランジェ〉を立ち上げる。2012年に〈サンカッケー〉として独立。日本の良いモノを追求しつつ、仕事をしたり旅をしたりの日々。