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COLUMN

旅とか僕とか、相棒のこと。

文・写真:尾崎雄飛

自他共に認める生粋の服好きとして業界内外で名を馳せる、デザイナーの尾崎雄飛さん。最近ではそこに“旅人”としての称号も追加されたとか。聞くところによると、尾崎さんは旅に出るとモノを買いまくることが多いそうです。つまり、旅、服、買い物、この三点が尾崎雄飛という人物を形成しているのです。本コラムではそんな尾崎さんの旅っぷり、買いっぷりをご自身にのんびりと振り返っていただきます。イギリスの旅日記、第二弾です。

第三回 イギリス、グレートブリテン島
一周の旅、DAY 5〜8
DAY 5. London ~ Norwich

真夏だがきりりと冷えた早朝のロンドン。旅のよき相棒〈ベルベスト〉のウール・シルク・リネンの三者混ジャケットとウール・モヘアのトラウザー、〈シャルベ〉のストライプ・シャツに〈リヴェラーノ・リヴェラーノ〉のシルク・ニットタイを結び、旅立ちの準備は万端。車で行く英国行脚の絵として、ジャケットスタイルがふさわしいと思ったのだが、あえて英国以外のブランドでコーディネートした。ひとり旅の気分を盛り上げてくれるのは、相棒たちだけだ。

レンタカーに乗り、まずは一路、西へと車を走らせる。1時間ほど走れば「ケンプトン・パーク・レースコース競馬場」に到着。ここで月に2回、中規模のアンティーク・マーケットが開催されているのだ。

家具や額に入った絵画など、大きめな物の出品が多いが、歩き廻って、可愛らしく持ち帰りやすい雑貨をしっかり入手。

家具など大きめな物が中心。レースコースの芝生が眩しい。

さみしげな目で見つめてくる、役割を終えたテディ・ベア。イギリスは本国なので大量に湧いて出る。

アンティーク・マーケットの品ぞろえは国ごとに表情が変わる。それでも世界中の物が混在しているから面白い。

マーケット会場でよく見かけるサイのマークの『ライノ』は、貨物車のレンタル業者。

まずまずの収穫を積んで、再びロンドンをまたいで東へ。目的地は東海岸の北端に位置するクロマーという街。ロンドンから車で3時間ほどの海辺の街で、翌朝に小さなアンティーク・マーケットが開催される。

競馬場で結構時間を食ってしまったので、夕方までにたどり着けるといいが…などと思っていたら、道路脇にミリタリー・ショップの看板を発見。迷わず行ってみることに。こういうのは「良い道草」と考えるように決めている。

看板の示す先は人気のない倉庫街。車をつけて店内に進むと、広い倉庫のなかに大量のサープラス(放出品)・ウエアがギシッとラックにかかり、壁面にまでびっしりバッグやシューズが並ぶ。圧巻である。しかし、店内にも人気はなく、誰も出てこないので、まあいいか、としばらく勝手に物色していたら、広い店内のはるか向こうの方に初老の男性がいるのを見つけた。彼も僕を見つけると「ハイ、ハワユー」と大きな声で言い、腕時計を指差して、その人差し指を上向きに立ててから、両手でバッテンを作った。「あと1時間で閉店だ」という意味らしい。僕も時計を見ると15時だった。頭上に手で丸を作って応じる。イギリスの田舎は閉店が早い。

雑多なようで実はよく整理された店内。イギリスを中心とした欧米の軍放出品が大量に並ぶ。

日本ではなかなか出てこないアイテムも、本場イギリスではたたき売り状態である。

「アーユー、オーケー?」しびれを切らしたような男性の声で我に返って、時計を見るとすでに1時間半が経っていた。男性に謝りながら大量の買い付け品の会計を済ませ、車に戻って先を急ぐも、クロマーにつく頃には21時を回ってしまいそうである。少し計画を変えて、今夜は手前のノリッジの周辺に宿をとろう。Webで適当にとったホテルはお城を改装した無駄に立派なところだった。

お城を改装したホテルは、イギリスではたまによくある。

DAY 6.
Norwich ~ Cromer ~ Nottingham

目覚めるとそこはお城の一室だった。何だココは、と思うのも束の間、さっそくホテルを出て車は一路、北へ。この辺では有名なノリッジ城をかすめるが、お城はもういいので、サクッと通過。

本来、クロマーから海沿いを通って行くはずだった陶芸家の家へ向かう。グーグルマップで「pottery」と検索したなかから良さそうなところを選んだだけなので、当たりハズレはわからないが、ハズレてもこの旅では「良い道草」だ。いくつかの候補から「サットン・ポッタリー」を選んだのは、近隣にミリタリー・ショップがあることをグーグル先生が教えてくれたから。効率よく旅をするのに、技術革新は強い味方だ。

先生の言うとおりに牧草地帯を抜け、小さな集落にたどり着く。人気はない。

その家を見つけ、駐車場らしきスペースに車を停めていると、向かいに停められたトレーラー・ハウスから、シェル石油のツナギを着た謎の男がニコニコしながら出てきた。

ニコニコした表情を僕に向けているのか、そもそもそういう顔なのかわからない謎の笑い顔の男は、そのままの表情で「おいで」という手振りをして、家のなかに入っていった。僕も後について家に入ると、家がまるまる工房とギャラリーだった。どうやら男はトレーラーで暮らして、家で仕事をしているらしい。合理的でもあるが、少し変わっている。

小さな家=工房と可愛らしい釣り針のようなロゴマーク。

彼の名はマルコム・フラットマン。1977年からここで作陶したり、陶芸教室をしたりしているという。シンプルな造形にユニークな釉薬のかけ方。モダンだけど奇をてらったところのない、日常的でクリーンな作風が僕の好みで、すぐに気に入った。いくつか作品を買わせてもらい、話を聞くと、2020年5月で引退を決めていて、今年末以降は作陶しないとのこと。ニコニコしながら土をこねて見せてくれたマルコムは、とても楽しそうで、赤と黄色のツナギのせいか、たいへん元気そうに見えたが…引退。やはり色々と変わった人であるようだった。

「今日はこんな格好で恥ずかしいよ」とはにかむマルコム氏。いつもこの格好でいてほしい。

イギリス人のかわいらしい感性と男らしさの同居した、でもシンプルな作品たち。

「サットン・ポッタリー」からすぐのところにある小さなミリタリー・ショップでは「先月日本人が来た」と言われ、店内を散策するも、これと言った収穫は無し。〈ビーバー・オブ・ボルトン〉製のイギリス軍キルティングジャケットなど、いくつか安くゲット。気を取り直して、当初の目的地クロマーへ向かう。

「日本人バイヤーは優秀だから、良い物ばかり買っていったよ」と。ラック中央がキルティング・ジャケット。

クロマーは漁業の街で、このあたりの人々が「カニ食べ行こう」と言ってこの街に来るらしく、観光客で賑わっていた。僕もさっそく名物の「クロマー・クラブ」をいただく。サラダとポテトが添えられたカニは臭みがないどころか、むしろフルーティーと言えるほど香りが良く、僕的カニランクのトップに躍り出た。

カニがあまり見えないが、それなりにボリュームもある。イギリスの食生活では意外と生野菜が貴重だ。

あまりにも絵になりそうな、魅力的な長いハッピービーチ。と言うには雲が多すぎた。

旅程が遅れ気味のため、この日はクロマーからイングランドのちょうど真ん中のノッティンガムまで4時間弱のドライブを敢行。無事に着いて就寝。

DAY 7 & 8.
Nottingham ~ Liverpool

ノッティンガムには有名なノッティンガム城がある。これはガチでマジに有名なのだが、その早朝、僕はノッティンガムから北東に40分ほど車を走らせたニューアークに来ていた。空軍基地の跡地「ニュー・アーク・ショーグラウンド」で、大きなアンティーク・マーケットが2日間に渡って行われるのだ。お城どころではない。

開場より早く着いてしまったので、2日間通し券を購入して、入場ゲート前に並んで待つ。開場時間になり、ゲートが開くと、数寄者たちが蜘蛛の子を散らしたようになだれ込んでいく。広大なグラウンドと、4つの体育館大の建物の中にアンティーク・ディーラーのブースがずらりと並ぶ。今回の旅の大一番と言える爆買いの要所である。

曇天模様の空の下、広大な敷地にアンティーク・ディーラーが並ぶ。

どこで手に入れたのか、そして、誰の手に渡るのか……。

イギリスのアンティーク・マーケットはアメリカと違い、ポップで目を引くような物は多くない。ヨーロッパの歴史の長さを思わせる、ものすごく古いアンシエント物や、中国や中近東の物など、重厚感のあるアンティークに対して、しっかりとした価値観が共有されていて、難解だけれど、新しい価値観を幾つも見つけることができるのが楽しい。しかし、日本の市場に対する買い付けという視線で見ると、アメリカと比べて難易度の高いマーケットだと思われる。

たいへん美しいフォークアートの天女。後ろには石像や中国の壺、珍しい貝殻など。

基本的に200年以上前の物しか扱っていないおじさん。ここではメキシコの小さな石像を購入した。

一方で、古着に関してはかなり良い物が安く買える。アメリカ物と比べ、ヨーロッパ古着はまだまだ市場価値が高まっていない印象だ。体積の大きい古着が入ると、トロリーバッグがすぐに満タンになってしまうので、何度も車との間を往復していると、いつしか車のラゲッジスペースまで一杯になってしまった。

古きよき時代のラック。80年前の家庭のクローゼットはこんなだっただろうか。

ステキなディスプレイのブースでも爆買い。今は希少になったスクール・ジャケットもいくつか買えた。

2日間で大量の収穫を得て、2日目の午後は西海岸の大都市リバプールへ向かう。道中、この辺は常に雨が降っているような地域だとは聞いていたが、本当に2時間半、終始前が見えない程の大雨の中の運転を強いられた。遠くにリバプールの街が見えたそのとき、見事に雨が止んで、眩しすぎる夕陽が川辺の街を照らした。

リバプール・マージー川の夕焼け。美しい風景がたびたび、旅の疲れを癒やしてくれる。

夕暮れのロイヤル・リバー・ビルディング。1911年に建てられたアールヌーボー建築で、リバプールの象徴らしい。

“ステキな4人組”の銅像がマージー川に向かって建っている。

リバプールは大好きな「ザ・ビートルズ」の街。早朝からのマーケット歩きと長時間にわたる運転に疲れてはいたが、そこに行かないわけにはいかなかった。ザ・ビートルズの聖地のひとつ、デビュー前からデビュー時期にかけての彼らがライブをしていた「ザ・キャバーン・クラブ」に、である。

幸いホテルから歩いて行けるようだったので、棒になった足を引きずり、散歩がてら聖地を目指す。大通りの裏に、大音量で音楽を鳴らし若者が叫び狂う、ひときわ騒がしい通りが。僕はそれが目指すマシュー通りだとすぐに解った。

「ザ・キャバーン・クラブ」の入り口で強面のボディガードに促され入場料を支払うと、地下に降りる。映像では何度も観て、よく知っているはずの場所なのに、目の前に現れるとまったく違うものに見えた。実を言うと、もはや観光地だと少し舐めていたのだが、予想とぜんぜん違う。壁のレンガや落書きや、音楽の反響が、ビールの味が、生々しく、激しく格好良く思えた。鼓動はずっと高鳴ったままだ。実際のところ、お粗末な物販や、外国から駆けつけたお爺さんお婆さんたちの変なダンスや、チープな演奏の名曲コピーバンドなど、醒めてしまう点はいくらでもあるのだが、噂通りのカビ臭さやベタベタした床や、熱気と湿気は、きっと当時のままなのだろう。その場所まで実際に行くという体験は、尊い。

マジでガチに強面のお兄さんたちにビビりながら入場の仕方を問い合わせるのが一番の難関である。

超絶多忙なバーカウンターでは、バーテンダーたちの一糸乱れぬ仕事ぶりが見ものだ。

お爺さんとお婆さんが舞踊る、名曲コピーバンドの演奏がこちら。

やっぱり今でもカッコいい店なのである。鼻ピアスのお姉さんと、年代物の落書き。

ひとときの1962年トリップを終えた僕は、半ば放心状態のまま、ジョン・レノンが通っていたというパブで、またビールを飲んだ。薄暗い店内でビールを飲んでいると視界が揺らめいて、なんだか眠くなってきた。そうだ、今日僕は疲れているのだった。歩ける距離をタクシーに乗ってホテルへ帰る。鼻歌は「ア・ハード・デイズ・ナイト」。明日は久々に遅く起きてもいい日。長く眠ろう。

旅は続く。

PROFILE

尾崎雄飛
サンカッケー・デザイナー

1980年生まれ。某ショップバイヤーを経て〈フィルメランジェ〉を立ち上げる。2012年に〈サンカッケー〉として独立。日本の良いモノを追求しつつ、仕事をしたり旅をしたりの日々。

INFORMATION

スコットランド生まれのものは、あれもこれもカラフルだけれど、地味である。

タータンチェックもツイードの柄も、お菓子やお酒のラベルなんかも。なぜでしょう。山越え谷越え旅をして気がついた。スコットランド生まれのものは、生まれた土地の風景の色がつけられているということ。それに、人々がみんな穏やかでやさしくて、素朴なものを好んでいるのだということ。だからだね。

秋深まる霜月、アトリエ・サンカッケーでは『スコットランド生まれのあれこれ展』を開催します。

〈SUN/kakke〉新作のハリス・ツイードアイテムと、スコットランド・ブランドに別注したアトリエ・サンカッケーだけの特別な品々に加え、スコットランドをグルっとまわって買い集めたヴィンテージ物、コレクターさんから入手した貴重なデッドストック品などあれこれを、一挙に展示販売いたします。肌に優しく目に刺激的な展示品を、みなさまにひと目ご覧いただけたら嬉しいのです。

東京

日程:11月9日(土)~11月17日(日)
時間:17時~20時(平日)、12時~19時(土日)
場所:Atelier SUN/kakke
住所:東京都渋谷区渋谷1-3-18 ビラ・モデルナA-705
sunkakke.jp
instagram : @sun_kakke
www.facebook.com/Sunkakke

京都

日程:11月23日(土)~11月27日(水)
時間:都度Instagramでお知らせします(平日)、13時~19時(土日)
場所:京都五条「AA」
住所:京都府京都市東山区渋谷通本町東入北棟梁町311-1
電話:075-342-5933
instagram : @aa_sekizuka

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