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COLUMN

旅とか僕とか、相棒のこと。

文・写真:尾崎雄飛

自他共に認める生粋の服好きとして業界内外で名を馳せる、デザイナーの尾崎雄飛さん。最近ではそこに“旅人”としての称号も追加されたとか。聞くところによると、尾崎さんは旅に出るとモノを買いまくることが多いそうです。つまり、旅、服、買い物、この三点が尾崎雄飛という人物を形成しているのです。本コラムではそんな尾崎さんの旅っぷり、買いっぷりをご自身にのんびりと振り返っていただきます。イギリスの旅日記、第三弾です。

第四回 イギリス、グレートブリテン島
一周の旅、DAY 9~16
DAY 9. Liverpool ~ Hawick

マージー・ビートに酔いしれた華金の残り香漂う早朝のリバプールを発ち、僕と黒いメルセデスは大量になってきた相棒(荷物)たちを載せ、ミルクティーの湯気で窓を曇らせながら北へ向かった。湖水地方の脇を抜けるルートの景色は、ひたすら牧草地に点々と羊。慣れてしまうと退屈なものである。

夕方前にスコットランド国境を越え、「カシミアのふるさと」ホーウィックに到着。〈サンカッケー〉で別注アイテムを作ってもらうなど、色々とお世話になっている〈グレンマック〉と〈ジョン・レイン〉のニット工場や、同じカシミアニットの〈プリングル〉、〈スコット&チャーター〉、ハンティング・ツイードで著名な〈ラヴァット〉などの工場が点在するモノづくりの街だが、土曜日の夕方、工場はどこも終わってしまい、翌日は日曜日。せっかくの滞在も見られるモノがないので、たまには休暇を。美しいツイード川の水面を眺めながら散歩して、おじいちゃんだらけのパブで地ビールを飲み、ホテルで就寝。

ホーム・オブ・カシミアの街。次回は工場回りをしたい。

スコットランドの田舎町は、どこもたいへん美しい。

そして、どこの街でも地ビールが美味しい。

DAY 10.
Hawick ~ Kelso ~ Edinburgh

翌朝、ウェブサイトで情報を拾って向かったケルソーの街のマーケットは、アンティーク・フェアというよりは「不用品バザー」の様相を呈していた。正直「ハズした……」と思ったが、そこは長年ムダ買いハンターを続けてきた僕だ。タダでは帰らないとばかりに、心優しいおばあちゃんの手作り巾着を買い込んで、一応の成果に。袋はいらないです、というとおばあちゃんは「きれいな黄色い紙で包んであげるから、いらないって言わないで。幸せになれるわよ」と、黄色い紙でグシャグシャに包んで、これまた手作りの新聞紙の袋に入れてくれた。どこの国でも、おばあちゃんの愛情は深くてせつない。

お手製の新聞紙袋がコレ。意外とよくできている。

エディンバラはハリーポッターが生まれた街で、中世さながらの美しい風景が有名な大都市。でもハリーポッターを一度も見たことのない僕は、ここでもモノ探し。街に点在するチャリティーショップ(アメリカで言うスリフトストアのような、寄付品を販売する店)をガンガン攻めるも、これといった成果はない。やっぱり都会に古い物はもう無いのかもしれない。エディンバラ城を遠巻きから眺めて、街で評判のでっかいハンバーガーを無理やり完食して、外に出たら突然の雨。スコットランドでレインマックが役に立っていることにニヤつきながら雨の中をホテルまで歩く。ホテルの部屋には地元出身のショーン・コネリー。スコットランドに来たことを実感する。

中央遠くに写っているのがエディンバラ城。地味だが、近くで見るとかっこいい。

こちらも写真では伝わりにくいが、相当な量の肉が圧縮されている。満腹。

『サンダーボール作戦』と『ドクター・ノオ』。また観返したくなる。

DAY 11.
Edinburgh ~ Innerleithen ~ Aberdeen

快晴の月曜日の朝、エディンバラから一旦南へ戻るルートをゆく。目的地はどうしても行きたい街「インナーレイセン」だ。僕の大好きなカシミアの工場〈バランタイン〉もホーウィックにあるのだとばかり思っていたら、ホーウィックよりも少しエディンバラ寄りのこの街にあるということを知ったから、月曜日を待ったのだ。

街に到着するも、グーグル・マップには工場の場所が出てこないので、街の人に聞いてみることに。可愛らしく優しそうなおばあさんを見つけて話しかける。

「バランタインの工場があるはずですが、知っていますか?」
少しの間があって、
「あなた何しに来たの?」
「工場を見られたらと思って」

おばあさんは外国人がよくやる、やれやれ、という手振りをする。
「残念ね。工場はあるけれど、ニットはもう編んでいないのよ」

「えっ!?どういうことですか?」
おばあさんいわく、工場はもう7〜8年前に閉鎖してしまったとのこと。
まったく知らなかった……。

僕がオーマイゴッド的な表情をして立ちすくんでいると、おばあさんは自分が着ているピンクのニットを指差して、
「私はその工場でバランタインのニットを編んでいたのよ。デザインもしていたわ。工場が無くなって、個人的に集めているニットがあるから、あなたに譲ってあげてもいいわ」

なんということか。おばあさんは大量のバランタイン製のニットを持っていた。工場のテストサンプルやデッドストック、元工員さんたちから買い集めた、技術的に貴重なニットの数々…。
「すごいですね……。これ…全部ください(威圧)」
「えぇ……」

こうして僕は黒いメルセデスに、さらに大量の新しい相棒を積むことになった。別れの挨拶を言いかけると、おばあさんがそれを遮る。
「もし、よかったら」
「工場跡はこのすぐ裏だから、時間があるなら見ていかない?」

そこから歩いて2〜3分ほどのところに工場の建物はまだ残っていたが、周囲には工事業者のフェンスが建てられ、今にも取り壊しが始まろうという雰囲気だった。
「もうすぐ壊してしまうみたいなんだよ…」

上着のポケットに両手を突っ込んで、呆然とつぶやくおばあさん。

現代は無情な時代だから、最新のグローバル経済についていけないモノゴトは淘汰され、消えていく。洋服の製造も当然例外ではない。

人々が安くて便利でアイコニックなモノを買うために行列を作るその裏側で、丁寧に作られた素朴だが美しいモノが、静かに姿を消していく。

工場から高く突き出した煙突の先の空は、いつのまにか分厚くて黒い雲が太陽を覆い隠してしまっていた。雨が降る前に、と車に戻り、おばあさんに再会を約束して街を出た。太陽はまたしばらく見られなさそうだ。

〈バランタイン〉の工場跡。哀しいが崩される前に見られてよかった。

おばあさんの心情を象徴するように、黒い雲が立ちこめはじめた。

大雨の中、東の海辺を北上し、アバディーンの街にたどり着いた。真っ黒な海と、真っ白な肌の人々。いよいよスコットランドも奥地の様相を呈してきた。

DAY 12.
Aberdeen ~ Elgin ~ Inverness

スコットランドはハイランド地方とロウランド地方に分かれていて、言葉の通り土地の高低差の多いハイランドは雨が多く、ロウランドはなだらかな地形で天気も比較的穏やかだという。

そのロウランド東端の街アバディーンから、スペイ川流域の「ウィスキー・トレイル」を通り、今日の目的地はハイランド地方の手前の街エルガン。

〈サンカッケー〉のコレクションでも別注させてもらったり、材料にさせてもらったりとお世話になっているカシミアのブランド〈ジョンストンズ・オブ・エルガン〉の本拠地だ。

曇ってはいるけれど穏やかな空の下、ウィスキー蒸留所の匂いを嗅ぎながら車を走らせていると、古い街の教会の軒先に、風に揺れる〈エヴィスジーンズ〉のジージャンが目についた。古着屋だろうか。僕がロンドンに住んでいた1999年、ロンドンは空前のエヴィスブームだったことを思い出しながら、道路脇に車を停める。

そこは「この街で一番古かった」教会を改造した店で、その名も〈オールド・キュリオシティ・ショップ〉。ディケンズの小説からとった店名だと、店主が自慢気に説明してくれた。日本語にすると「骨董屋」だ。

彼の自慢の店は、まさにカオス状態で、新旧様々の変な物が雑然と配置され、全然見る気が起こらない。

いい感じに着込まれたエヴィスジーンズ。こんなところで日本の物に遭遇するとは。

オールド・キュリオシティ・ショップ。田舎町のアンティーク屋はマイペースでおもしろい。

しかし、意外と古着の量が多く、〈リバティ〉の40年代ぐらいのシャツや、同じくらい古そうなツイードのパンツなど、いい収穫もあり、なんとか「良い道草」になった。変な店は侮れない。

夕方にエルガンに到着。〈ジョンストンズ・オブ・エルガン〉の工場見学ツアーは終わってしまっていたが、工場隣接の店でマフラーと靴下を買い込む。

美しい工場兼ショップ。街一番の名所という佇まい。

マフラーもいいが、ここのカシミアソックスが本当に最高。

思ったより早く店を出られたので、今日のうちに行けるところまで旅路を進めておこうと考え、ハイランド地方の入り口、インヴァネスの街まで進み、宿をとる。明日からは南下していく計画で、ここがグレートブリテン島一周の旅の、地理的な折り返し地点となる。

DAY 13.
Inverness ~ Glasgow

ネス湖。ネッシーの目撃説は今もなお有るらしいが、最近では巨大ウナギ説が決定的になったらしい。

インヴァネスから今日の目的地グラスゴーまでは直線的に行けば300kmぐらい(=3〜4時間)の道のりなのだけど、せっかくのハイランド地方を堪能すべく、ロック・ロモンド&ザ・トロサックス国立公園という、バンド名みたいな国立公園を通過する山道ルートを取るため、4〜5時間のロングドライブになる。

2時間ほど退屈な道を走り、国立公園に入ると、眼前に苔生したような高い岩山の風景が現れる。これぞハイランド!美しい。憧れの風景…!などとひとりごちながら奥へと進むと、天候は噂通りの大雨となり、風景どころではない視界の中、うねった山道をこわごわ走り、命からがら国立公園を脱出。

こういう景色はサイズ感が伝わりにくいけれど、大変大きい山なのである。

車が入ると少しはサイズがおわかりいただけるだろうか。

グラスゴーに着いたのはまだ夕方だったのに、ロングドライブの疲れと山道の緊張から解き放たれたためか、ホテルに着くとすぐに眠ってしまった。

旅の相棒たち。大活躍のレインマック、エルメスの古いショルダーと、ジェームズ・ロックのキャンバスハット。

DAY 14.
Glasgow ~ Lake District National Park

小さな頃から憧れたグラスゴー・サウンドのふるさとは、実際に来てみると「田舎の都会」とでも言うべき退屈な街だ。でも、若い人たちに活気があり、たしかに音楽の生まれる匂いのする、よく言えば「ロックな街」でもある。

もうひとつの僕の中のグラスゴー名物は、建築家のチャールズ・レニー・マッキントッシュで、彼の代表作であるグラスゴー芸術大学を見てみようと、近辺まで歩いてきたが、一向に大学の本校舎が見つからない。グーグル先生に助けを求めると、昨年火災で全焼したという口コミが…。その歴史的建造物は目の前にあったのだけど、校舎全体にカバーがかけられていたのだ。見つからないわけだ。

グラスゴー芸術大学。カバーの模様が、なんとなくマッキントッシュ的な柄にも見える。

FIRE DOOR KEEP SHUT(防火扉締切)のサインの上に“?”マークの落書き。謎の火災への皮肉だろう。

つまらないので車に戻り、マンチェスターへ向かう。道すがらピーターラビットで有名な湖水地方に寄り、中でも美しさで1,2を争うというバターミア湖をひと目見て行こうと、車を走らせる。分岐点の看板に従いバターミア湖へ近づくたび、道が細くなっていく。ついに車1台がギリギリ通れるという山道を10キロ以上も走り、ようやくたどり着いた湖は、霧雨に霞み、美しく透き通った水面を湛える岸辺に羊が回遊する、幻想的な場所だった。

霧の中、羊が遊ぶ。夢の世界に迷い込んだかのよう。

どこまでも幻想的な場所であった。

美しすぎる湖畔で羊を追いかけて遊んでいると、だんだん雨が強くなり、さすがのレインマックも水が中まで染み込んできたので、あわてて車に戻る。帰りも同じ細道を戻るルート、速度が出せないため時間がかかってしまい、大きめの道に出たときには19時を回ってしまっていた。マンチェスターまではあと2〜3時間、夜のドライブはちと怖い。加えて、明日はロンドンで車を返すので、今夜のうちに荷物を整理しておく必要がある…。今日はマンチェスター行きを諦め、湖水地方のホテルで明日の準備をすることに。計画通りには行かないものだ。

DAY 15.
Lake District National Park ~ Cotswolds ~ London

ピーターラビットの湖水地方からバンクシーのロンドンまで、車で約5時間。レンタカー店の閉店時間は17時だ。
早めに出発し、ランチ目当てに寄り道したのは、かのウィリアム・モリスをして「英国一美しい村」と言わしめた、コッツウォルズのバイベリー村。

すばらしく閑静で美しい風景のなか、コルン川を泳ぐ鱒を観たのち、川辺のスワン・ホテルでトラウト・アンド・チップスになったその鱒を食らう。実に新鮮で、臭みではなく香りのある、よく締まった身がうまい!!!

小さく、美しすぎる村。澄んだ川の水で優雅に鱒が泳ぐ。

その鱒をすぐに調理して食す。イギリスではジャガ芋のことは割となんでも「チップス」と称す。

ロンドンに近づいていくことが、だんだんと現実世界に戻っていくように感じる。農場の風景が街に変わり、危険運転車の多い市内を走り抜け、16時すぎ、レンタカー店へ無事に車をしたときにはすっかり夢が覚めたようだった。

この夢のような旅路で、実に3,000kmの道のりを走破し、買った品物は約100kg。帰りの空港で問題になるほどのボリューム感だ。

膨れ上がったマッシブな相棒たち。これをひとりで運ぶのは苦労した。

〈ザ・ノース・フェイス〉の個人的大名品『ローリングサンダー』軍団が今回の相棒。荷物がいくらでも吸い込まれるように入っていくので、こんな状態に。便利過ぎるのも考えものである…。

入口に横付けしたタクシーからホテルの部屋まで相棒たちを運ぶだけでヘトヘト。達成感のビールがうまい夜だ。

DAY 16.
London

さすがに晴天の多い真夏のロンドン。スコットランドでは気温10度以下のところもあったのに、ここでは30度近い。どこへ行っても都会は暑いのだ。

それでも我慢して一張羅のジャケットにタイを結んで、セント・ジェームズ・ストリートに向かった。

〈ジョン・ロブ・ロンドン〉では、ニールさんより若手のレッパネンさんが待っていてくれた。烈覇念。いい名前だな、などと考えながら、出来上がっていたマイ・シューズに足を入れてみる。

気になっていた小指の当たりもなくなって、ヴァンプ部分も前回よりフィットしているように思えた。マジックのような調整に、完璧に満足である。

烈覇念さん曰く「ご意見をいただき、少しずつ調整を繰り返しながら、完璧なフィットを一緒に作っていきましょう」どんなことでも、道は長く険しい。

若い頃から憧れ続けたファサード。少年尾崎はよくここに佇んでいたものだった。

マイ・シューズをステキなワイン色の箱と袋に入れてもらって店を出ると、上機嫌で近くの公園へ向かった。

ベンチに座り、マイ・シューズを取り出し、長旅を付き添ってくれた全天候型の相棒〈ジェイエム・ウエストン〉の「ヨット」と履き替えた。いささかロマンティックが過ぎて恥ずかしいけれど、この靴の初下しは、大好きなロンドンの土の上だと決めていた。

ダーク・ブルーのカーフが眩しい夏の太陽に煌めくと、僕の大好きな藍色に見えた。ロンドンの太陽はいつも、東京よりも眩しく感じる。曇り空に目が慣れてしまうからだろうか。そんなことを思いながら、公園をそぞろ歩いた。

ダーク・ブルーのマイシューズ。ハイロー・シューズという〈ジョン・ロブ・ロンドン〉の定番。

新しく加わったこの相棒と、これからもまた、旅を続けていくのだ。

イギリス、グレートブリテン島一周の旅、おしまい。

PROFILE

尾崎雄飛
サンカッケー・デザイナー

1980年生まれ。某ショップバイヤーを経て〈フィルメランジェ〉を立ち上げる。2012年に〈サンカッケー〉として独立。日本の良いモノを追求しつつ、仕事をしたり旅をしたりの日々。

連載記事#旅とか僕とか、相棒のこと。

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