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Extreme対談 vol.1 渋谷慶一郎×オノセイゲン(後編)

2011.12.07

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その道の最前線に立つクリエイターによる、ディープでマニアックでエキサイティング、それでいてちょっとタメになる話「Extreme対談」。記念すべき第1回目にご登場いただくのは、サイデラ・マスタリングスタジオの代表を務めるレコーディングと空間音響のスペシャリスト、オノセイゲンと、前衛的な音楽レーベル「ATAK」を主宰する音楽家、渋谷慶一郎のお2人。15年以上の付き合いを持つ彼らが、音楽制作の変遷を辿りながら、最新の録音手法や自らの音作り、現代のリスナーについて語る。

前編はこちらからチェック!

Photos_Kenshu Shintsubo
Edit_Yohei Kawada
Thanks_NUMBER A

INDEX
1. 良い音とは「スッピン美人」。
2. リスニングに対するそれぞれのアプローチ。
3. 現代に生きる私たちの音楽体験とは。

オノセイゲン
音響空間デザイナー/ミュージシャン/録音エンジニア。録音エンジニアとして、82年の坂本龍一「戦場のメリークリスマス」にはじまり、渡辺貞夫、加藤和彦、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイ、マイルス・デイビスなど多数のプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が綺麗に見えるような音楽を」をいう依頼により作曲、制作した『COMME des GARÇON / SEIGEN ONO』ほか、多数のアルバムを発表。ジョン・クリストフ・マイヨーの「モンテカルロバレエ団」ほか、国内外のダンスカンパニーなどにも委嘱作品を提供。

渋谷慶一郎
1973年生まれ。音楽家/「ATAK」主宰。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル「ATAK」を設立し、国内外の先鋭的な電子音響作品CDをリリース。また、デザイン、ネットワークテクノロジー、映像など多様なクリエイターを擁し、精力的な活動を展開する。2009年、初のピアノソロ・アルバム 『ATAK015 for maria』を発表。2010年には『アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎』を発表し、TBSドラマ『Spec』の音楽を担当。

良い音というのは美人みたいなものだから、スッピンでも十分なわけです。

―渋谷さん自身は今後、音楽活動のなかでDSDにはこだわって制作していくのでしょうか?

渋谷:僕のなかではもうそれが普通になってきていて、僕自身もDSDレコーダーを持っているくらい。今度、自分のスタジオのピアノでサントラを1枚作るっていう話があって、それはすべてDSDで、マイクも自分で立てて録音してからPCに取り込んで編集しようと思っています。あと、ピアノだけじゃなくアナログシンセで「ぶうぉんぶうぉん」というノイズを出すじゃないですか。それがPCMだと「ボンボン」っていうアタックの部分だけしか録れないんです。本来であれば「うぉんうぉん」に当たるうねりの部分がきっちり録れないと、アナログで音を作る意味がないんですよ。だからアナログシンセも一回DSDに録ってから変換してコンピューターに落としたほうがいい。そこが録れているから。アナログのノイズというか音楽全体からみたら部品みたいな部分もDSDを1回通して変換する。

オノ:デジタルカメラと同じで最初に録るデータだけはRAWデータで、つまりDSDで録っておく方がいい。その後の加工は用途に合わせて、トリミングとかコントラストとか色調整とか、大きなデータから小さくする分には問題ない。

―一般の私たちが家の音響でDSD録音した音を聴く際にも、そうした違いというのは顕著なのでしょうか。

渋谷:確かに違うと思うんだけど、僕はもっと制作する側が使った方が話は早いと思っていて、DSDの音源を売ることに頭を使うよりは、DSDで録ったからこのCDの、あるいは配信されているこの音楽のボーカルが素晴らしいというほうが大事だと思う。つまり音楽制作のプロセスにDSDが普及することの方が僕は大事だと思います。逆に、エンジニアでDSDを使えない人が多いことの方が問題で、「DSDで録ると音が痩せる」とか言ってるエンジニアがいるんだけど、それはマイクの立て方が下手なだけで(笑)。

オノ:(笑)。

渋谷:データフォーマット的には絶対に録れるはずなんだから、音が痩せるとしたらマイクの位置が違うはずでしょう。とにかくいっぱいマイクを立てて録ればいいみたいなのは、ブスに厚化粧するようなもので、位相も気にせずじゃんじゃん立ててミックスで調整すればいいと思っている人も多いんですよ(笑)。

―ブスに厚化粧とは(笑)。

渋谷:2本のマイクでもちゃんと録れていれば、良い音というのは美人みたいなものだから、スッピンでも十分なわけです。先ほどの普及の話に戻すと、MP3とDSDや高音質配信を比較するのは危ないかもしれない。DSDは配信フォーマットというより音楽を作るテクノロジーとして捉えるべきで、それで普及しないからといって、「やっぱりダメだね」となるのは違うと思う。現状、聴くだけという意味では聴きずらいわけだから、AudioGateしかないわけだし。

オノ:美しい人はより美しく、そうでない方は、それなりにうつります。年末にかけていくつも登場してきましたね。一般の人が聴けるDSDのストリーミングできるDACとか。それなりに、とは言え、音楽の場合は楽器からの音がよくない場合はより下手に聞こえる。

渋谷:そうそう(笑)。現実はすべて録れる。でも音楽を録るときに、どんなエンジニアでも、どんな素人でも上手く録れるかというとそれはまた別の話。

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