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定番に宿る哲学。パラブーツのミカエルが、多くのひとに愛される理由。
The Philosophy of Making Shoes

定番に宿る哲学。パラブーツのミカエルが、多くのひとに愛される理由。

ヒップなひとを見かけると、ついつい足元をチェックしてしまいます。“お洒落は足元から”なんて気の利いた文句がありますが、それが語り継がれるのは、ある種の真実と哲学がそこに含まれるからです。今年で誕生80周年を迎えた〈パラブーツ〉の「ミカエル」も、多くのひとの足元を彩り、ファッションの定番としての地位を確立しました。そもそもこの靴は、チロリアンシューズがルーツ。出自は決して都会的ではないのに、どうして街に合うのか。やっぱりなにか理由がありそうです。フランスから来日を果たしたCEOのエリックさんにその秘密を聞いてみると、知ることのなかったさまざまなアイデアが隠されていました。

すべてを自分たちで把握し、責任を持ってつくる。

ー〈パラブーツ〉は「メイド・イン・フランス」にもプライドがありますよね。

Eric: 〈パラブーツ〉は家族経営の企業なんです。私自身は2019年に加わり、入社からもうすぐで7年を迎えます。ファミリーとして大切にしている価値のひとつは、“フランス国内で生産を続けること”です。しかし、それ以上に大切なのは職人技=サヴォワールフェール(savoir-faire)を守り、継承していくこと。一足の靴をつくるには、150近い工程があります。その技術を維持し、次の世代に伝えていくことはとても難しい。なぜならオートメーション化されておらず、“手仕事”だから。そこに「メイド・イン・フランス」の本質があります。

そして「メイド・イン・フランス」という言葉には、ある種の保証がある。だからこそ、それを維持することがなによりも重要だと考えています。それは「メイド・イン・ジャパン」も同じですよね? 日本で成功するということは、世界のどこでも通用するということでもあります。なぜなら日本人は、素材やディテールに対する非常に繊細で豊かな感性を持っているから。だからこそ、日本での成功は私たちにとって特別な意味を持っているのです。

ー日本のものづくりも「メイド・イン・ジャパン」として、世界でその品質が認められています。ただ、そうした技術の伝承に関しては同じように心配ごとも多いんです。靴に限らずさまざまな分野において、担い手不足が指摘されています。

Eric: 技術の伝承に関してはヨーロッパでも懸念されていることです。スペインでもクラフトマンによる靴産業が衰退しつつあるんです。フランスでも状況はほぼ同じで、職人による製造を維持しているブランドや工房は本当にわずか。ほとんどが工業的な大量生産へと移行しています。大量生産のシステムで手仕事を補うという動きもありますが、真の意味でのアルチザンな靴づくり、つまり手作業による生産を続けているところは、もはやほとんど存在しません。

ーだからこそ希少性が高くなるという見方もできますが、それは本意ではないですよね。

Eric: 私たちが大事にしているのは職人技の“維持と継承”です。私が入社した当時、工房には〈パラブーツ〉一筋で働く熟練の職人たちが大勢いました。ところがいまでは、状況がまったく違う。スマートフォンやインターネットの登場によって人々の感覚が変化し、いまはクイックに何でも簡単に手に入る時代です。私は忍耐力の著しい低下を危惧しています。靴づくりでは、ひとつの動作を身につけるのに長い時間がかかるんです。だから若い人たちに技術を伝えることがとても困難になっています。

ーそうした状況において、エリックさんはどのように対応していますか?

Eric: 私が取り組んでいるのは、勤務体制の再編です。通常であれば週5日勤務のところを、就労時間は同じで4日勤務にして、週末に3日間の休暇を取れるようにするなど、若い世代の要望にもきちんと耳を傾けるようにしています。最近は「1年間休みを取り、世界一周をしてからまたここに戻りたい」というリクエストもありました。私はそれに応え、スタッフの役職もきちんと確保することを約束しました。

受け入れるのは決して簡単ではありませんが、それでもいまの時代は柔軟に対応することが不可欠なんです。社員の人生と仕事の両立を尊重しながら、関係を長く続けることが、いまの経営において最も大切なことのひとつになっています。単に技術を教えるだけでなく、彼らが長く働き続けられる環境を整えることが必要なんです。

シンプルな2アイレットを基本としながら、現在はさまざまなバリエーションがある。

ー時代に合わせた柔軟性も大事であるということですね。ちょっと話が深いところに行ってしまったので、再び「ミカエル」の話に戻りますが、〈パラブーツ〉ではソールも一貫して自社で生産していますよね。そこにはどんなこだわりが隠されているのでしょうか?

Eric: いい質問ですね(笑)。私たちにとってAからZまですべての製造工程をコントロールすることは、強みのひとつであると考えているんです。ソールの素材が天然ゴムというシンプルなものであっても、私たちは古典的な方法で製造していて、そこには非常に緻密な作業が必要になります。

ーシンプルで上質なものをつくるほど、高度な技術を必要とすることが多いですよね。

Eric: その通りです。一部のシューズはスペインでも生産していますが、その工房とは50年以上の付き合いがあります。ほぼ私たちのファミリーと言っても差し支えないでしょう。スペインでつくっているのは、特定の“ステッチ製法(縫製技術)”のためです。一時期、その技術がフランス国内では途絶えてしまったため、現在もそのノウハウを持つ職人がいるスペインで行っているというだけのこと。それでも工程の監督は完全に〈パラブーツ〉が行っています。すべてを自分たちで把握し、責任を持ってつくる。それが〈パラブーツ〉の哲学なんです。そして、そうしたブランドはヨーロッパの中で、とても珍しいものになっています。

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