これまで聞けなかった話、言えなかったこと。
2人が「パパス カフェ」で頼んだのはイブニングドリンクセット(¥1,600)。17時から注文可能で、ドリンク1杯に3種類のおつまみが付いてくる。
ひとしきり店のなかを回って服を探し終えた2人は、併設されている「パパス カフェ」に移って小休止。朝から一緒に過ごした彼らの会話は途切れず、話題は近況から、自然と昔話へ…。
「太朗のライブをちゃんと観たのは、恵比寿の『リキッドルーム』が最初だったかな。何年前か忘れちゃったけど。その時にお客さんがいっぱい来ていて、すごい! こんな人気があるんだ…ってびっくりしたな」と秀夫さん。太朗さんがそれに応えます。
「それまで自分のライブを観に来るなんてなかったのにね。急にそのときは来てくれて、ライブが終わった後に楽屋にも挨拶に来てくれて。『良かったよ』って一言だけ残してすぐ帰っていくあたりが、すごくお父さんらしいなと思ったよ(笑)」
件のライブから少し時間が経った2022年。ドラマのための楽曲制作を任されていた太朗さんは、サウンドトラックの主軸となるような曲をつくりたいと考えていた折に、ふと、秀夫さんとの共演という選択肢にたどり着きます。
「お父さんがライブを観に来てくれて、距離がすごく近くなった気がした。それで一緒に演った『MOON』という曲の構想が生まれて。こういうタイミングだからこそ演りたいなと。それでレコーディングに急遽呼んで、その場で録音してね」
「はっきり覚えてないけど、ただ『一曲、ウッドベースで入って』みたいに言われた気がする。もちろんそれは嬉しかったから、『喜んで』って。ちょっとジャズっぽくはあったけどジャズとはまた違う世界だし、上手くできるかなって気持ちがあったけどね(笑)。でも、ラテンの人とかロック寄りの人に呼ばれてやるのも楽しいし、チャレンジするのは好きだからさ」
「それは日頃から心がけていることで…」と秀夫さんは続けます。「あんまり偉そうなことは言えないけど、諦めからは何も生まれないと思うから。いろんな経験をしていくと、やる前から無理そうだな…とかって思っちゃうことがあるけど、そればかりじゃ何もはじまらないから。まずはチャレンジしてみること。あとは、言い訳を絶対しないこと。何かのせいにばかりしてるのはみっともないしね」。
はじめて聞いた、父の心の奥底にある言葉。太朗さんは少し驚きつつも、なんだかしっくりと来ているご様子で…。
「本当にそうだなと思うし、確かにお父さんが言い訳してるのって一回も見たことがない。お父さんもお母さんも、基本的になんでも面白がれる人だから、息子の自分もなんでも面白がっていかないとね。そういうふうに考えられる心の余裕がある人に、自分はすごく魅力を感じているし。…こういう話も普段じゃ絶対聞けないし、照れくさいけどすごく納得したよ」
ミュージシャンとして、ひとりの人として、自分のルーツと改めて向き合った太朗さん。親子といえども別々の人間で、きっと知らない表情やエピソードがそこにはたくさんあるはず。だからこそ、たまにはこうしてそれを共有してみると、いままでとは少しだけ違う景色が見えてくるはず。それがポジティブな気づきだったとしたら、どれほど素敵なことでしょう。
「家族が増えてなかなか2人だけの時間っていうのも取りづらくなったけど、これを機にまた2人で繰り出せたらいいよね」
太朗さんがそう言うと、秀夫さんはにこりと笑うのでした。