PROFILE
「EDIFICE」でバイヤーを務めた後に独立し、「L’ECHOPPE」の立ち上げに携わる。2022年、東京・北青山にセレクトショップ「BOUTIQUE」をオープン。2024年には自身初のファッションブランド〈ファウンダ(FOUNDOUR)〉をリリース。さまざまなブランドやレーベルの監修など、多岐にわたる活動を行う。
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工場勤務から生地開発、販売、生産までアパレル業務全般に携わったのち独立。2011年より、自身のブランド〈ブラームス(blurhms)〉、〈ブラームス ルーツストック(blurhms ROOTSTOCK)〉を展開。「着心地」「経年変化」「上質な日常服」をテーマに、素材開発からデザインまで一貫して手掛ける。
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セレクトショップ「n°44」でバイヤーを務めた後、いくつかの活動を経て、2016年に〈リプロダクションオブファウンド(REPRODUCTION OF FOUND)〉を立ち上げ。現在はディレクター兼デザイナーとしてブランドを率いる。過去のミリタリーアイテムを現代的に再構築するプロダクトが特徴。
緻密で丁寧な仕事の末にたどり着いた、妥協のない一足。
―およそ5年ぶりとなる3人による共作。前作とは異なるテンションの仕上がりですが、みなさんらしさがグッと詰まっているように感じます。完成品を見た感想を聞かせていただけますか?
金子: 実は完成品を見るのはこれが初めてなんです。初代裏ジャーマンがベースになっていると聞いていて、確かにディテールを近くで見ると「あ、裏だ」って思うけど、ぱっと見だとめちゃくちゃ綺麗なレザーシューズですよね。ジャーマントレーナー特有のクタッと感もないし。
―初めてご覧になったんですね。となると、このシューズはどなたの発案でどういう経緯で進められたものなのでしょうか?
村上: 私の独断です(笑)。
一同: (笑)
村上: もちろん勝手につくったわけではないですよ。金子さんが発案されたものなので、進める前に「こういうのをつくりのですがいいですか?」と聞いたら、快くOKしてくださって。それでまずはサンプルとしてこれをつくりました。
今作の前身となる、シボ革でつくられたプロトタイプの裏ジャーマン。
村上: ミリタリーカップソールではなくてテニスカップソール、というのがそもそもの始まりでした。それでまず上枝さんに相談しました。
上枝: その話がマルチミリタリーシューズをつくった1年後くらいだから、今から約4年前ですね。
村上: でしたかね。以降、自分だけが履くのみで量産についてはしばらく放置してて…。そして月日が経ち、この「END ON END.」をオープンさせるタイミングというのもあっていよいよ動き出そうと思い、このプロトタイプを持って金子さんに会いに行きました。そこでソールについて相談したら、金子さんは即答で「絶対テニスカップソールでしょ」と背中を押してくれたんです。
今回の新作。ソールを1970年代にスペインで開発されたテニスソールに変更。
INSIDE-OUT GERMAN TRAINER HORSEHIDE
¥39,600
前作に敬意を払い、今作のインソールにも反転文字が印字されている。
―そんな金子さん、実際に履いてみてどうですか?
金子: めちゃくちゃいいです! 普段のより履きやすい気がするんですけど、木型も変えてますか?
上枝: ソールが変わってる分、木型もやや広めですね。
金子: ジャーマントレーナーって履くと“ころころ”するイメージがあるけど、これは安定感あっていいですね。カップソールに変えたことも効いてるのかな。そしてやっぱりこのツヤ感。古着屋などで見るジャーマントレーナーってだいたい質が悪いというか、粗悪な印象ってありません? もちろんそれが良さだったりもするんですが、これはそういうのが一切なく、見るからに良い革だなって感じですよね。
上枝: 普段〈リプロダクションオブファウンド〉では使わないような、イタリア産の馬革を使っているんです。ずっと気になっていた革屋だったんですけど、インラインではなかなか合いそうなものがないし、うまく提案もしきれてなくて、なかなか日の目を見ることがなかったんですよ。
―ようやくそのタイミングがきた、と。
上枝: はい。村上さんなら上手く料理してくれそうだなと。この革をお披露目できて自分としても嬉しいです。
金子: この革を活かすのって、“ありもの”にただ乗せるだけだときっと違うんですよ。村上さんがとても細かくデザインを調整したことで、この革の持つ力が最大限に活かされているなと、実物を見て感じます。これはぼくがやっても絶対こうはならないし、デザイナーならではの視点、村上さんだからこそできた一足だと思います。
―ではそんな村上さん、具体的にどんなところを細かくデザイン調整したのか教えていただけますか?
村上: 大きなところで言うとシューレースの間隔(レースステイ)。これが通常より狭いんですよ。
奥から〈リプロダクションオブファウンド〉のインライン、旧・裏ジャーマン、村上さんが履いていたプロトタイプ、今回の新・裏ジャーマン。レースステイ幅が明らかに狭いのが分かる。
金子: そう、この細さが本当に良いですよね! 比べて見ても一目瞭然ですけど、履くとより一層この細さが際立ちます。ジャーマントレーナーがこんなにもスマートに見えるんだ、って。というか、そんなことまでできるんですね!
上枝: これ用に金型を全部つくり直しましたから。
―さすが…気合いが入っていますね。シュータンも少し違うような。
村上: 通常のものだと、履きこんでいるうちにクタッと下に垂れがちだったんですよ。それが気になって、普通より長く設計しました。あとは、サイドの縫い目と縫い目の間に立体感が欲しくて、ウレタンフォームを入れてもらいました。
金子: 入れないと、ステッチが入っているだけの平たい感じになっちゃいますもんね。
村上: 裏に革を当てているので多少は出るんですけど、もう少し膨らみが欲しいなと思って。革もオリジナルより若干張りのある硬めのものでしたので。
―革の靴にウレタンフォームを入れるっていうのは、よくあることなんですか?
上枝: いや、ないですね(笑)。
金子: 〈ナイキ(NIKE)〉の「コルテッツ」なんかはクッションみたいなもので立体感を出していますよね?
上枝: ファブリックのときは入れることも多いですね、モデルにもよりますけど。だけど革となると…可能性はゼロではないですが、少なくともオールレザーのスニーカーで部分的に入れることはないでしょうね。5mmくらいのウレタンフォームを入れているんですが、革も硬いし正直あまり変化は見られないと思っていたんです。
村上: 意外とちゃんと出ましたよね。
金子: これ、履いていくうちにより顕著になっていくんでしょうね。
―本当に細かいところにまでこだわりが詰まっているんですね。
村上: あとはサイドマッケイです。
―サイドマッケイと言うと…?
上枝: 通常、アッパーとソールを接着剤でくっつけて終わりなんですけど、これの場合はその後さらに、アッパーとソールを縫い付ける作業をしています。これをサイドマッケイと言うんですが、耐久力が増す反面、工場からすると少し面倒…というかリスクを伴う作業になるので、やらないことの方が多いです。何度も言いますけど、これ硬い馬革ですからね(笑)。
村上: シューレースも蝋引き(ヒモに蝋を染み込ませたもの)にしてもらっています。
―蝋引きシューレースへの変更は耐久性でのメリットももちろんありますが、ヴィンテージのような風合いとドレスシューズのような上品さが共存していて、見た目に大きな影響を与えているように感じます。
金子: ちょっとこれは…あらためて本当にレベルが違いますよね。ぼくがバイヤーとして活動するなかで感じていたのは、バイヤーからの別注とデザイナーからの別注とでは圧倒的に差があるということ。
上枝: でも金子さんの別注には大胆さがあって素敵ですけどね。
金子: それは逆に知らないことで、好き勝手できているのかもしれないですね。ここまでの細やかさっていうのは絶対にぼくにはできないと思います。これって〈ブラームス〉のものづくりとリンクしてますよね。不思議と納得感があるんです、服との親和性というか。
金子: 例えば過去作(旧・裏ジャーマン)だと〈ブラームス〉の服のなかに置いてあるとちょっと違和感があると思うんですよ。だれか違うひとがやったな、みたいな。でもこの新作だとそれが全くなく、コレクションブランドの上から下まで、のように統一感のある仕上がりになっていますね。
―そんな金子さんからのメッセージをもらって、村上さんはいかがですか?
村上: ありがたいですね。自分がつくるものって伝わりづらいものが多いと思っているので。
金子: そうですね。100のうち40くらいしか伝わらないものが多いと思うんですよ、村上さんのクリエーションって。
村上: ぱっと見では分からない裏の部分を綺麗にしたり、ものによっては生地を系から制作したりしています。やっていることはたくさんあるんですけど、そういうことを表立って言ってはいないので。といいますか、伝えるのが苦手なので。
金子: でもそれって、きっと伝えることが野暮だと思っているんですよ。ものづくりのひとたちはみんなそう。言わない美学というか。
上枝: でも村上さんはトップクラスに口下手ですよ(笑)。
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