信頼のおける仕事仲間。
―ところでジャーマントレーナーって、どうしてここまでみんなに愛されているんでしょうか?
金子: やっぱりミリタリーものってファッション好きの誰しもが通りません? なかでもジャーマントレーナーってファッションとの親和性が高いと思うんですよ。ミリタリーのシューズってゴツいものが多いけど、これは色も形もスタイリッシュですから。そういうものを、信じられないくらいいろんな国からディグっているのが上枝さんですよね。
上枝: そうですね。デザインソースにしてかれこれ10年やっていますけど、やっぱり安定して人気なのはジャーマントレーナーですね。
村上: シンプルに認知度がいちばん高いですよね。
金子: あとは、男の定番アイテムに絶対合うっていうのも大きい。チノパンしかりジーンズしかり。
―そんな定番とも呼べるジャーマントレーナーを裏返しにしようと思ったのはどういうきっかけだったんですか?
金子: 着想源はスケーターですね。スエットを裏返しにして着ているのを見て、あれいいじゃんって。ジャーマントレーナーは25年くらい前からフランスやドイツから仕入れしてたんですけど、ちょっと見尽くした感もあって。で、上枝さんの〈リプロダクションオブファウンド〉が頭角を現してきたタイミングで…。
上枝: いまでも覚えてますけど、お昼ご飯を食べながら金子さんが「あれって裏返しでつくれます?」ってぽろっと言ったんです。裏ジャーマンのスタートはそんな些細な会話でしたね。
村上: やっぱりアイデアが凄いですよね。
上枝: でも工場とのやりとりは本当に大変でしたよ。工場からすると「なんでお前ら裏返しでつくるんだよ」状態ですから、それを説明するところから始まって。靴の工場からしたら、繋ぎ目とか補強のための素材って隠すためのものなのに、それを表に出すなんて意味わからない、みたいな(笑)。
金子: 完璧なんだけど、部分的に見せちゃいけないところがちらっと見えてるって、なんだかチャーミングじゃないですか。綺麗すぎても微妙なときもありますしね。そういう意味では、綺麗にまとまっているけど、よく見るとそういう片鱗が顔を覗かせている…みたいなとてもいいバランスのものができたなと思っていました。
―今作ではさらにたくさんの変更依頼が村上さんから上枝さんにあったと思うのですが、さすがにこれは断られた、っていうオーダーはあったんですか?
村上: 基本、最初は「難しいかも…」っておっしゃるんですよ。まあそれなりのことをお願いしていますからね。でも自分が変更した方がかっこいいと思う理由を話すと、最終的には「じゃあやってみよっか」と言ってくれる。優しいんですよ。
金子: めちゃくちゃ実現してくれますよね、上枝さんって。過去にジャーマントレーナーでスケシューをつくりたい、っていうぶっ飛んだオーダーにも応えてくれましたし。いろいろいっしょにやりましたよね、毎シーズン新作を。
上枝: つくりましたねー。でもやっぱりお二人から出るアイデアってぼくからはなかなか出ないような素敵なものばかりなんですよね。だから毎度、楽しくやらせてもらっています。
―ただ優しさだけでつくっているわけではなく、いっしょに進める上でのリスペクトがあるからこそ、ですよね。
金子: 普通はスルーするような話を、「つくりました!」って持ってきてくれたりするんですよ(笑)。しかもさらっと。すごくないですか?
上枝: あんまり苦労しているところを主張しすぎても厚かましいのでね(笑)。
金子: コラボや別注の話で言うと、村上さんはこの「END ON END.」ができたことによって、そういうことを今後は増やしていく感じなんですか?
村上: まだ始まったばかりのお店なので、徐々に展開していければと思っています。自分がつくり手ということもあって、依頼するのってすごく勇気がいるんですよね。
―そこがやっぱり気になりますね。デザイナーでありながらセレクトショップを運営されているのはレアケースな気もしますし。
村上: コレクションとして服をつくっていて綿密に組んでいるなかで、色や形を変えて欲しいと言うって…、なかなかなことだと思うんですよ。自分が言われる分にはおもしろければOKというタイプですが、やっぱりそうじゃない方もいらっしゃるじゃないですか。悩ましいです。
金子: コラボの話はさておき、いまってバイヤーとしていろんな展示会に顔を出してピックアップしに行ってるんですよね?
村上: そうですね、自分がものづくりをやっていることを忘れて没頭できるんですよね。フラットな視点で見られるというか。つくり手の考え方や見せたいイメージを、自分なりに可能な限り汲み取れるように意識しています。あとは、「END ON END.」の空間の中で、少し違和感がありつつも馴染むようにバランスの取れた商品構成を大切にしています。
金子: それはやっぱりデザイナーならではの視点な気がしますね。そんな裏の村上さんを見てみたいですよ。
村上: サイズのことはすごく聞いてます。展開サイズのピッチはどれくらいか、など。
金子: それ、嫌だろうなー(笑)。
―先ほど伝えることが苦手と仰っていましたが、この「END ON END.」を通して、村上圭吾という人間がどんな人間か見えてきそうですね。それは今回の新・裏ジャーマンでも同じことが言えそうですよね。
金子: そうですね。この堅実さ、細かさ、自分の納得するものをつくり上げるために、少しもサボらずにやり切っている。村上さんのクリエーションのすべてが詰まっている気がします。しかも服よりもそれが分かりやすいから、ぜひいろんなひとに見てもらいたいですね。
村上: 恥ずかしいですね。これをつくるにあたっては、やっぱり上枝さんの存在が大きかったです。工場さんとのやりとりなどで、間にちゃんとしたプロが入ってくれているというのは、すごく心強いし、やりやすかったです。
―その信頼関係があるからこそ、多少のわがままも言えてしまうということですね。
村上: そうですね。基本的にわがまましか言っていないですから。
金子: 本来めちゃくちゃわがままなひとですからね(笑)。
―でもそんなわがままを、上枝さんは全部叶えたわけですよね?
上枝: ちゃんと叶えられたと願ってます。
―お客さんの反応が楽しみですね。販売数はたくさんあるんですか?
村上: それが実はあまりつくっていなくて。
上枝: 随分と出し惜しみして売る感じなんですよね?
村上: そうですね、ひっそりと。久しぶりだし、なんとなくそれくらいがいいのかなと。
金子: ひっそりなのにこんな座談会やってるし(笑)。
村上: いいじゃないですか、こういう機会がないとあまり会えないことですし、たまにはこんな風に喋りましょうよ。
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