ムーンスターの直営店がある、自由が丘に合う。
ー「LOW BASKET」の様なタイプはもともとあったんですよね。
山田: こういう外羽根のタイプのスニーカーは、もともと〈ムーンスター〉が得意とするデザインなんです。“バスケット”という名の通り、スポーツを起源にしたモデルなので、足首をサポートするためにタンの部分が長かったり、履き口が広かったりするんですが、今回は革靴見えさせたかったので、履いた時の羽根の間隔や細かなラインなど変更しています。
江部: デザインとして、そういう微調整も加えているわけですね。
山田: タンは足首に沿うよう先端にカーブをつけ、ハトメにはツヤ消しのものを採用するなど、細かなディテールによって全体の印象を整えています。さらに、クッション性を持たせたことで適度なボリュームが生まれ、アッパーの重量感とのバランスが取れたことも、このシューズらしい雰囲気につながっていると思います。
梶: 最近はどうしてもボリューム感が先行したデザインが多いじゃないですか。実際にソールが厚いほうが好まれる傾向もあるし、若い世代にとってはそれが定番になっていると思うんです。だからこそ、こちらとしてはどうしてもソールに目がいってしまう。でも、このモデルはそのバランスの取り方がうまい。よく見ると、「少し厚めなんだ」とわかる。そのさりげなさがいいんですよね。
ー梶さん、江部さんは、この靴をどう履きますか?
梶: 山田さんのお話を聞いて、めちゃくちゃいい靴だなって思ったんですよ。だからこそ、かっこよく履きたい。スタイリストとして課題を与えられた気がします。
江部: モードまではいかないけど、コンテンポラリーなスタイリングに合わせたいですよね。これがデッキシューズのように内羽根仕様のスニーカーなら、スーツに合わせることもしやすいと思うんですけど。
アッパーのフォクシングテープが貼られている部分は、接着剤がつきやすいように軽く削っている。これも〈ムーンスター〉のこだわり。
山田: 〈ムーンスター〉の古い資料を見ていると、外羽根より前に内羽根の布靴をつくっていたようなんです。おそらく革靴をベースにした発想だったと思うので、内羽根のモデルがスーツに合うという感覚も自然なことだと思います。一方で、「LOW BASKET SG」は外羽根仕様で、ルーツもバスケットボールシューズにあります。だからこそ、スタイリングもよりカジュアルな方向になじむんじゃないかと思っているんです。
江部: スポーツが源流にあるからアッパーの調整がしやすくて、フィッティングがよくなるということですよね。
ーだけど、すごく大人な一足ですよね。
梶: 自由が丘っぽいよね。〈ムーンスター〉の直営店がある、この街に合うというか。だから今日はカフスが長い、ちょっとバブルの香りがするシャツを着てきたんですよ。いまって真面目な雰囲気のファッションが多いじゃないですか。
江部: たしかに。自由が丘っぽいって、なんかすごい説得力ありますね。
梶: プロダクトとしての完成度が高いからこそ、そこに少し余計な要素を掛け合わせることで、本人たちも想像していなかった場所まで届くことがある。そうやって別の角度から評価されることで、この靴の新しい見え方も生まれるんじゃないかなって。
ー〈ムーンスター〉のていねいさ、誠実さを際立たせると。
梶: 真面目さと不真面目さの融合、みたいな感覚ですよね。ファッションって、ただ真面目なだけでは成立しなくて、どこかに“不真面目さへの憧れ”みたいなものがあると思うんです。ものづくりの背景やストーリーも大事なんですけど、そこに異なるカルチャーが重なることで、ファッションとしての魅力が立ち上がってくる。
ー文脈をどう捉えて、そこにどんなエッセンスを加えるかということですか?
梶: 本当にファッションが好きなら、時代性や希少性だけじゃなく、背景ごと読み取りながら、自分なりに体現していくことがおもしろさにつながる。そういう視点で向き合うと、プロダクトもより魅力的に見えてくる気がします。