PROFILE
長崎県波佐見町に拠点を置く陶磁器の総合商社「西海陶器」にて、自社ブランドのデザイナー/エンジニアを務める。波佐見焼の歴史や思想を現代の暮らしへつなぐ器づくりを続けている。2025年9月に地元の岩手県花巻にて、波佐見焼のお店「C.P.D.」をオープン。現在は、波佐見町と花巻の2拠点生活を送っている。
Instagram:@kuntaroabe
見た目よりも使いやすさ。
―まずは、波佐見焼とはどんなものか教えてください。
波佐見焼は、長崎県・波佐見町を中心に大衆のための磁器として発展してきたやきものです。もともと、江戸時代に淀川を運航する渡し船での食事を提供するための器を依頼されたことが始まりでした。だから豪華な装飾よりも、丈夫で毎日気兼ねなく使えることが大切にされてきたんです。
ー波佐見町の周りには、伊万里や有田といったやきものの名産地がありますよね。これらのやきものにはどのような違いがあるんでしょうか。
すべて磁器で、素材はほとんど同じです。違うのは、誰のための器だったかというところ。有田焼と伊万里焼は、鍋島藩のもとで殿様が他藩へ贈るための高級品として発展したので、金彩や細かな絵付けを施した華やかなものが多い。その一方で、波佐見焼は日常使いが前提だったので、見た目より使いやすさを優先しているんです。
ーなぜこのエリアでは磁器づくりが発展したんですか。
1616年に有田で磁器の原料となる陶石が見つかったことが大きな理由です。当時、近くの唐津では陶器つくりが盛んだったんです。海に面していたから大陸の影響が入ってきやすかったし、土質も陶器つくりに向いていた。もともとその土地に根付いていた陶器の技術と、新たな素材が出会った結果、エリア全体が日本有数のやきもの産地へ発展していったんです。
ーちなみに、磁器と陶器にはどのような違いがあるんですか?
いちばんの違いは原料です。陶器が土からつくられるのに対し、磁器はガラス質の石からつくられます。陶器は厚みや温かみのある質感があり、磁器は薄くツルツルしていますね。磁器は水を吸わないので、陶器より日常使いに向いていると思います。
ーいまでは日用食器として高いシェアを誇る波佐見焼ですが、どのように人気になっていったのでしょうか。
実は波佐見焼は、長い間有田焼として流通していたんですよ。有田焼はブランド力があるから、有田焼として流通させた方が売れるんですよね。だから、百貨店などから有田焼のシールを貼るように指示されて。
でも、2000年代始めに立て続けに起こった牛肉の産地偽装問題をきっかけに、やきものにおいても産地表示の見直しが進んで、有田町からシールの使用を禁じられたんです。そこで町全体で一丸となって、波佐見焼をブランドとして育てていこうという風に舵を切りました。
そのタイミングで、波佐見焼は大衆向けのものだと定義して手頃な価格で売り出したことで全国に広まっていきました。