窯元で教えてもらう波佐見焼づくりの哲学。

この工場には一階に窯があり、2階では絵付けや釉薬づけが行われている。
波佐見焼づくりの最後のプロセスはこちらの窯元でおこなわれます。大雑把に言えば焼く工程がここでおこなわれるわけですが、焼きの回数はものによって変わります。というのも、生地を一度素焼きしたあとに下絵付けや釉薬がけをしたあとに再び焼いて、焼き物によってはそのあとにプリントや上絵つけが必要で、それを安定させるために再度焼く必要があるからです。

「ここに送られてくる生地にはいろんなものがあって、他の場所からくるものもあれば、地元でブレンドしているものもある。それをどう活かして焼き上げたいのか、どういう焼き物にしたいのか、それを共有することを大事にしてますね」。そう語るのは窯主の馬場春穂さん。「マルヒロ」の馬場さんが信頼をおく窯元です。「ぼくが春穂さんに『こういうのをつくりたい』と相談すると、いろんなアイデアが返ってくるんです」と語ります。


こちらは電気窯。コンピューターで温度や時間の管理ができるので、アナログな窯に比べると作業がだいぶラクになったそう。
「窯で焼く温度や場所によって焼き上がりに変化が生まれます。もちろんどんな生地を焼くかによっても仕上がりが全然ちがう。陶土によって縮み方も変わってきますから、それを見極めるのが難しい。人によっては分析しながら学ぶ人もいらっしゃいますが、私の場合は直感で置くことが多いですね(笑)。もちろん、最後はきちんと結果を見てなにがよくてなにがダメだったのかを考えますが」と、生地を焼く際の心得を春穂さんが教えてくれました。

素焼きしたあとの生地には細かな粒子がついているため、それを羽がついた専用の機械で取り払う。
これをしないと絵付けや釉薬づけがきちんとできない。

細長い板に並べられた生地。蕎麦の出前のように板を持って運ぶが、見ているだけで緊張する。

ピンク色に塗られている部分は、釉薬がつかないようにあえて特殊な薬品を塗っているそう。
底に貼ってあるラベルもひとつひとつ手作業で貼り付けている。

釉薬がけもひとつひとつ丁寧に手作業で。厚みを調整しながら均等に塗るのが難しい。
素焼きをしたあとの生地は、前述したように絵付けや釉薬づけをおこないます。春穂さん曰く「いちばん難しいのは釉薬をつけるときの厚さ。ある程度厚みがないときちんと色が出ないし、かといってつけすぎても狙った質感が生まれない。そうした調整は理論ではなく感覚なので、本当に苦労しますね」とのこと。この窯元で働く人たちも日々働きながらそうした言葉にできない技術を習得しています。「春穂さんはもちろん、ここにいる方々は作家志望の人もいたりして、みなさん高いスキルを持っている。だからこそ焼き上げをお願いしたいんです」と馬場さんが誇らしげに語っていました。

型づくりからはじまる波佐見焼の一連の工程。その流れからすれば、最後のバトンを受け継ぐのが窯元ですが、春穂さんはまた別のことを考えていました。「私はイチからつくっている意識でやってますね。陶土を見たり、場合によっては型屋さんとか釉薬屋さんのところへ行って意見を伝えたりすることもあります。そうして完成度の高い焼き物をつくりたいという気持ちがあるんです。分業とはいえど、私たちはみんなひとつだと思ってやってますよ」。
絵付けや釉薬づけが終わった生地は焼き上げられ、その後のプリントや上絵付けが必要な場合は再度仕上げに焼いて波佐見焼づくりの全行程が終わります。できあがった焼き物はその後、商社へと運ばれていくのです。