PROFILE
1973年生まれ、東京都三鷹市出身。中学生の頃に穿いたジーンズをきっかけにファッションへ傾倒し、以来は世界各国の良品やカルチャーを追いかける。18歳でアパレルの世界に足を踏み入れ、いくつかの会社や店舗で販売員やバイヤー、コンセプターとして活動したのち、2015年にディレクターとしてセレクトショップ「レショップ」を青山にオープン。品質からバックグラウンドまで、確かなモノの価値を提案し続け、今もファンは増える一方。本項でも触れる〈アウトドアプロダクツ〉との別注は、最新作が先ごろ世に出たばかり。現在の最大の関心事はアラスカ渡航という46歳。
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原点に立ち返って、新しいものをつくりたかった。
ー 今日は公私両方、昔の話と今の話をお聞きできればと思っているんですが、それより先に、お手元にある私物のカバンが気になるので、まずそれについて伺えますか。
金子恵治(以下金子):あ、はい。これはいつ買ったんだろう? 気付いたら手元にありましたね(笑)。古着で買った、’80年代の〈アウトドアプロダクツ〉です。
ー このダッフルバッグはどの辺が金子さんに刺さったんですか?
金子:何でしょうね……。機能で言えば、いいバッグはいくらでもあるんですけど、荷物をバサッと入れて、運んで、出し入れするっていうこのあたりの時代のシンプルなバッグの使い方が、今では逆になかなか無い発想だなって思えて。それと、やっぱり僕らが思い浮かべるアメリカらしい、こういう雑な縫製とかの表情も可愛いなって。今も見つけたらこういうものはついつい買っちゃいますね。
ー 〈アウトドアプロダクツ〉は「レショップ」でもここ数年で何度か別注されてましたよね。
金子:そうですね。一番最初に、定番の452Uをビッグサイズにアレンジしたものを日本製でつくって、その次では、逆に小さくしたんですよね。以前にロサンゼルスの〈アウトドアプロダクツ〉の工場に行かせてもらう機会があったんですよ。僕が「見てみたいです!」って言って。それで現場を実際に見て、こういうことをやってみたいな、っていう気になったんです。 正直、日本製のほうが品質の完成度は高かったんですけど、僕はアメリカ製時代のこの雑な感じが忘れられなくて。原点に戻ると言うか、そこに立ち返って新しいものをつくりたかったんです。
ー 金子さんの中の新しさと古さの比重って、どんなバランスなんですか?
金子:どっちも興味があるんですよね。ギアっぽいものも好きですし、でも常にどこかでレトロなものというか、懐かしさを感じられるものを探していたりしつつ、今の技術も取り入れて両方ミックスされたものも探している気がします。ただの最新鋭っていうよりは、懐かしさと機能性とか、そこがキーになっていて。人の手が入っているのを感じるものが好きなんだと思います。僕、自転車が好きなんですけど、それも一緒かも。カーボンも使うんですけど、鉄の部分もちゃんと残されたものだったり。ハンドルはカーボンなんですけどフレームはクロモリだったり。重さが結局プラマイゼロで「何がしたいんだコイツは……」って思われちゃうかもしれないんですけど(笑)。
ー 自転車、お好きなんですね。今の愛車はどんなヤツなんですか?
金子:スタイルで言うとシクロクロスです。
ー シクロクロスはどちらかと言えばヨーロッパの流れの自転車だと思いますが、 アメリカ好きとしてそこに抵抗はありませんでしたか?
金子:う~ん、両方やっぱり好きなんですよね。ただ、入りは完全にアメリカです。中学生のときに買った501®が僕のアメリカものの原体験。それまで日本製のデニムを履いてたけど、当時のアメリカ製の501®を穿いて、肌感でアメリカと日本の違いみたいなものを感じてたのかなぁ。アメリカのものはどこか愛嬌があると言うか。そこからズブズブとハマっていきました。ヨーロッパは、イギリスから。僕が高校生ぐらいの頃って’60年代のモッズとか’50sのアメリカとか、そういうスタイルが『ブーン』や『アサヤン』みたいな当時流行っていた雑誌で紹介されていて。で、まんまとモッズにはまってベスパを買ったり、UK ものに強い下北沢のお店に通ったりしてました。
ー 大概、感受性の高い少年ですね(笑)。
金子:そうですよね(笑)。そんな感じであらゆるものに影響されて、二十歳までに主なスタイルをほとんど通ってきたような気がします。カルチャー由来の服装にすごく影響を受けてたので、あんまりデザイナーズものとかは通りませんでした。 振り返ってみると、今も昔もあんまり変わってないかもしれないですね。