人に無駄な情報を与えるというか、考えさせることをしたい。
三原:音楽業界ではCDやレコードが売れないってなってて、ファッションではみんなオンラインで服を買ってて。最近すごく、新しいマーケットをつくらないとダメだなって考えてるんだよね。
ー それはどういうことですか?
三原:たとえば、iTunesができたときに、アップルがそれをつくったじゃん。その前にも不法ダウンロードのソフトとかたくさんあったでしょ? 音楽がデータでやり取りされるようになって、ある意味ではコンテンツが管理されるようになってしまった。もちろんすべての音楽がそうなってしまったわけではないけど、アップルとか、誰かがつくったルールに従うようになっちゃったんだよね。
それはファッションの世界でも同じで、大手企業やビッグメゾン、スポーツブランドがファッションビジネスの仕組みをつくっている感じはすごくする。アンダーグラウンドとは反対の次元でね。

三原:ぼくは性格がひねくれてるから、そういうものに対して上手な距離感で付き合えない。ぼくらみたいなブランドは、その仕組みに縛られないところで新しいマーケットをつくらないといけないなって最近考えるんだよね。
KEN ISHII:三原くんはクリエイティブなことをずっとやってるけど、同時に経営もしてるわけでしょ? そこがすごいよね、シンプルに。
三原:ファッションビジネスはパズルみたいなものだと考えていて、すごく大雑把に説明すると、クリエーション、営業、PRの3つのバランスが大事だと思うんだよね。その3つを切り離して考えるんじゃなくて、全部繋がるように、3本の柱が同じように成長していくことが重要で。
例えばうちは、スニーカーとかを単体でウェブ系のメディアに載せないようにしたの。いまはモノがバズって売れるスピードと、それに対応するためのインフラを整えるスピードが合う時代ではない。もし掲載してバズってわんさか売れるとするじゃん、そうすると生産が追いつかなかったりして売り先に迷惑をかけたりするから。いまはバズってなんぼっていう時代かもしれないけど、うちはバズらせたくないの。
KEN ISHII:なるほどね。

三原:バズると結局飽きられるのも早いからね。それよりはお客さんとどうコミュニケーションを取るかとか、おこがましいけど、どうエデュケートしていくかっていうほうが大事だったりする。最近うちでタブロイドをつくったんだけど、いまそれを取引先で置いてもらってるんだよね。そこでは服を見せるんじゃなくて、これからくるアップカミングなアーティストの作品を載せてるの。それによってお客さんにインスピレーションを与えるというか、「これはなんだろう?」って考えさせるきっかけをつくりたかったんだよね。
たとえばケンケンの音楽を聴くにしても、これまでEDMばかり聴いていた人がいきなりケンケンの曲を聴いて理解できるかといえば、ちょっと難しいと思うんだよね。だからYMOとか、クラフトワーク、そのあとにデリックメイとかブラックドッグを教えて、ようやくケンケンに辿り着けるというか。

三原:いまはみんなスマホの画面ばかり見てるし、お店でタブロイドを手に取れば見えてくる景色が変わるじゃん。そこに掲載されている内容は、正直わからないくらいでちょうどいい。服を売ることも大事なんだけど、同時にカルチャーも伝えていかないといけないから、そういうことをブランドの姿勢として見せていきたいんだよね。人に無駄な情報を与えるというか、考えさせることをしたい。簡単に言うとね。
KEN ISHII:それが正しいよね。
三原:いまはさ、iTunesとか開いてもAIがおすすめの音楽を教えてくれるでしょ? ファッションだって、Eコマースでキーワードを入れるだけでいろんなブランドが出てきて提案してくれる。要するにAIが人の趣味をつくる時代が来てるわけだよね。そうなっちゃうとぼくらとしてはやりようがない。そういう仕組みに対する、せめてもの反抗だよね。
KEN ISHII:AIにできないことをやると。
三原:そうそう。結局人はものを知ることは簡単になったけど、考えて選ぶことはしなくなった。それに対して、ちょっと待ってよ! っていう気持ちがあるんだよね。昔みたいにレコードを買うときの情熱みたいなさ。当時は全然情報なかったし、レコード屋さんで試聴するとか、それができなければジャケット見て買ってたじゃん。
KEN ISHII:賭けだったよね。冒険だよ。たしかに人はそういう冒険をしなくなった。する必要がなくなった。
三原:人が考えることをしないと世の中ダメになっちゃうから。でも、そこに天才とか救世主が絶対に現れると思うんだよね。90年代にケンケンがでてきたみたいに。あの時代に日本のテクノが認められるってすごい衝撃的なことだったから。
KEN ISHII:ありがとう。なんだか今日は褒められすぎてちょっと照れくさいけど(笑)。
三原:あれはそうなって当たり前だった。オリジナル性が高かったから。また話が戻っちゃうんだけど、やっぱりあの時代みたいに、明日なにが起こるかわからない空気が恋しいんだよね。

KEN ISHII:いろんなことが調べられるし、予想できる世の中だからね。曲づくりにしても、DJがミックスしやすいように最低限のことはやるんだけど、誰も予想しないひねりを適切に入れるとその曲が光ってくる。ある意味テクノは誰でもつくれるものになってるから、その人しか持ってないアイデアや個性を大事にしないといけなくなってるんだよね。
クラブへ行くにしても、むかしは予習なんてせずに行ってた。DJの名前は聞いたことあるけど、実際に現場で聴いたら噂以上だったとか、その逆もありえるし。でもいまは来日するDJとかもある程度オンラインでミックスが聴けるし、そこでジャッジしちゃうんだよね。あらかじめわかってるものに対してじゃないとお金を使えなくなってる。まぁ自分も同じことをすることもあるから、悪くは言えないんだけど。
三原:また音楽でもっと盛り上がる時代になってほしいよね。とくに若い世代の子たちに、さらに音楽のことを好きになってほしい。
KEN ISHII:本当だね。まぁ、よく言われる話ではあると思うけど、やっぱり現場に足を運ぶって大事なんだよね。同じ音楽を家で聴くのと、クラブやライブハウスで聴くのでは全然違うから。その違いを体感してほしい。家では一曲数百円で音楽がダウンロードできるけど、どうして人はわざわざ1万円も払ってフェスに行くのかっていうのが理解できるはず。その現象は世界で起こってるから。その一歩を踏み出して欲しいと思う。
三原:音楽とファッションって、文化としてすごく重要な位置にあると思うんだよね。若い子が入りやすい文化としてもそうだし。アートや小説ももちろん大事なんだけど、ある程度知識が必要だったりするじゃん。でも音楽とファッションに関して言えば、一目見て好きか嫌いかがわかるでしょう。そういう点ですごく重要だと思う。だからがんばらないと。ケンケンは最後になんか言いたいことある?

KEN ISHII:まぁ、今日久しぶりに会って話せてよかったよ。
三原:ぼくも。掘ったらもっとすごい話をがんがん聞けそうだよね(笑)。
KEN ISHII:海外で経験したいろんな話があるよ(笑)。
三原:いまのテクノシーンの話ももっと聞きたいよね。てか、LINE教えてよ。
KEN ISHII:あぁ、そうだね。今度ゆっくり音楽とか子育ての話もしよう(笑)。