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雄弁な本棚。vol.1 森永邦彦(アンリアレイジ デザイナー)
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雄弁な本棚。
vol.1 森永邦彦(アンリアレイジ デザイナー)

優れたクリエイターは、どんな本を読み、何を血肉としてきたのか。ときにひとを狂わせ、ときにひとを成長させる本というものについてのインタビュー。本棚を見せてもらうことは、そのひとの心の内を少しだけ覗かせてもらうことなのかもしれません。

コレクションテーマは、受験時の英単語帳から。

ー 大切な本は、折に触れて見返したりしますか?

見返すというと、本ではないですが、以前は好きなフレーズやことばをノートに貼って集めていました。そのノートは見返しますね。

ー 森永さんは本を読むときに、ストーリーよりもフレーズ単位やディテールに注目されるんでしょうか。

そうですね、ディテールに注目しています。服づくりを始める前は、大宰を読んでも、ひとりの作家の生き方として読んでいたんですが、服づくりをはじめてからは、服にまつわる細かな表現や描写などが気になるようになりました。そこから、そのひとが服をどう見ているか、というのがわかる節があります。

太宰の作品ですごく好きな『葉』の冒頭は、死のうと思っていたひとが麻の着物をもらったことから夏まで生きようと思ったという内容なんですが、その死のうと思っていたひとが素材のテクスチャーから、夏まで生きようと思ったというのは、すごい描写だなと感じました。

ー コレクションの前には、ことばを決めるとお聞きしました。ことばでなきゃいけない必然みたいなものはあるんですか?

ファッションは感覚やセンスで伝わっていくものではあるんですが、ロジックやストーリーを言語化すると、チームにも共有しやすいんです。なんとなくで服づくりをしないようにしていて、自分で言語化できないことは(服づくりとしても)やらないようにしています。いままでにないことばを服に変換していくことはあって、たとえば色が移ろっていく服だとか、影が残る服、ひとの体に合わない服などですね。それをシンプルなことばで言えて、さらにそのことばを聞いたときに服が想像できないようなことをいつもやりたいと考えています。

これは高校受験で使っていた英単語の本なんですけど、コレクションのテーマはここから取っているんです。カラーやリフレクト、クリアなど、6文字以内の単語をファッションと結びつけて、たとえば「サイレンス=沈黙」という服はどんなものだろうと、考えるのが好きなんです。

ー そういったことばは辞書の中で“光って”見えたりするんですか?

テーマのことばを見つけるのには時間がかかります。けれど、見つけてしまえばそこからは早いですね。たとえばユニフォームということばがあって、ユニとフォームで、ユニ→Unite→形をひとつにする行為があったとしたらとか。言語とは逆に考えて、ユニフォームだけど、ユニフォームっぽくないものはどんなものなんだろう、どうやってつくろうとか考えます。次のコレクションのテーマが「ユニフォーム」だとしたら、そのことばの意味をどう崩していくかってことがスタートですね。

ー ことばをシンプルにすることは、読書体験から学んだのでしょうか?

うーん…、シンプルにするのが難しいんですが、削ぎ落として、削ぎ落としていったほうが伝わりやすいというのは実体験としてもありますね。

アメリカ発のコレクターズマガジン『ヴィジョネア(VISIONAIRE)』の1997年に2800部限定で出版された〈コム デ ギャルソン〉号。実寸のドレスパターンが付き、20号目にして初のゲストエディターを迎えた記念すべき一冊。函は青と赤の2種類あり、青を最近入手した。川久保さんの熱狂的ファンである森永さんは、もちろん両色ともに所有済み。

ー こういった服づくりの仕方は独特だと思います。どのように確かなものにしてきたんでしょう。

ブランドスタートから10数年と、時間はすごくかかっています。実験的なことって1回だけでは難しくて、半年周期でコレクションを発表しなきゃいけないなかで、こういったやり方は非効率ですし、多くのひとがリスキーなことはやらないようにするのが当たり前。ですが、自分はみんながやらないことを粘り強くやり続けたいタイプなんで、それがどこかで一点突破することを信じているんです。ぼくだけでなく、このブランドのみんなが。

白い服に光を当てることで、色や柄があぶり出てくるシリーズ。世界的に珍しいその技術は〈フェンディ(FENDI)〉の目にとまり、2020秋冬コレクションで初のコラボレーションが実現した。

たとえば色素が変わる生地が開発できても、「それどうやって売るの?」ってよく言われますけど、ぼくらが続けないとそういった技術も消えてしまう。粘り強くやっていると、〈フェンディ〉からお話が舞いこんできてコレクションに採用されたりとか、そういった可能性があることも実証できましたしね。そういった他のひとが使わない武器や道具を作ることが、〈アンリアレイジ〉の特長なんじゃないかなと思います。

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